ベストSF2022

★ 投票数:10










各投票者の推薦作

(到着順)


毛利 信明 さん

年を取るとあっという間に時が経ち、先週見たTV番組がもうということがよくあります。このベストSF投票の時期も同じように感じます。さて3年にわたってコロナ禍が続き、エッセイや小説にも当たり前にコロナをテーマにしたものが増えてきました。いつまでこのコロナ禍が続くのでしょうか。

昨年のSF界の印象をいくつか。

①相変わらず中国や韓国のSFの紹介が盛ん。例をあげると『流浪蒼穹』『走る赤』『三体X』『極めて私的な超能力』『地球でハナだけ』など。

②国内外を問わずアンソロジー出版の増加。『創られた心』『黄金の人工太陽』『ギフト』『新しい世界を生きるための14のSF』『新月』『この光が落ちないように』『ifの世界線』など。

③懐かしい作家作品の復刊や出版。『影絵の街にて』『ヴィリコニウム』『人類よさらば』『地球の平和』『マゼラン雲』『大人になる時』『いかに終わるか』『平成古書奇談』『SFする思考』『仕事をください』(未読の「その夜」が良かった)『明日をこえて』など。日本の作品はほぼ日下三蔵氏編集、いつもながら凄い仕事量。

④期待している竹書房では『ヨーロッパ・イン・オータム』『九段下駅』ぐらいで注目本があまり刊行されなかったのは編集者水上氏の体調不良のため?

では、いつものように読んだ順に。

『血を分けた子ども』(オクテイヴィア・E・バトラー著・・・作者の短編をほぼ網羅した作品集。再読しても心がうずくようなものばかり。立場の反転、依存・支配、保護・搾取など様々な「関係」を描いている。原題や既訳の記述がないのに少し不満。ところで刊行予定だった長編はいつ出版?)

『いずれすべては海の中に』(サラ・ピンスカー著・・・ネビュラ賞作品やSFミステリを含む異色短編集。長編も良かったが短編も捨てがたい。作風はある種ケリー・リンクを思わせる。主人公たちが同性のカップルが多いのも特徴なのかな)

『流浪地球』『老神介護』(劉慈欣著・・・ベイリーの作品を思い起こす奇想天外な「山」を始めとする読み応え充分な短編集。『三体』にもいえることだが設定が馬鹿馬鹿しいが執筆に対する熱意が清々しい。作風は小松左京に似ている気がする、ハチャメチャな所も含めて)

『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』(長谷敏司著・・・バイク事故で右脚を失った主人公がAI義足をつけることになり、エンジニアと話し合いながらダンスにふさわしい義足を作りあげていく過程、認知症の父との葛藤。ふたつのテーマが大きく動いていき、最後のAIとのダンスへとつながる。まさに力作)

『クロノス・ジョウンターの黎明』(梶尾真治著・・・「エマノン」シリーズと同じように「クロノス」クロニクルも大好き。タイムトラベルと恋愛物語のコラボは「鉄板」でいうことなし。今回は長編で誕生秘話ともいうべき作品)
ベスト5以外には『獣たちの海』(相変わらぬ読み応え)『逃亡テレメトリー』(定番の読後感)『走る赤』(初紹介の作家が大半、バラエティに富んでいて良い作品選定)『アグレッサーズ』(新しい登場人物もふえて、ますます目が離せない)『神々の歩法』(シリーズ化の予感)『孤立宇宙』(SFプロパーの作家ではないが拾いもの)『君のゲーム』(こういう解釈もあるのか、『地図と拳』は途中で挫折)『時ありて』(描写にしびれる)『ヨーロッパ・イン・オータム』(SFスパイミステリ? 読ませるけど変な味わい)『九段下駅』(近未来の分断された東京を舞台としたSFミステリだがいい意味で変)。
ひとつひとつ題名はあげないが特に若手作家の数多くの作品発表にはうれしさと期待。

さて、今年はどういう作品に出会えるのでしょうか。




岡田 研一 さん

評論作品から4作品のみとなります。

2点
『翻訳を産む文学、文学を産む翻訳/藤本和子、村上春樹、SF小説家と複数の訳者たち』邵丹

2点
『SFの気恥ずかしさ』トマス・М・ディッシュ
昨年は、この上記2作品が刺激的でした。特に、邵丹の評論はSF読者に、あまり届いていないようなので、是非ともお薦めです。  
0.5点
『SFのSは、ステキのS+』池澤春菜
0.5点
『ストレンジ・スターズ ― デヴィッド・ボウイ、ポップ・ミュージック、そしてSFが激発した十年』ジェイソン・ヘラー






放克犬(さあのうず) さん

1.『血を分けた子ども』オクテイヴィア・E・バトラー 1.25点
 人間や社会を見つめる透徹した眼差しに胸を打たれました。

1.『SFの気恥ずかしさ』トマス・M・ディッシュ 1.25点
 ディッシュの評論はたしかに辛辣で皮肉屋ではありますが、対象に向かう誠実さがあります。なので明晰で必ずしも難解ではなく、時に作品解読のポイントを指南してくれる親切さすら感じられます。アメリカにおけるSF批評史をまとめた若島正解説も秀逸。

