ベストSF2023

★ 投票数:

(2024年2月29日締切)












各投票者の推薦作

(到着順)


毛利 信明 さん

 相変わらずいろいろな事件や問題が起こった1年が終わりました。年を取ってあちこち調子の悪いところも出て、その度に医院通い。まあ入院することがないのが救いですが。目の病気を患っていて本を読むのもいつまでできるのか。中断している積ん読本をできるだけ消化したいとは思っているのですが。

 昨年のSF界では石川喬司氏(でてくたあ欄の書評が懐かしい)、豊田有恒氏(晩年まで小説ではないものの意欲的にノンフィクションの出版が)、海外ではマイクル・ビショップの訃報も。
 この1年のSF出版の様子を箇条書きにしてみますと、
@中国や韓国のSFの紹介が継続的に。中国SFでは劉慈欣、韓国ではキム・チョヨプが特に精力的に翻訳されているようです。

A国内外の短編集やアンソロジーの出版も相変わらず。チェコやギリシアのアンソロジーには驚き。印象に残っているのは『NOVA2023年夏号』『どれほど似ているか』『ヴァケーション』『AIとSF』『ロボットアップライジング』『乗物綺談』『京都SFアンソロジー』『大阪SFアンソロジー』『最後の三角形』など。

B懐かしい作家、作品の復刊や出版。たとえば山尾悠子氏の『迷宮遊覧飛行』『仮面物語』、読み逃していたホワイト『生存の図式』、スラデックの『チク・タク(×10)』など。

C若手作家の頑張り。ハヤカワSFコンテストでは『標本作家』『ダイダロス』『ホライズン・ゲート』、他の受賞作の『トゥモロー・ネヴァー・ノウズ』や『ノウイットオール』。他にも『芥子はミツバチを抱き』『無限の月』『沈没船で眠りたい』『君が手にするはずだった黄金について』など。

D久しぶりにガイドブック的な本の刊行、『SF超入門』『現代SF小説ガイドブック』、翻訳では『サイエンス・フィクション大全』。

 では、いつものように読んだ順に。
 今回はこれはという突出した作品がなく(決して不作だったというわけではないです)選ぶのに頭を悩ました。好みの問題かも知れませんが短編集にいいものが多かったような気が。

『回樹』(斜線堂有紀著・・・どれもどこからこの発想が生まれたのかと思わせるような特異な短編ばかり。作者の読書量の多さにも驚きだが何か関係があるのかな。ミステリ畑出身だがSF作家と称してもいいぐらい。最近の短編の執筆量に圧倒される)

『禍』(小田雅久仁著・・・ある意味ホラー短編集といっていいのだろう。「耳」や「髪」など体の部位をモチーフに不思議な展開をしていく作品の数々。まさに「奇妙」としかいいようがない)

『黄金蝶を追って』(相川英輔著・・・これも短編集。SFっぽい設定の作品も少なくないが「普通」のSFとは異なる趣。あとがきで作者がいろいろ語っているが、なかなかの力量の書き手)

『チク・タク(×10)』(ジョン・スラデック著・・・初期の筒井康隆氏を思わせるようなブラックユーモアあふれた作品で乾いたノワール物といえる。訳者鯨井氏は初訳書らしいが言葉遊びを訳語に生かして健闘)

『美しき血』(ルーシャス・シェパード著・・・シリーズ唯一の長編であり遺作。最後は竜の死で終わる。竜に人生を操られ翻弄される人間たちを細やかに描く。ある種の愛情を込めて)
 ベスト5以外には『アブソルート・コールド』(近未来アクション物)『WALL』(「壁」の設定がユニーク)『フランケンシュタインの工場』(SFミステリといっていい)『グラーフ・ツェッペリン』(青春SF)『ヘルメス』(この作者、SF寄りの作品が多い)『カーテンコール』(これまでの長い作家人生を網羅するような様々なパターンの作品が集められている。普通の作家ならとうに執筆を止めている高齢なのに意欲的に書いているのが凄い)など。

 さて、今年はどういう作品に出会えるのでしょうか。





鈴木 力 さん

昨年に続き投票します。各1点です。

『沈没船で眠りたい』新馬場新

AIによって労働から疎外された人間を描く近未来SF。普通なら機械に対する人間性の回復という話になるはずですが、本書は社会的な視点へ行かず、主人公の鬱屈した内面へ内面へと降りていきます。息苦しいけど読むのをやめられない傑作。

