ベストSF2015

★ 投票数……16








各投票者の推薦作

(到着順)


毛利 信明 さん

 年を取ると1年があっという間に過ぎていきます。趣味らしい趣味がないせいか、今年も読書中心の生活でした。SFマガジンは隔月刊化と共に小説は連載中心になり海外短編掲載もぐっと減り(例年の英米SF受賞作特集が消えた!)、寂しい限り。記憶に残ったのは創元SF文庫が近年になく出版点数がぐんと増えたこと、『定本荒巻義雄メタSF全集』による再評価の動きなど。では、いつものように読んだ順に。

『紙の動物園』ケン・リュウ・・・ベスト級の短編集。「情」に訴えるものが多いのが特徴でしょうか。初めて読んだ表題作がやはりピカイチ。

『怨讐星域』梶尾真治)・・・連載時は途中で読むのを断念。モザイク状に散りばめられたエピソードの妙。その内容も種々様々。楽しませてもらいました。

『寄港地のない船』ブライアン・オールディス)・・・「あの」処女長編の翻訳、ついに! これだけで充分です。懐かしいSF。

『伊藤計劃トリビュート』編集部編)・・・ これだけのボリュームがあると読み応えがあります。収録作それぞれに楽しみましたが、中でもSF味がほとんどない長谷敏司の作品に圧倒されました。

『神の水』パオロ・バチガルピ)・・・この著者、こんなに上手い人だったっけと驚き。悲惨な近未来の社会で生きる主人公の女性ジャーナリスト像の描き方が特に。

 上の作品以外では、『火星に住むつもりかい?』(伊坂幸太郎)、『世界はゴ冗談』(筒井康隆、この高齢にして前衛的作品の数々)、『殊能将之読書日記』『ゼンデギ』(グレッグ・イーガン、長編では久しぶりに最後まで読めた)、『惑星の岸辺』(梶村啓二)、『絞首台の黙示録』(神林長平、ジャンルを突き抜けた?)、『うそつき、うそつき』(清水杜氏彦)など。




中村 達彦 さん

昨年は大してSFを読まなかったので棄権しましたが、今年もあまりSFを読んでいません。
1 短話ガチャンポン 眉村卓 1.5点
2 新・航空宇宙軍史 コロンビア・ゼロ 谷甲州 1.0点
3 セント・イージス号の武勲 上田早夕里 1.0点
4 多々良島ふたたび ウルトラ怪獣アンソロジー 山本弘、北野勇作、小林泰三ほか 1.0点
5 空母せたたま小学校発進! 芝田勝茂 0.5点
「短話ガチャンポン」は文庫書下ろしの短編集です。タイトルは、スーパーやゲームセンターなどでよく見るあれに引っ掛けています。AからZまで26本の物語は、普通の生活を送っていた主人公が、突如、非日常な事件や人物と出くわす定番の流れですが、SFファンではない人にも楽しんで読んでもらえるかと。眉村先生の創作意欲には、頭が下がります。

(それで、眉村先生の司政官シリーズ同様、宇宙に進出した人類の未来史と言えば)

「航空宇宙軍コロンビア・ゼロ」。こちらも短編集で、谷先生の代表作の新作です。新たな戦争の火種そして開戦と続く歴史のうねり、巻き込まれていく人々。新技術との遭遇。同じ代表作「覇者の戦塵」に通じる谷作品特有のカラーを絡めて描いています。太陽系各地において、かつて戦争を体験した人々の捨てきれぬ想い、そして成すべきことを悟っていく過程が伝わります。

(それで、遠い過去を遡り、相通じるテイストを持った新世代の作品と言えば)

「セント・イージス号の武勲」は、諸国民戦争下の大西洋を舞台にした海洋冒険小説。 薄幸の少年兵が戦闘で海に投げ出されイギリス海軍の実験艦に拾われます。やがて産業革命による先端技術と既に滅んだ海洋文明による自然との営みの力とを垣間見た後、歴史の舞台に立ち会うことに。児童文学の感が大きいですが、大人の目線、少年の目線で交互に話が進められていきます。

(それで、先端技術と自然の営みの力が衝突すると言えば)

「多々良島ふたたび ウルトラ怪獣アンソロジー」は、かつてウルトラシリーズに心躍らせた諸先生による7本の短編です。 表題作品のように本作に敬意を払いつつ、新解釈を加えた補完的作品、世界観を土台にオリジナルストーリーを構築した作品で構成されます。初期の作品がメインですが、近年の作品を背景に、ウルトラマンに変身する少女が正義について悩む問題作も……。