3.『アフロフューチャリズム ブラック・カルチャーと未来の想像力』イターシャ・L・ウォマック 1点
 大好きな分野です。概論的な側面が強い内容ですが、本格的な紹介本の登場に拍手。

3.『時ありて』イアン・マクドナルド 1点
 本を介して、時を超えたラヴ・ロマンスが展開する、SFの伝統的なモチーフが文学的技巧的に構築されている作品。

4.『異常』エルヴェ・ル・テリエ 0.5点
 タイトル通りに異常な状況が描かれるのですが、多彩な登場人物らによるオムニバス短篇集ともいえます。表現もバラエティに富んでいて、序盤少し戸惑いますが、途中からは息もつかせない作品でした。





nyam さん

たまたま古本屋で、カレルチャペックのエッセイ集『未来からの手紙』をみつけたのですが、内容的にはSFでした。ミステリーの中にも『ループ・オブ・ザ・コード』などSF風味の作品が増えている気がします。今後もスプロール化していくSFを追いかけていきたいと思います。

2022年は、『いずれすべては海の中に』や『黄金の人工太陽』の短編集が面白かった。また、レムの『マゼラン雲』やハインラインの『明日をこえて』が翻訳されてうれしかった!(後者は駄作ですが・・・。扶桑社さん、ごめんなさい)。

さて、2022ベストSF(各1点)は、

『NSA』 アンドレアス・エシュバッハ 上・下 ハヤカワ文庫SF

第二次大戦中に携帯電話が普及したナチスドイツ。国民の監視に当たるNSA職員の運命はいかに。面白くて、不快で、恐ろしい作品です。

『最後の宇宙飛行士』 上・下 デイヴィッド・ウェリントン ハヤカワ文庫SF

NASAが中国に負けるのはともかく、IT企業にも追い越されてしまうなんて・・・。公共サービスを民間企業に任せるとこうなってしまうのかなあ。

『時ありて』 イアン マクドナルド 早川書房

詩的で古風な香りがあります。時間旅行についての推理に、ムフフとなってしまいます。

『マゼラン雲』 スタニスワフ・レム 国書刊行会

最近のSFがあっという間に古びてしまうのに対して、レムの寓話は今も新しいです。

『誰?』 アルジス・バドリス 国書刊行会

予想と違うストーリー展開と物語の構成!ちゃんと理解していないのかも。読み直してみます。


●再発見賞 『ウェイキング・ライフ』 2001年 リチャード・リンクレイター監督

実写映像をデジタルペインティングで加工したアニメーション映画。ちょっとくせになる。






Takechan さん

今回は、5作品選べなかったので以下の4作品に一点ずつ入れてください。

『マゼラン雲』 スタニスラフレム

生前、レムが翻訳を許可しなかった作品が読めてよかった。

『いずれすべては海の中に』 サラ・ピンスカー

ミュージシャンとSF作家の二刀流の短編集。

『そして、よみがえる世界。』 西式 豊

ミステリー大賞を受賞しているが、SFとしてのほうがおもしろい。

『三体0【ゼロ】 球状閃電』 劉 慈欣

劉 慈欣は、短編よりも長編小説のほうがよいと思う。

ハヤカワSF文庫も創元SF文庫も、読みたいものはあまり出ない が、竹書房文庫は『ヨーロッパ・イン・オータム』など興味深い作品を出している。




森下 一仁

内外、長短編とりまぜてかなりむずかしい選択となりました。各1点。

『流浪地球』/『老神介護』 劉慈欣
『NSA』 アンドレアス・エシュバッハ
『いずれすべては海の中に』 サラ・ピンスカー
『新しい世界を生きるための14のSF』 伴名練
『プロトコル・オブ・ヒューマニティー』 長谷敏司

劉慈欣さんは、毛利さんにならって、2冊をひとつの短編集とみなしました。
小川哲『地図と拳』、藤井太洋『第二開国』もすばらしかったのですが、SF色が薄いので選外となりました。




山口 素夫 さん

2022年に出版されたSFを2冊読みました。 (ぎりぎりまで頑張ってみましたがやはりこれ以上は無理でした)

『創られた心 AIロボットSF傑作選』 2点

『逃亡テレメトリ- マーダーボット・ダイアリー』 マーサ・ウェルズ 0.5点

読書量が少なくてすみません。4月からは少し時間に余裕ができるのでもっとSFを読みたいと思います。




maria さん

『時ありて』イアン・マクドナルド 1点

最初は、普通の小説っぽい感じでしたが、途中からSFに展開。

『流浪蒼穹』郝景芳 4点

描写がとても詩的で美しく、バーチャルの様にスーッとその世界の中に自身が入り込んで行きました。





鈴木 力 さん

久しぶりに投票します。各1点です。

『アナベル・アノマリー』谷口裕貴

語弊を恐れず言うなら、伊藤計劃のデビュー以前に発表されたポスト伊藤計劃作品。書評らしきものを書いたので詳しくはこちらを。https://note.com/rickeysack/n/nf8a994355c88

