ベストSF2016

★ 投票数……12








各投票者の推薦作

(到着順)


毛利 信明 さん

 また1年が過ぎました。今年も積ん読本にほとんど手をつけることができませんでした。仕事もなく読書の時間は有り余るほどあるのに気持ちの方がついつい新しい本へと向いてしまうものですから。
 昨年は回顧(懐古ともいえます)というか総決算的な出版が目にとまったように思います。紀田順一郎『大伴昌司エッセンシャル』、牧眞司編『きまぐれ星からの伝言』、大森望『現代SF観光局』、牧眞司『JUST IN SF』、常盤新平『翻訳出版編集後記』など。あと印象に残っているのはショートショート作家の田丸雅智の活躍(勢いを感じます)、何冊の本が出たか計算できないくらいです。
 さて、いつものように読んだ順にマイベストを。

『あまたの星、宝冠のごとく』(ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア・・・ついに最後の短編集、気のせいか何か宗教的な雰囲気が強いような)

『大きな鳥にさらわれないよう』川上弘美・・・緩やかなしばりの川上版未来史ともいうべきもの。不思議にどこか懐かしい手触りのSF)

『死の鳥』ハーラン・エリスン・・・本邦2冊目の短編集! 今読んでもとんがったところがいい)

『夢見る葦笛』上田早夕里・・・久しぶりにSFらしい短編集を読む。SFのエッセンスがあふれている)

『ユナイテッデ・ステイツ・オブ・ジャパン』ピーター・トライアス・・・表紙絵を見て単なるオタクSFと思っていたが読後感は悪くない。訳文が軽快で読みやすさ抜群)
 今年は著名な作品の新訳や改訳が目立ったようです。上記以外では気になった作品としては『ブロントメク!』(サンリオ版は積ん読状態)『ロックイン』(同じようなテーマとして『代体』もおもしろかった)『彼女がエスパーだったころ』(似非科学のフィクション?)『宇宙探偵マグナス・リドルフ』(もう1冊『天界の眼』も)『青い海の宇宙港』(ジュブナイルの王道)『J・G・バラード短編全集1』(なぜか短編集をよく読んでた学生時代を思い出す)『ヴィジョンズ』(粒よりの作品が集まっている)『翼のジェニー』(登場人物に医師が多いのはなぜ?)『ゴッド・ガン』(まさに「奇想の世界」続出)なども。




放克軒(さあのうず) さん

『エターナル・フレイム』グレッグ・イーガン 1点
 このシリーズは物理学の根本から世界を作り上げるアイディアと主人公たちのSFとしてはオーソドックスな擬人化という組み合わせをどうとらえるかだと思うが、個人的にはユニークなチャレンジとして評価をしたい。
『死の鳥』ハーラン・エリスン 1点
 エリスンのベスト選集だから当然面白いのだが、個人的には“Deathbird Stories"の全訳が出て欲しかったなあ。
『宇宙探偵マグナス・リドルフ』ジャック・ヴァンス 1点
 事件を解決するのが爺様探偵というのからしてセンスが秀逸。ヴァンスはやっぱり楽しい。
『ロデリック』ジョン・スラデック 1点
 個性的な登場人物のすれ違いによるSFコメディ。妙な凝り性ぶりが細部に見られるのも可笑しい。
『ゴッド・ガン』バリントン・J・ベイリー 1点
 意外に多彩な作品を残していたことが分かる好短編集だった。ベイリー入門編に最適。

質は高かったのは間違いないけど、ちょっと古い作品ばかりになっちゃったな・・・。2017年はもう少し新しいものも読まなくては。




らっぱ亭 さん

ベストSF2016(各1点)
鴨志田一『青春ブタ野郎はハツコイ少女の夢を見ない』
宮内悠介『スペース金融道』
北野勇作『カメリ』
ケイト・ウィルヘルム『翼のジェニー』
つばな『第七女子会彷徨』
ついでに短篇ベスト5
石川博品「トラフィック・キングダム」
伴名練「なめらかな世界と、その敵」
倉田タカシ「二本の足で」
飛浩隆「海の指」
ケン・リュウ「烏蘇里羆」
 SF者もアラフィフになってくると「青春SFが好きだー」と恥ずかしげもなく 宣言できるのだ(個人差あり)。ちなみに「青春SF」とは、思春期というきわ めて短くも濃厚で特殊な時期がはらむ様々な葛藤や不安定さや対人関係や愛と 性や閉塞感などがテーマやプロットに密接に関連したSFじゃないかなあと思う ので、今年の収穫として、鴨志田一『青春ブタ野郎』シリーズ(電撃文庫)と 石川博品「トラフィック・キングダム」をオススメしたい。