(それで、心躍らせる、正義について悩むと言えば)

「空母せたたま小学校発進!」は、小学校校舎が、客船そして日本海軍の空母へ変形し、乗艦した4人の少年少女が零戦で発進し人類の危機を救う、ミリタリーアニメのような奇抜なストーリーです。艦これを思わせる設定も入っています。子供たちがアクションを展開して悪を倒す内容ではなく、大人のやり方に疑問を持ち、かつ優しさで解決に臨む流れが、微笑ましいです。

※創作以外では「ハヤカワ文庫SF総解説2000」は豪華執筆者陣の愛が伝わりますが、近年の国内作品が少ないかと。願わくば補足版を出してもらいたいです。ノンフィクションでは「「宇宙戦艦ヤマト」を作った男西崎義展の狂気」が考えさせられました。あと「SFまで10000光年」で水玉蛍之丞さんを偲びます。




nyam さん

今年はSF界は豊作でした。SFマガジンを読まなくなったので、ハヤカワ以外の出版社に偏ってますが。(以下各1点)
『楽園炎上』R・C・ウィルスン)・・・文句なく面白かった。平行世界もの? 侵略テーマ? 分類不能です。

『怨讐星域』梶尾真治)・・・もっとドロドロした話になってもおかしくないのに、暖かいストーリー展開はこの作者ならではの味。『断絶への航海』を思い出しました。

『ラットランナーズ』オシーン・マッギャン)・・・公的予算を削って警官をリストラしたら、こんな感じ?

『寄港地のない船』ブライアン・オールディス)・・・昔はニューウェイブをうけつけなかったのですが、年齢のせいか、楽しめるようになりました。バラードとか再挑戦してみようかな。

『世の終わりの真珠』ルカ・マサーリ)・・・前作を読んでないのに買っちゃいましたが、つながりはない模様。シトロエンのハーフトラックが砂漠を走るイメージは例えようもなく美しい。
上記以外に『叛逆航路』『モナドの領域』『コロンビアゼロ』も面白かった。『シャーロック・ホームズ 恐怖!獣人モロー軍団』は表紙(だけ)は素晴らしい!

●再発見賞 『うつろな男』(ダン・シモンズ) 映画『マルホランドドライブ』(デヴィッド・リンチ)




こり さん

久しぶりの投票です。なかなかその年に出た作品を読む事がなく投票に参加できずにいましたが、2015年はなんとか・・
ということで
「王たちの道」ブランドン・サンダースン)   2 点
「怨讐星域」梶尾真治)            1.5点
「ねじまき男と機械の心」マーク・ホダー) 1.5点

「火星の人」は2014年だったのですね。 残念!
「王たちの道」は続きがとても楽しみです。




山口素夫 さん

昨年は新しい作品まで手が回らなかったので、今年は少し頑張って読みました。

『紙の動物園』ケン・リュー 2点
ストーリーテリングのうまさにまず脱帽しました。また中国系米人ならではの視点から、今までにない題材を取り上げて深い感動を与える手腕はただ者ではないですね。中国ではすでに人気作家となっていて多くの作品が翻訳されているそうですが、一部の作品が内容上の問題から紹介されてないのは皮肉ですね。

『エンジェルメイカー』ニック・ハーカウェイ 1点
一応ミステリーとなっていますが、あきらかにSFですよね。スチームパンクとも、ピカレスクロマンとも言えますが、ちょっと違う気もします。史上最高齢かもしれない女性のアクションシーンがとてもチャーミングでした。

『汝、コンピューターの夢』ジョン・ヴァーリイ 0.5点
既発表作ですが、新訳&改訳とのことなので加えました。さすがジョン・ヴァーリイですね。おもわず引き込まれました。若い読者にも是非読んでほしいと思います。

『砂星からの訪問者』小川一水 0.5点
楽しく読めましたが、ずっと主人公と行動を共にしたエイリアンからの最後の一言には背筋がゾクッとしました。

『ブラックアウト』コニー・ウィリス 0.5点
作者のユーモア感覚には時々ついて行けないところもありますが、この世界にどっぷりつかってしまうと、やみつきになる魅力があるのは確かです。ディテールが細かく書き込まれ、話がどんどん長くなってきたような気がしますが、これは女性作家特有なのか、それともアメリカ出版界全般的な傾向なのか。キンドルで出るのを待とうかとも思いましたが、待ちきれずに紙の本を買ってしまいました。本の重さがだんだん辛くなっています。続編の『オールクリア』はまだ読んでませんが、こちらはキンドルにしようかな。