『ループ・オブ・ザ・コード』荻堂顕

対して明確にポスト伊藤計劃を意識した作品がこちら。あり得ないような設定を読者に呑み込ませる豪腕ぶりがすごい。SF大賞の候補作にならなかったと知ったときはビックリしました。

『時ありて』イアン・マクドナルド

この作者らしい超絶技巧の一編。横田順彌作品やライバー『闇の聖母』にも比肩する古本SFでもあります。

『いずれすべては海の中に』サラ・ピンスカー

良質の短編多数ですが個人的には、平凡な老夫婦の物語が、登場人物の一言で反転する「深淵をあとに歓喜して」が好きです。

『やりなおし世界文学』津村記久子

芥川賞作家による読書エッセイですが、ドストエフスキーやディケンズなどに交じってディック、ラファティ、ギブスンなどSFも多数採り上げられています。著者の関心は「個人と世界の関わり合い」にあるようで、読み方も平均的なSF読者とは違うのですが、それだけに斬新で説得力もあります。特に『1984年』については、こんな方向からの全体主義批判もあったのか!と目ウロコでした。SFに限らず、一つ一つの作品と真摯に向かい合う著者の姿勢に打たれます。






幸重 善爾 さん

『本の幽霊』西崎憲 『法治の獣』春暮康一) 『残月記』(小田雅久仁) 『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』長谷敏司 『鯉姫婚姻譚』藍銅ツバメ) 各1点

昨年は新刊書を少し読んだので参加させていただきました。

西崎憲氏の『本の幽霊』はジャンルとしてのファンタジィと主流文学の境界を軽やかに乗り越えた作品集としてぼく好みでした。  
長谷敏司氏の『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』は、大力作であるのは認めた上で、もう少しAI義足側の認識状況を描いてくれたら、〈人間と全く異質なものを擬人化することなく描く〉という難事に果敢に挑戦した作品として昨年のベストになったと思います。

海外は『プロジェクト・ヘイル・メアリー』以外読んでませんが、ファースト・コンタクトものとしては「簡単に理解し合え過ぎやろ」と不満でした。米国産娯楽小説としてならこれでいいのでしょうけど。

おのれの遅読ぶりをさらすべく、『SFが読みたい! 2023年版』のベスト30に入った作品で、積読のものを列記しておきますと、 【国内】『まず牛を球とします』『ゴジラS.P』『アグレッサーズ 戦闘妖精・雪風』『2084年のSF』『ベストSF 2022』『大日本帝国の銀河』『SFアンソロジー 新月』『クロノス・ジョウンターの黎明』 【海外】『いずれすべては海の中に』『異常 アノマリー』『血を分けた子ども』『NSA』『ヨーロッパ・イン・オータム』『とうもろこし倉の幽霊』『極めて私的な超能力』『ファニー・フィンガーズ』『不死鳥と鏡』『フィッシャーマン 漁り人の伝説』

2023年は頑張ってもう少し新刊を読みます。長文失礼しました。

森下註:『残月記』は2021年刊なので集計外とさせていただきます。(2021年のリストに入ってますね)




















ベストSF2022
投票募集のお知らせ




 2022年は大変な年でしたが、それでもやります、読んで良かったSFアンケート。
じっくり選んで投票してください。

 2022年1月1日から12月31日までに国内で出版されたSF(奥付の日付で判断してください)で、あなたがおもしろかったと思うものをEメールで投票してください。要領は次のとおりです。

  • 日本語で読めるもの(電子書籍のみで出版された作品は、活字デビューされている作家のものに限らせていただきます)。最終集計で海外作品と国内作品に分けます。

  • 1人5作品まで推薦可能。もちろん、1作品でも構いません。

  • 点数集計:推薦者1人が5点を所有し、推薦各作品に割り振る。指定のない場合は、均等に配分する。
    例1:ゼレンスキー『不屈』―4点、ナガトモ『ブラボー!』―1点
    例2:トラ「ガオオッ!」、ウサギ「……」、タツ「ブフォーッ!。(配点指定がないので各1.667点)
  • 投票期間:2023年2月28日(火)午後12時まで。

  • 投票先:こちらのフォームを使い、タイトルに「ベストSF投票」と明記してください(スペースが足りない場合は、何通かにわけてお送りください)。

  • 発表:投票があり次第、途中経過を発表してゆきます。

  • ランキングとは別に、各人の推薦リストも掲載します。作品への簡単なコメントもぜひお書きください。お名前の他にSNSアカウントも併記できます(個人名を公表されたくない方は、その旨お書き添え願います)。

昨年の結果

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