 『青春ブタ野郎』シリーズは青春SFラノベ好き必読かつ量子SFクラスタ必読。シリーズ第1巻『青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』では少しフシギ系ラノベと思わせておいて、巻を重ねるごとにSF設定増し増しに。そして第7巻『青春ブタ野郎はハツコイ少女の夢を見ない』では怒濤の展開を経てひとまず感動の決着をみる(久々に泣いたぜ)。

 石川博品「トラフィック・キングダム」。道路は疾走する車の群れに占拠され、人間は街中に張り巡らされた高架リンクをパケットに乗って移動する閉塞感溢れる近未来。DQNな少女たちは夜毎つるんでパケットで暴走する。これもまた、青春。

 宮内悠介は基本ハズレなしの作家だが、なかでも『スペース金融道』は一番好きなシリーズで、単行本化を待ちかねた一冊だ。それらしくも何が何やらわからない金融理論が展開され、非道い上司とヒドい女性教授に翻弄される語り手と一緒に宇宙と電脳世界と暗黒網を引きずり回されていたら……あれあれ、何だかシアワセだぞ。
 今年はさらに2冊。『アメリカ最後の実験』ではアメリカの混沌と闇と家族の問題を背景に、音楽の力と可能性と魅力と狂気が描かれる……ってなんか重そうなテーマにも思えるがご心配なく。リーダビリティ抜群で人を魅了する謎楽器、人心を操る演奏、人体を損壊する楽曲とスリリングな異能バトルの興奮も味わえる。『彼女がエスパーだったころ』は疑似科学テーマの疑似ドキュメンタリー。これも好きだなあ。SFじゃなくってPSF (Pseudoscience Fiction)。ミステリの風味を効かせた中間小説的アプローチで日本の「今」に切り込んでくる手際はさすが。

 北野勇作『カメリ』は読了までにけっこう時間がかかったなあ。ふと思いついたときに一篇づつ、ぽつりぽつりと読んでいったのだ。まさに『カメリ』の歩みだったが、そんな読み方が似合う作品なのかもしれない。今日もまた、ヒトがいなくなってしまった世界でヒトデナシたちは泥の中にニセモノの世界を再生しようとする。その情景は可笑しくて、少しもの哀しくて。そしてまた、なんだか楽しげところはたぶんホンモノなのだ。

 ケイト・ウィルヘルム『翼のジェニー』。甘いロマンチックSFはちょっと……と敬遠しているあなた。確かにその側面はあれど、同時に途轍もなくクールでビターでクレバーな作品集。読み解きに知力と感性を共に求める、ある意味ジーン・ウルフ以上の手強さ! ケイト・ウィルヘルムのSFは発表後半世紀を経ても古びないタイプの作品で、今こそ再評価の時だ。
 そしてまた、同世代の女性作家たち、マーガレット・セントクレア、キット・リード、キャロル・エムシュウィラーなど、魅力的なSFが未訳のまま紹介されるのを待ち構えているぞ。

 そしてついに完結したSFコミック、つばな『第七女子会彷徨』。最初は少しフシギなゆるい日常系SFかと思ってたら、最終巻はまさかの大感動がー。

 今年はラファティ新刊出なかったー。ぷんすか、と思っていたら『地球礁』文庫化。YOUCHANの装画は数あるラファティ・カバーの中でも屈指の出来なのでお見逃しなく! そして『アステロイド・ツリーの彼方へ』収録の伴名練「なめらかな世界と、その敵」では、ラファティの「町かどの穴」インスパイアな疾走するガールミーツガールSFにゼッキョー!