放克軒(さあのうず) さん

 多くは読めなかったのですが、なかなかインパクトのある作品が多かった気がします。

『クロックワーク・ロケット』 グレッグ・イーガン 1.5点
 三部作のまだ一作目だが、違う物理法則の支配する世界というわくわくするような設定に真っ向から挑み期待通りの面白さだったので早速投票。

『紙の動物園』 ケン・リュウ 1点
 バラエティに富みいずれも質が高い短篇集。今後にも大きな期待を抱かせてくれる。

『世界の誕生日』 アーシュラ・K・ル・グィン 1点
 人類の抱える様々な問題をきちんと追求し続けるル・グィンには頭が下がる。

『エクソダス症候群』 宮内悠介 1点
 精神医学に若い頃から関心があったという著者の誠実な取り組みが感じられる野心作。

『ナイト』 ジーン・ウルフ 0.5点
 結局ウィザードまで読了出来なかったので0.5点にしたが、余裕たっぷりの語り口を堪能した。




大熊宏俊 さん

私の読書範囲では今年は割と豊作でした。5作品に絞るのが容易ではありません。なので今年は「日本SF小説(創作)但し紙版」と云う括りの中からセレクトしました。近年は、電子出版でよい本がいろいろ出ており、そっちからもできれば入れたかったのですが。しかしまあ来年(今年か)は確実に、電子出版が盛況になると思いますので、いずれそのうちに。ということで、以下の5作品を推薦します(読んだ順です)。
眉村 卓『短話ガチャンポン』(双葉文庫):当初エッセイめいた軽い作品集かと想像していたところ、意外にきっちり小説していていました。軽く読み飛ばせないのです。短い作品も含めてすべてそれなりにずっしり重い。断章ごとに気分の浮き沈みがあって「表層的に」ですが、私は「或阿呆の一生」を想起しました(方向はまぎゃくですしあんなに深刻でもありません)。集中の白眉は「昔のコース」。しみじみよいです。

宮内悠介『エクソダス症候群』(東京創元社):かかる心的傾向は誰もが持つものだと思う「幾山河越えさり行かば」「故郷忘じがたく候」。それが「火星」という設定と実に親和的。交通手段が馬車とかまるで19世紀のウィーンの街並みのようなのもよかった。当然そこは精神分析的ランズケープで、反精神医学的趣向があるのも好感。川又千秋の最初期の火星世界や荒巻義雄の表現主義的なヨーロッパものの世界観の復活を思わせる面白小説でした。

オキシタケヒコ『波の手紙が響くとき』(早川書房):音響工学をテーマにしたハードSFというのがユニーク(とりわけ感音性難聴の解説に感嘆)。章を追う毎に本格SFになっていくので驚いた。最後は地球生命の発生にまで繋がります(センス・オブ・ワンダー)! 本書も大変面白かった。

小川 哲『ユートロニカのこちら側』(早川書房):「1984」みたいな二元論的ディストピア小説ではなく、むしろみずから進んで「羊」になりたがる人間の性向の考察に進んでいきます。人間て簡単に二分法では捉えられないですよね。もっと複雑で不条理な存在として描写されていて一概な解釈結論は拒否される。そういう純文学的な方向性に感心しました。

筒井康隆『モナドの領域』(新潮社):物語の大枠はきわめて単純。この宇宙と今一つの並行宇宙が異常接近し一部分がとある町で重なる。重なった部分から綻びが生じ最終的に両宇宙とも破滅してしまう。そこで「遍在する存在」つまりGODが、修復のためこの世界に出動してきます(それも定まったこと)。遍在する存在とは如何なる存在か。全ての人間否全ての生命否非生命宇宙それ自体の経験を自らの経験として知っている存在です(多分)。物語としてはGODが呆気なくチョチョイのチョイで修復してしまうのですが、著者の眼目はそこにはない。超絶強烈な知識開陳にある。上の設定はかかる開陳のための舞台づくりだったと言っても過言ではありません。「神」に関する哲学的言辞がこれでもかと掃射されてきて読者は(私は)知的快感に悶絶する他ない。エーコやボルヘスを想起させられました。本書はそういう種類の「小説」だと思いました。