『不夜島』荻堂顕
終戦後間もない与那国島。サイボーグになった密輸業者の主人公が現代史の闇を駆ける。『ループ・オブ・ザ・コード』で見せた作者の豪腕は健在。過酷な世界に暗い個人の情念が対峙するという意味で、SFでは『サイボーグ・ブルース』、SF以外では梁石日『夜を賭ける』を連想しました。

『奏で手のヌフレツン』酉島伝法
酉島伝法が凄いのは、想像力の極限に挑むような世界設定と、トンガリまくった造語を使いながら、エンタメとしてのリーダビリティも確保していることだと思います。本書はマジで泉鏡花賞を狙えると思います。というか、これで獲れなかったら受賞作はどんなものだか拝見したい。

『多元宇宙的青春の破れ、唯一の君がいる扉』眞田天佑
MF文庫Jライトノベル新人賞佳作受賞作。各章のタイトルが先行する多元宇宙SFのもじりになっています。しかもただもじるだけでなく、内容も本歌取りしているという凄い凝りよう。特に最終章の換骨奪胎の上手さには舌を巻きました。SFファン的にはストーリーを追いつつ各所に仕掛けられたネタにニヤニヤできる二度美味しい小説。

『美しき血』ルーシャス・シェパード
過去作の登場人物も出てくる、まさにシリーズの集大成的な長編。もともとはレーガン政権下の政治的寓話として構想された小説が、どうして時代や国家を超えて普遍的な話になったのか、考えてしまいました。





木 海 さん

初めまして、中国の翻訳者と書評家の木海です。 中国版『SFが読みたい』への参加は以前から続けておりますが、日本SFの年間ベストを選ぶのはこれが初めてです。
2023年の日本SFはまだまだ見逃せない作品が多く、翻訳出版可能な短編を編集者に推薦するために、私自身が読んだ短編は数多く、選ばれた5冊のうち4冊が短編集でした。
順位は特に決めておらず、それぞれに1点を付けました。

『わたしたちの怪獣』久永実木彦

非人間的な設定(怪獣や吸血鬼など)の活用が巧みで、ストーリーの展開も新鮮です。タイムスリップというよくあるテーマであっても、その言葉遣いには独自の魅力があり、空想を超えてキャラクター間の関係性を描き出すことに焦点を当てています。

『黄金蝶を追って』相川英輔

ファンタジーとしての味は薄く、むしろ青春文学のような雰囲気が感じられます。神秘的な間隔の日々の中で、チャンピオンを目指して奮闘する少年と、その少年を応援する少女の姿に、心から感動しました。

『回樹』斜線堂有紀

なんというすばらしい想像力! 死体が人間の属性から離れ、道具のように扱われる場面には、衝撃を受けました。

『トゥモロー・ネヴァー・ノウズ』宮野優

『時間之墟』(日本語訳なし)のような、閉じ込められた一日が無限に繰り返されるという設定で、母が娘の復讐を遂げるという初めのストーリーが素晴らしく、その後も予想外の衝撃が続き、楽しませます。

『エレファントヘッド』白井智之

物語が進行するにつれて次々と爆発が起こり、時間や空間、道徳や倫理を超越したスリルを生み出します。





さあのうず さん

各1点で。

『チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク』 ジョン・スラデック

ほとんどノワールとしかいえないようなあらすじがコメディに仕立て上げられているセンスが作者ならでは。

『赦しへの四つの道』アーシュラ・K・ル・グィン

≪ハイニッシユ・ユニバース≫の作品集で、原書では1995年刊行だが、差別・抑圧といった非常に今日的な問題が精緻に描き出されている。

『文明交錯』ローランド・ビネ

インカ帝国がスペインを侵略した世界が描かれるが、単なる逆転ではなく、細部まで考察されており、改変歴史ものの深化が感じられる。

『回樹』斜線堂有紀

どこから思いついたのかというような奇抜な発想とミステリ作家らしい演出が見事に融合した作品が並ぶ傑作短編集でした。

『ガーンズバック変換』陸秋槎

こちらもミステリでも活躍する作家による短編集ですが、ブッキッシュな味わいの強い幻想〜SF小説集で素晴らしかったです。





Takechan さん

最近では本格的なSFの出版は減っているようで、下記の5作品に一点づついれてください。
それ以外では、 現代中華SF傑作選「宇宙の果ての本屋」や宇宙探査SF傑作選 「星、はるか遠く」 が楽しめた。今後も続けてほしいアンソロジーである。
『標本作家』 小川楽喜