 倉田タカシ「二本の足で」(SFマガジン4月号)。移民政策が進んで多民族社会となった近未来の日本。AIの発達でネットに蔓延するスパムが具現化したウザいゆるキャラめいたシリーウォーカーたちが跋扈する。そしてついにはヒトそのものに上書きされた(らしい)スパムが出現したのだが……傑作だー! いやあ、伴名練と倉田タカシははやく短篇集を出して欲しい双璧ですなあ。

 飛浩隆「海の指」(『ヴィジョンズ』)。うん、SFはやっぱり絵だねぇ。幻想の未来もソラリスも生物都市もエヴァも皆勤の徒も通過してきた今のぼくらに迫ってくる、変容した世界の様相。それは新しくもどこか懐かしい。

 ケン・リュウ「烏蘇里羆」(SFマガジン4月号)は傑作「良い狩りを」と同じ世界観で描かれた、近代アジアのスチームパンクな改変世界を舞台に新旧の世界のドラスティックな転換をどう生き抜いていくかって話。したたかな妖魔たちのシリーズって感じかな。

 さて、ランクに入れられなかった作品もいくつか挙げておこう。
 まずはラノベ。個人的に今年のSFラノベはオキシタケヒコ『筺底のエルピス』と『青春ブタ野郎』シリーズが双璧なのだが、いずれもちょうど一区切りなので読むなら今だぞ。エルピスはラノベなSFなのでラノベクラスタはもっと読め! 青春ブタ野郎はSFなラノベなのでSFクラスタはもっと読め! と二方向に煽っておき たい。

 手代木正太郎『魔法医師の診療記録』シリーズ。タイトルとカバーでありがちな異世界ファンタジーと思っちゃダメだぞ。SFクラスタも医学クラスタも見過ごせない科学と疑似科学とニセ科学ネタがてんこ盛りなメディカル・マジカル・ワイドスクリーンバロックだ。山田風太郎もびっくりな医学系異能バトルに驚け!

 峰守ひろかず『絶対城先輩の妖怪学講座』シリーズは怪異・妖怪のSF的解釈が愉しい伝奇ラノベ。ダイダラボッチがまさかのバイオSFだったとはー。

 SFマガジン掲載中の宮澤伊織『裏世界ピクニック』シリーズはくねくねに八尺様と洒落コワ系都市伝説のSF的再解釈+ストルガツキー『ストーカー』なアドベンチャーの女子大生バディものって、何コレ美味すぎるぞ。2月にハヤカワ文庫JAにまとまるのが楽しみだ。

 今慈ムジナ『ふあゆ』。トラウマにより人間の顔がまともに認識できず動物や器物に視えてしまう少年ツクシは、陰惨な殺戮を繰り返す怪異と対峙する。ツクシ視点の認識が歪んだ悪夢的サイケな世界の描写に、城平京『虚構推理』を髣髴させる認識論的な怪異成立理論。

 ホラー・幻想小説系ではポーランドのポーとも呼ばれるステファン・グラビンスキの短篇集『狂気の巡礼』を。フォーティアンな狂気に蝕まれた男が破滅へのピタゴラスイッチを押してしまう「接線に沿って」、砂金を求め北米大陸の人外魔境でインディアンの魔法と対峙するポーランドの小栗虫太郎「煙の集落」、エピキュリアンと冷徹な科学の徒に分裂したダブルの顛末を描く「チェラヴァの問題」など。

 国内では澤村伊智『ずうのめ人形』が面白かった。今の日本のリアルと洒落コワ+伝奇的なホラーがピタリとはまった『ぼぎわんが、来る』には驚かされたが、さらに凶悪さがエスカレートした迫り来る怪異はもはやテロリズム! ウォルトン『図書館の魔法』を思わせる孤独なホラー大好き少女の語りにも注目だ。

 海外SFではピーター・トライアス『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』。21世紀版『高い城の男』と呼ばれるだけあって、ディック好き必読の傑作SFだ。単に高い城の男の設定をパロったんじゃなく、隅々にディックが息づいているぞ。日本発の文化を絶妙に取り込み、ありえたかもしれないおぞましくも魅力的なディストピアを描く本作は是非とも日本で映像化すべし!
 そしてピーター・トライアスのオタク魂を余すところなく汲み取った翻訳はお見事!の一言。効果的な関西弁キャラのインパクトが作者にも届くといいなあ。