以上各1点でお願いします。
◯電子出版でかんべむさしさんの長らく品切れしていた本が復刊されました。『決戦・日本シリーズ』『サイコロ特攻隊』『上ヶ原・爆笑大学〈新版むさしキャンパス記〉』。三冊とも品切れだったのが不当な傑作ですが、とりわけ『決戦・日本シリーズ』は初刊のハヤカワ文庫以来一度も復刊されたことがなくその内容の素晴らしさに比して非常に不遇な本でした。簡単に読むことができるようになったことを喜びたいと思います。

橋元淳一郎さんが電子出版で科学解説本を矢継ぎ早に出版されました。『物理の時間、生命の時間;時間の流れの起源をさぐる』『相対論の直観的認識について;物理学とリズムに関するエッセイ集』『不思議の星のサイエンス(全6巻)。著者のユニークな時間論(生の意欲が時間を流れさせる)に、簡単に安価に触れることができるようになったのは大変ありがたいです。私も早速その恩恵に浴しました。

◯海外SFでは、ブライアン・オールディス『寄港地のない船』中村融訳(竹書房文庫)の出版が、嬉しい青天の霹靂でした。40年間待ち続け、その間に内容を勝手に空想していた作品です。もう死んでもいいくらい(笑)。でも実際読んだら思っていた内容とはちょっと違っていました(汗)。世代宇宙船テーマの古典が日本語で読めるようになって本当によかったです。(以上)




いたばしさとし さん

今年もSFは面白いものがたくさんあって幸せでした。
2015の推しは以下のとおりです。

長編では…

「恩讐星域」梶尾真治 1.5
 荒んだ時代だからこそ読まれるべき一編。憎しみが頂点に達したはずのクライマックスで登場人物たちがとった選択は涙せずには読めなかった。
「地獄で見る夢」森岡浩之 1
 流行りのヴァーチャルリアリティもの。飛浩隆「グラン・ヴァカンス」とほぼおなじ設定のはずだが、現実世界での死者がヴァーチャル世界での二度目の生を営んでいると一捻りしたことで、「グラン…」とは全く趣の異なる面白さが生まれていた。
「惑星の岸辺」梶村啓二 0.5
 クーパーのアンドロイドから労働問題と未来世界の描写をとってロマンスに集中したような話。SF仕立てだがそういう読後感は無かった。このままクロスオーバーで終わってしまうのか、本格的なSF書きになってくるのかは不明。後者なら第二の梶尾真治になりそうな気がして推薦しておく。

短編では…

「にんげんのくに」仁木稔 1
人間の進歩ではなく退歩を書いた異色作。主人公は何者かにモニターされていて、進歩した人類の存在を背後に予感させるが、描かれるのは文明を後退させた人類の姿。緊張しながら読んだ。
「小ねずみと童貞と復活した女」高野史緒 1
「屍者の帝国」のトリビュートのはずが、著者の好みとウンチクが炸裂したドタバタコメディ。笑いすぎて笑いすぎて笑い死ぬかと思った。読後、しばらく顎が痛かった。みんなも笑え!と言うわけで推薦。

でも、他にもたくさん面白く読ませてもらいました。作家のみなさん、出版社、その他送り手のみなさん有難う。
なお、わたしもこんなことやって遊んでます。→ いたばしさとし文学賞




笛地静恵 さん

筒井康隆の『モナドの領域』も、まだ読んでおりません。投票を控えようかと考えましたが、やはり参加させていただくことにしました。
 〈国内〉

荒巻義雄『定本 荒巻義雄メタSF全集』全七巻+別巻 彩流社 2点
宮内悠介『エクソダス症候群』東京創元社 1点
オキシタケヒコ『波の手紙が響くとき』早川書房 1点

 〈国外〉

ブライアン・オールディス『寄港地のない船』中村融・訳 竹書房文庫 1点
以上です。よろしくお願い申し上げます。




小泉博彦 さん

最近読んだ、というか読んだことを覚えている作品というだけかもしれないですが。
「モナドの領域」 筒井康隆
「うそつき、うそつき」 清水杜氏彦
「プルーデンス女史、印度茶会事件を解決する」 ゲイル・キャリガー 川野靖子訳
「中継ステーション」 クリフォード・D・シマック 山田順子訳
「街角の書店」 F・ブラウン S・ジャクソン他 中村融・編
各1点です。