このような作品を書いた著者は、今後どんなSFがかけるだろう。

『文明交錯』 ローラン・ビネ
歴史改変SFの傑作。「銃・病原菌・鉄」を読んでいると楽しめる。

『チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク』 ジョン・スラディク
筒井康隆ばりのピカレスクロボットSFで、翻訳の苦労がみられる。

『未来省(The Ministry for the Future)』 キム・スタンリー・ロビンソン
地球温暖化テーマの近未来SF、本書でも未来省の幹部は、ロシアにより暗殺される。

『美しき血 竜のグリオールシリーズ』ルーシャス・シェパード
竜シリーズの掉尾を飾るにふさわしいマジックリアリズムの傑作。





山口 素夫 さん

劉慈欣 「円 劉慈欣短編集」 2点
筒井康隆 「モナドの領域」 1点
相変わらず、最近作はあまり読んでおりません。
「モナドの領域」の出版は、2023/1/1(!)なのでぎりぎりセーフでした。
一方、高山羽根子さんの「首里の馬」がとてもおもしろかったのですが、残念ながら2022/12/23発売! 一週間の差でした。
「チク・タク(x10)」はとても面白いのですがまだ途中までしか読んでないので、これも残念ながら選外とします。




森下 一仁

振り返ってみると、読み応えのある作品が多かった。ル・グィンの『赦しへの四つの道』が5作に入りきらなかったのが残念。
ほかにも読み落としている作品がいくつもあることを考えると実り多い1年でした。
『最後の三角形 ジェフリー・フォード短篇傑作選』 ジェフリー・フォード(谷垣暁美編訳、東京創元社)

『チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク』 ジョン・スラデック(鯨井久志訳、竹書房文庫)

『アブソルート・コールド』 結城充考(早川書房)

〈シリーズ百字劇場〉 『ありふれた金庫』『納戸のスナイパー』『ねこラジオ』 北野勇作(ネコノス文庫)

『奏で手のヌフレツン』 酉島伝法(河出書房新社)

ジェフリー・フォードは現代の作家の中でも図抜けている気がします。訳文も想像力を刺激して素晴らしい。
『チク・タク……』は40年も前の作品でありながら、今の人類の状況を指弾しているようで、ある意味、ゾッとします。
『アブソルート・コールド』、〈シリーズ百字劇場〉、『奏で手のヌフレツン』はそれぞれ傾向はまったく違うものの、作家の描き出す世界の独自さに魅了されました。




幸重 善爾 さん

各1点でお願いします。
『グラーフ・ツェッペリン あの夏の飛行船』 高野史緒

『腿太郎伝説(人呼んで、腿伝)』 深堀骨

『黄金蝶を追って』 相川英輔

『わたしたちの怪獣』 久永実木彦

『ありふれた金庫』 北野勇作

『ありふれた金庫』は北野さんの【シリーズ 百字劇場】全体への評価です。
『腿太郎伝説(人呼んで、腿伝)』は鬼才深堀骨さん二十年ぶりの新作にもかかわらず、SF界から黙殺されてしまった印象。「やっぱグロが過ぎたので、みな引いちゃったのかなぁ」と。でもエイモス・チュツオーラの『やし酒飲み』が好きな人は大丈夫なんじゃないんですかね。食わず嫌いはもったいない怪作です。「おまえが薦めるから読んだけど、読むんじゃなかった」となっても「当局は一切関知しない」ですけど。
海外作品は投票時点で読了したのがありませんでした。




maria さん

可愛らしく2冊だけですが
『白亜紀往事』 劉慈欣  2点

ジュブナイル感もありましたが、テクノロジーの進歩と責任、異なる種族との共存について、考えさせられました。

『ボクハ・ココニ・イマス』 梶尾真治 2点

人との心の繋がりが、生きる力と人の命を救いたいという力を産み出す… 心温まりつつ、少しミステリーっぽさもありました。







ベストSF2023
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