 ケン・リュウ『蒲公英王朝記 巻ノ二 囚われの王狼』。うわあ、シルクパンクすげー。古代中国の歴史物語を見事に換骨奪胎し、モダンとクラシックが渾然一体となった超絶面白いエンタメだ。ワクワク感溢れるSFガジェットが適度にちりばめられ、キャラのたった登場人物は敵も味方もなんとも愛おしい。

 海外SFの短篇集では、ハーラン・エリスン『死の鳥』、伊藤典夫翻訳SF傑作選『ボロゴーヴはミムジイ』、キジ・ジョンスン『霧に橋を架ける』の文庫化も良かった。

 国内SFでは、パルプ愛・特撮愛に溢れる山本弘『怪奇探偵リジー&クリスタル』が、装丁も中身もキッチュな魅力たっぷりで、時々脱線して怒濤の蘊蓄語りになるのもまた良し。
 そしてweb発の話題作、柞刈湯葉『横浜駅SF』はSFマガジン2月号のレビュウで推したのでよろしく!




山口素夫 さん

『あまたの星、宝冠のごとく』ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア 1点
まだ未訳の短編集があったとは・・・嬉しい驚きで、大事に味わいながら読みました。
『オービタル・クラウド』藤井大洋 1点
日本SF大賞受賞の傑作を今頃になってようやく読みました。確かに評判通りスケールの大きな名作です! 翻訳して世界中の人にも読んでほしいです。
『カメリ』北野勇作 1点
いつもながらの北野ワールドですが、なぜかほっこりとして温かな気持ちになります。かわいいカメリとりりしいアンのコンビが実にいいし、マスターや常連客たちとのやりとりも何だか昔の日本映画を見ているようです。
『ロボット・イン・ザ・ガーデン』デボラ・インストール 1点
似た作品があったような気もするのですが(最近、ますます記憶に自信なし)、すぐにも映画化(実写で!!)してほしい作品です。わがままロボットのタングがかわいすぎる!
『宇宙探偵マグナス・リドルフ』 ジャック・ヴァンス 1点
ファンタジー系の作家と思っていて今までほとんど読んだ記憶がなかったのですが、めちゃくちゃ面白いではないですか!「切れ者キューゲルの冒険」も早く読まねば。




nyam さん

今年は北欧ミステリとなつかし邦画DVDに没入していました。短編集が集中的に?出版されたため長編は後回しになっています。
『プランD』 ジーモン・ウルバン 早川書房・・・パラレルワールドもの。日本と違い、ドイツ万歳にならないのが特徴。

『ハリー・オーガスト、15回目の人生』 クレア・ノース 角川文庫・・・なんだか日本のラノベ的なネタ。

『ロックイン ―統合捜査― 』 ジョン・スコルジー 早川書房・・・ドローンも進化して、無人化人間登場?

『虚構の男』 L・P・デイヴィス 国書刊行会・・・フレドリック・ブラウンの短編を長くしたような作品でした。

『バーナード嬢曰く。3』 施川ユウキ 一迅社・・・コミックスですが。

     (以上各一点ずつ。)
また、今年は短編集が豊作で、『死の鳥』『宇宙探偵マグナスリドルフ』など名作ぞろい。とくに『ゴッドガン』の「蟹は試してみなきゃいけない」はおすすめ。

● 再発見DVD賞 『煉獄エロイカ』 吉田喜重・・・モノクロですがSFですよ、こりゃ。

近所の大型書店が閉店したため、新作に疎くなっています。今年は頑張って長編にも挑戦しようかな。




中村 達彦 さん

案の定、2016年もSFをあまり読んでいません。
「クロニスタ戦争人類学者」 柴田勝家 1.0点
「松本城起つ」 六冬和生 1.0点
「終幕のゆくえ」 眉村卓 1.0点
「ウルトラマンF」 小林泰三 1.0点
「放課後地球防衛軍」 笹本祐一 0.5点
「クロニスタ戦争人類学者」は、自己相なる新技術で人々の思考が共有できるようになった未来世界の話。各地で弾圧を繰り返すアメリカ軍に所属する人類学者シズマ・サイモンは、少女ヒユラミールとの出会いにより、大切なものを亡くしながら共に流離うことに。見えてきた世界の真実とは? 彼がみつけた目的こそ、現在我々が書いたり語ることの意味と相通じるのでは? と思うのですが。権力に抗しながら、さすらう2人の先にあるものが光であることを祈ります。