Takechan さん

SF&ファンタジーの分野から、昨年面白く読んだものを選んでみた。年のせいか,G.イーガンの長編などは最後まで読み通すのが難しくなってきたので、ハードSFは入れていない。ファンタジー系の作品が多くなった。
下記の作品に1点ずつ入れてください。
『紙の動物園』ケン・リュウ
情緒的な部分と科学的な部分を違和感なく結びつけるセンスは一流である。
『寄港地のない船』ブライアン・オールディス
原著を持っているが、昔SFMで伊藤氏が紹介していたので、いずれ翻訳されるだろうと 放置していたが、今になって翻訳が出るのは感慨無量である。1950年代のセンスオブワンダーに満ちた古き良きSF。
『でんでら国』平谷美樹
姥捨てをテーマとした一種のユートピア小説である。東北のある地に老人の理想郷である「でんでら国」が築かれるが、そこにも幕府の魔手が忍び寄ってくる。巧妙なかけひきであわやという時に、いずこと知れぬもうひとつの「でんでら国」に去ってゆくという奇想に満ちた時代ファンタジー小説。
『忘れられた巨人』カズオイシグロ
著者は前作の「わたしを離さないで」でクローンを扱ったSFをかいているが、今回の作品は、軽度の認知症ぎみの夫婦を主人公とした騎士も竜も出てくるファンタジーである。巨人がもしも忘却を意味するのなら。邦訳は「埋葬された巨人」とするべきではないのか?
『モナドの領域』筒井康隆
GODをテーマとした巨匠のSFである。帯に「わが最高傑作にして、おそらくは最後の 長編」と書いてあるが、果たしてそうであろうか? その答えは「モナドの領域にある」。

その他サザーンリーチシリーズの「世界受容」や、地上最後の刑事シリーズの「世界の終わりの七日間」等も興味深かったが、シリーズものであるので割愛した。




らっぱ亭 さん

『ジーン・ウルフの記念日の本』 ジーン・ウルフ 酒井昭伸・宮脇孝雄 ・柳下毅一郎 訳 国書刊行会
 ついに出た! アメリカの祝祭日にちなんで作品を並べたジーン・ウルフ初期の短篇集。ウルフははじめからウルフだったんだなあと思わせる逸品揃い。なかでも「取り替え子」は何とも言えない不条理感が漂う薄気味悪い作品だが、私の偏愛する短篇のひとつだ。これが収録されているだけでも嬉しいが、もちろんその他の収録作も素晴らしい。ウルフはまだまだ未訳の傑作があるので、つぎにも期待したいぞ。
『街角の書店 18の奇妙な物語』中村融編 創元推理文庫
 奇妙で不穏でぞわぞわするような話が満載。ミルドレッド・クリンガーマンの「赤い心臓と青い薔薇」、テリー・カー「試金石」あたりが特に好きだなあ。しかし、奇想コレクションとか、ストレンジフィクションとか、街角の書店18の奇妙な物語とか。なるほど、中村融さんの好きなお話は「トオル・テイル」だったのか!(ごめんなさい)
『月世界小説』牧野修 ハヤカワ文庫JA
 日本SF大賞特別賞受賞作のマキノ全部のせ的超傑作。ちなみに『SFが読みたい! 2016年版』(早川書房)では国内2位を獲得し、著者インタビュウ「驚異の部屋を創り出す」と併せて、読書ガイド「牧野修この10冊」(執筆・らっぱ亭)が掲載されていますので是非とも!(ステマ)
『明日の狩りの詞の』石川博品 星海社FICTIONS
 (Twitter文学賞への推薦ツイートに補足しました)
 設定から九井諒子『ダンジョン飯』のSF版と言われることもある近未来SF。「外来宇宙生物を狩って、調理して、食べる」たしかにそれだけの話なんだけど、なんとも豊かな「青春狩猟物語」だ。耳刈ネルリシリーズからヴァンパイア・サマータイムまで、きわめて短くも濃密な青春のある時期を巧みに切り取って異なる世界の物語に落とし込む手際はさすがだ。
『紙の動物園』 ケン・リュウ 古沢嘉通編訳 新☆ハヤカワ・SF・シリーズ
 (日本翻訳大賞への推薦文を再掲します)
 ケン・リュウ『紙の動物園』は今が旬のSF作家の、まさに粒選りの傑作集。又吉直樹の推薦で普段SFを読まないかたも手に取る機会を得たと思うのだが、ヴァラエティに富んだ収録作の高い質と選定の妙に加えて、日本語として確かな文章であるということも本作の高評価の一因であろうことは間違いない。ケン・リュウの英語は平易なぶん翻訳が非常に大切な作家だ。特に、情緒的なところを臭くならないように、そして平易なところは適度に艶っぽく言葉を選んでいくのは、けっこう名人芸的なテクニックが要求される。実際、表題作「紙の動物園」を英語で読んだときは、「せつなくも感動的な話でヒューゴーとの二冠も納得できるかなあ。でもあまり好みじゃない」などとツイッターで呟いていた。手紙のくだりが少々あざとく感じたためだが、今回翻訳で読んで不覚にもうるっときた。これぞ日本語の力だ。次作も古沢さんの翻訳でお願いしたいと切に感じた瞬間だった。

 以上、各1点で。
 その他、気になった作品・出版物を主に自ツイートからピックアップ。長文ごめんなさいー。

 海外作品も豊穣な一年だった。
ガレス・L・パウエル『ガンメタル・ゴースト』(三角和代訳) わはは、サイバーでパンクでなんともサイコーな冒険活劇SF。無敵のヒコーキ乗り(しかも猿!)マカークは大暴れし、満身創痍のサイボーグ女記者が闘い、悩める皇太子が世界の危機に立ち向かう。行動派パリジェンヌと天才ハッカーの少女キャラ達も良し!
 チャーリー・ヒューマン『鋼鉄の黙示録』(安原和見訳) 中二病の妄想は実はすべて本当だったんだーって話で、永井豪が好きなかたとか、波長があうんじゃないかなあ。
 パオロ・バチガルピ『神の水』(中原尚哉訳) 近未来ディストピアな干魃のアメリカを舞台にノワールでハードボイルドな傑作。噂に聞いていたようにちょい百合もあるよーw
 クリストファー・プリースト『双生児』(古沢嘉通訳)は待望の文庫化。"双生児"に絡めた改変歴史SFかーと思って読み進めたら、そんな単純なものじゃない(プリーストだからねっ!) 大戦中の欧州を舞台にリアルと虚実と幻想がない交ぜになって大きなあるいはごくささいなターニングポイントを行きつ戻りつ双子とともに翻弄される読書の快楽ったら! しかし第二次大戦中の欧州の歴史には疎いので、あれあれ史実はどっちだーとか思いつつ、それはともかくビルギットはどっちとひっつくんだーとか気になって読んでいたのは秘密。
 ラヴィ・ティドハー『完璧な夏の日』(茂木健訳)は本編の数年後を舞台としたスピットが主役のスピンオフ短篇"Aftermaths"もいいものなので翻訳出たらいいと思うよ。
 幻想文学系ではステファン・グラビンスキ『動きの悪魔』(芝田文乃編訳)とヴァーノン・リー『教皇ヒュアキントス ヴァーノン・リー幻想小説集』(中野善夫編訳)も大収穫。販促キャンペーンも印象的だった。