(それで権力に抗する男女の物語と言えば)

「松本城起つ」は、女子高生と彼女の家庭教師を務める大学生が、松本城内において、貞享騒動に揺らぐ江戸時代へタイムスリップします。それぞれ違う形で過去に現れた2人は、史実の悲劇を防ごうとしますが、うまく行かず、状況は悪い方へ。主人公は、時間を管理修復する存在がある、自分たちが過去へ飛ばされたことの意味を知ります。主人公の1人称で、本来は重いストーリーが、ユーモアや自虐を交え、語りながら歴史を感じさせるのがなんとも言えません。

(それで歴史を感じさせると言えば)

「終幕のゆくえ」は、今年も新作の短編集が読めることは嬉しいですが、今まで書いてきたものの総仕上げ、人生の終わり。そんなことを感じる内容に悲しい気がします。日常感じることを、SF設定で味付けした作品というべきでしょうか。「嫌われ度メーター」の話は自分がもらったらどうなるのかと考えながら読みましたが、予想を覆す内容でした。あと「自分史」はこんな原稿を書く日が来るのだろうかと考えました。

(それでSF設定で味付けしたと言えば)

「ウルトラマンF」は、初代「ウルトラマン」直接の続編で、女ウルトラマンになったフジ隊員と新兵器開発ベテランのイデ隊員を中心に話が進みます。ウルトラマンや怪獣のデーターを実用化しようとする各国の思惑の中で、新たな侵略者が。他の諸作品と絡めるなどサービス精神に溢れますが、反面、「ウルトラマン」世界観や設定をリアルに再現しようとして、逸脱したところがあり残念です。ラスト近く、イデとウルトラマンの対話は感動しました。

(それで科学特捜隊のように地球を守ると言えば)

「放課後地球防衛軍」は、田舎町の高校天文部の学生たちが、流星雨の夜を経て、謎の美少女転校生、地下にある潜水艦基地、天文台の秘密と不思議な体験を経て、超国家組織の存在を知ります。今回は世界観の説明と主要人物紹介にとどまっていますが、以前の笹本作品で描かれた設定とどう差別化していくのか。32年前のデビュー作「妖精作戦」シリーズとリンクするのか気になります。また各章のつけ方はにやりとさせられました。

メディアでは「君の名は。」「シン・ゴジラ」の大ヒットが嬉しいですが、「planetarian 〜ちいさなほしのゆめ〜」「ねむれ思い子 空のしとねに」といった小粒のSFアニメも見逃せません。TV特撮は「ウルトラマンオーブ」「仮面ライダーゴースト」が健闘しました。




Takechan さん

今回は五作品選ぶのに苦労した。1つには老眼のせいで読書量が減ったことと、もう1つは読みたいものが少なくなっているためである。SFの老舗のH書房はミリタリーSFが多くて読む気がしないし、S社も過去の名作の復刻が多かった。どうせ復刻するならもう少し活字を大きくして読みやすくしてほしかった。以下の作品に1点ずついれてください。
『あまたの星、宝冠のごとく』 ジェイムズ・ティプトリー・JR
著者の悲劇的な死の後で発刊された作品集で、己の死を予感するような作品も含まれている。

『大きな鳥にさらわれないよう』 川上 弘美
川上版「幻想の未来」で、最後はE.ハミルトンのフェッセンデンの宇宙のようになるのが面白かった。

『パンドラの少女』 M・R・ケアリー
帯に書いてあるようにカズオ・イシグロmeetsウオーキングデッドというようなゾンビーSF。英国の作家だけあってじっくりと書き込まれている。映画化されたと聞いているが、主人公の少女は常に半裸の状態であり、児童なんとかにひっかかるような気がするが。

『虚構の男』 L.P. デイヴィス
もっと早く翻訳されるべきSFであるが、ミステリーなのかSFなのかはっきりしなかったのが紹介が遅れた理由か?前に紹介された作品もミステリーとなっているが、超能力もののSFである。

『天界の眼:切れ者キューゲルの冒険』ジャック・ヴァンス
切れ者といっているが、無節操でいいかげんな小悪党キューゲルの、終末期の地球を舞台とした愉快なファンタジー。暮れゆく地球の風景の描写がすばらしい。本来は文庫で広く紹介されるべき作品。

その他、上田早夕里の『夢見る葦笛』、北野勇作の『カメリ』、B.ベイリーの『ゴッドガン』 等が面白かったが、既出の作品集であるので割愛した。




大熊宏俊 さん

山浦玄嗣 『ホルケウ英雄伝(上下)をなんとか読了しようと頑張っていたのですが、月末やらなにやらでほぼ不可能と判断。あきらめてマイ「ベストSF2016」を確定します。

『ホルケウ英雄伝(上下)』は、古代エミシモシリが舞台。北方ケセ族の若者で遍歴修行の旅に出た即興詩人のマサリキンが、ミヤンキ平野のどまんなかを流れる大河ピタカムイを渡るところから物語は始まります。ピタカムイ河の南にひろがるウォーシカの沃野は、かつてはエミシの土地だったが、今は南からやってきたウェイサンペ族の支配下にあり、土地のエミシは彼らの収奪に苦しんでいた。マサリキンは、たまたまウェイサンペの下人が、付近の村から払えない出挙米の代わりに村娘を引っ立てていくところに遭遇し、その娘チキランケの美しさ声のよさに一目惚れしてしまいます。彼らの後をつけていくマサリキンの前にウェイサンペ族のマルコ党ムランチ(連?)の砦が姿をあらわし……
いやこれ、バロウズ型秘境冒険ものとして抜群に面白いです(一度救出したチキランケは、お約束どおりすぐに誘拐されてしまいます)。私見では本家よりも面白いかも(^^;。読了していたら一番にリストアップするつもりだったのですが、残念。(※著者は言語学者だそうで、出てくるエミシ語には根拠があるようです)

去年は大豊作だったのではないでしょうか。上掲書をはぶいても、5作品に絞るのは至難。どれも落としたくありません。まずは最終まで残した作品を挙げます。
 北野勇作 『カメリ』
 上田早夕里 『夢みる葦笛』
 宮内悠介 『スペース金融道』
 宮内悠介 『アメリカ最後の実験』
 宮内悠介 『彼女がエスパーだったころ』
 宮内悠介 『月と太陽の盤』
 川上弘美 『大きな鳥にさらわれないよう』
 西條奈加 『刑罰0号』
 眉村卓 『終幕のゆくえ』
 山田宗樹 『代体』
 西秋生 『神樂坂隧道』
ここから、他力本願ですが、すでに他の方々によって推薦された作品を除きますと以下になります(2月27日15時現在)。
 宮内悠介 『アメリカ最後の実験』
 宮内悠介 『彼女がエスパーだったころ』
 宮内悠介 『月と太陽の盤』
 西條奈加 『刑罰0号』
 山田宗樹 『代体』
 西秋生 『神樂坂隧道』
宮内作品はどれも大変面白かったのですが、ここは一本に絞らせてもらい、アンチミステリの香りもテクニックもあざやかな『月と太陽の盤』で。

ということで以下の4作品が決定。
 宮内悠介 『月と太陽の盤』
 西條奈加 『刑罰0号』
 山田宗樹 『代体』
 西秋生 『神樂坂隧道』
一昨年61歳の若さで急逝した西秋生の『神樂坂隧道』は、氏の唯一の創作作品集となります(大学教授としての本業関係やハイカラ神戸に焦点を当てたエッセイ紀行集は除く)。このような作風は結局商業的には受け入れられなかったんでしょうね。とはいえ彫琢された文体で綴られた一種ロマネスクな小説世界は、まさにオンリーワンであり、この作品集がたとえ自費出版であれ世に出されたことを喜びたいと思います。

あと一ついけますね。となるとこれはやはり眉村卓 『終幕のゆくえ』を採らない訳にはいきません。当短篇集では、人生の終幕のゆくえのみならず、世界の終幕のゆくえ、宇宙の終幕のゆくえも語られます。でも畢竟それらは人生の終幕の変形といってよいでしょう。鬼気迫ると言いたい作品集で圧倒されました。
以上、各1点でお願いします。




小泉博彦 さん

「人生の真実」 グレアム・ジョイス 市田泉:訳 東京創元社

「伊藤典夫翻訳SF傑作選 ボロゴーヴはミムジィ」 高橋良平:編
 ルイス・パジェット他 ハヤカワSF文庫

「終幕のゆくえ」 眉村卓 双葉文庫

「60年代ポップ少年」 亀和田武 小学館

「大伴昇司<未刊行>作品集 大伴昇司エッセンシャル」紀田順一郎 講談社
ここ数か月に読んだ作品しかほとんど覚えていません。はなはだ心もとないのですが各1点です。 他に、「惑わない星」「カムパネルラ」「小松左京さんと日本沈没 秘書物語」「ロボット・イン・ザ・ガーデン」など面白かったです。




森下一仁

『横浜駅SF』 柞刈湯葉
『突変世界 異境の水都』 森岡浩之
『宇宙探偵マグナス・リドルフ』 ジャック・ヴァンス
『カメリ』 北野勇作
『ビビビ・ビ・バップ』 奥泉光
思い浮かんだ順にタイトルを並べました。だから、刊行とほぼ逆順になっています。
ジャック・ヴァンスは『天界の眼 切れ者キューゲルの冒険』も楽しかったなあ。浅倉久志さんがヴァンスに惚れ込んだ理由がわかりました。
あと、宮内悠介さんのいくつもの作品は忘れてはならないし、上田早夕里さん『夢みる葦笛』も本当は外せない。ティプトリー・ジュニア『あまたの星、宝冠のごとく』は衝撃的で、作家の業のようなものを感じました。




幸重 善爾 さん

長期の海外生活で十数年の読書タイムラグがあるため、帰国後はその間に出た作品を読むので手一杯。新刊にまで手が回らなかったのですが、昨年からその姿勢を少し改め、数は少ないものの新刊を読みましたので、初めて参加させていただきます。
『杏奈は春待岬に 』梶尾真治
『カメリ』 北野勇作
『カムパネルラ』 山田正紀
それぞれ1点ずつでお願います。

海外作品は新刊をまったく読んでいないので、上記の結果となりました。ご贔屓のベテラン日本人作家がそれぞれに素晴らしい作品を発表した年だったと思います。
川上弘美さん、宮内悠介さん、上田早夕里さんらの話題作は読んでおりません(というか、そもそもまだ作品を全く読んだことがないのです)。




渡邊 利道 さん

今年も面白い作品が多くて幸せでした。でも選ぶのはつらい……。
順不同で。
『クロックワーク・ロケット』 グレッグ・イーガン (早川書房)
『夢みる葦笛』 上田早夕里 (光文社)
『エクリプス・フェイズ』 ロブ・ボイル (新紀元社)
『螺旋じかけの海』 永田礼路 (講談社)
『インディオの気まぐれな魂』 エドゥアルド・ヴィヴィロス・デ・カストロ (水声社)
あと、番外で『有限性の後で』 カンタン・メイヤスー(人文書院)をば。
2016年はなんといっても人類学の存在論的転回と思弁的実在論でした。
ここ数年形而上学が面白くてしかたがないんですが、どんどんSFになっていくので、ドゥルーズは正しかったなあと思います。
その意味でも藤元登四郎さんのドゥルーズで荒巻義雄を読む試みが出たのは良かったなあと思います。












ベストSF2016
投票募集のお知らせ




 今年もやります、良かったSFアンケート。
じっくり選んで投票してください。

 2016年1月1日から12月31日までに国内で出版されたSF(奥付の日付で判断してください)で、あなたがおもしろかったと思うものをEメールで投票してください。要領は次のとおりです。


昨年の結果