 国内作では、若手作家に気に入った作品が多く、ラノベのレーベルからも良いものが出ているぞ。辻村七子 『螺旋時空のラビリンス』はデビュー作。導入部は椿姫を題材としたシンプルなタイムトラベル・ライトミステリーものかと思わせて、なんだこの悪夢めいたタイムループSFな展開は! そしてまた純愛ロマンなSFミステリの傑作がひとつ。SFクラスタなかたがたは読み逃しちゃダメだよ!
 石川博品『平家さんと兎の首事件』は傑作短篇「平家さんって幽霊じゃね?」の元となった長篇だが、これもまた良いものだー。家庭の事情でうどん県の祖父のところへ都落ちしてきた兄妹は、なぜか同居する美少女な平家の怨霊とちょい怪異な学生生活を送りつつ、ゆっくりと再生していく。
 ガガガ文庫からはオキシタケヒコ『筺底のエルピス 2 -夏の終わり- 』 うおおーおじさんも嬉し恥ずかしの水着回かーと安心させておいて怒濤の展開だー。超絶の血湧き肉躍る異能バトルにそれらしいハードSFな解説つきって、うん、SFな忍者武芸帳ですな。前巻でアニメ化いけるんじゃね?と思ったが、2巻ですでに劇場版ですかー!? 続刊が楽しみなシリーズですね。
 ハヤカワSFシリーズJコレクションからはオキシタケヒコ『波の手紙が響くとき』 キャラの立った研究所員たちが織りなすライトな音響ミステリ連作で、サイエンスで解決するSFなミステリってところはアシモフとかも思い出すなーと思ってたら...うわあ なんだか凄いことになっちゃったぞw、って快作。
 Jコレでは倉田タカシ『母になる、石の礫で』も面白かったー。絶え間ない創造と破壊が目まぐるしいポストヒューマンな青春SFで胸きゅんとくるぞ。針ちゃんかわいいよ針ちゃん(二重体だから二回言いました)。
 マンガでは、マジック・リアリズム的傑作コミック道満晴明『ヴォイニッチホテル1-3』がついに完結。
 そして『殊能将之読書日記 2000-2009』web掲載時には貪るように読み耽り、どれだけ読めもしないSF原書を買って積み上げたことか。ああ、どこかでこの本を元にしたライバー傑作集とかデイヴィッドスン短篇集の二冊目とか企画しないかなあ。(ふふふ、実はらっぱ亭も一カ所に登場するのだ。)
 最後に、佳作ながら油断してると年刊ベスト級の作品をさらっと出してくる京大SF・幻想文学研究会(KUSFA)OB作家の伴名練・坂永雄一の短篇を。『折り紙衛星の伝説』収録の伴名練「一蓮托掌〈R・×・ラ×ァ×ィ〉」ラファティ・パスティーシュって、おお、四文字熟語タイトル! 各章でかの『歴史の裏口』をひきつつ、随所のいかにもラファティな言い回しもお見事。「ファニーフィンガーズ」を元ネタにアンファン・テリブルな双子が巻き起こす楽しげな騒動はやがて凄絶な世界の変容を引き起こす。狙い通りのおかしくもかなしい傑作!『NOVA+ 屍者たちの帝国』収録の坂永雄一「ジャングルの物語、その他の物語」も傑作。こちらはラファティ・パスティーシュじゃないけれど、ラファティの最良の部分、もっとも取り逃がしてしまいそうな部分がしっかり血肉となっているのだなあと痛感。




森下一仁

このところSFの出版点数はおびただしい。本が売れない中でSFは一定数が見込めるせいだろう。
ベテランは総決算のような仕事をし、中堅は充実、新鋭もそれなりに健闘している。読み応えのある作品が並んだ年でした。

以下、順不同で1点ずつ(まだリストに登場していない作品も念頭においてみました)。
『怨讐星域』梶尾真治
『神の水』パオロ・バチガルビ
『絞首台の黙示録』神林長平
『シャッフル航法』円城塔
『ガンメタル・ゴースト』ガレス・L・パウエル
円城塔さんには『エピローグ』、『プロローグ』の長編がありますが、今回は短編集を(私はメタフィクションには点が辛いかもしれない)。他には『街角の書店』を入れられなかったのが残念。




椋野直樹 さん

『紙の動物園』ケン・リュウ 2・5点
『流』東山彰良 2・5点
すみません、2015年はSF、『紙の動物園』しか読んでいません。必然的にこれに点をつぎ込むのは忸怩たる部分もあるのですが、家族間異文化衝突ファンタジーと言える表題作を含め、懐かしいテイストの素朴なSFからマジックリアリズム風まで、実に多彩で興味深い作品集でした。大きくうねるグローバル化の波に抗うような姿勢の作品が特に心に残る。
例えがおかしいかも知れませんが、ジュンパ・ラヒリやジュノ・ディアスを読んだ時のような新鮮な驚き。

東山彰良の『流』は断じてSFではありませんが、予測不能にうねりまくるマジックリアリズム展開と、やるせないリアルが混在してただただ唖然呆然。これってセンス・オブ・ワンダーですよね。
ヤン・ドウチェ(エドワード・ヤン)監督やホウ・シャオシェン監督の昔日の映画などを連想しながら楽しめました。

SF映画ベスト

『マッドマックス 怒りのデスロード』
『アントマン』
『コングレス未来派会議』
すいません、SF1冊しか読んでいないのに投票したのは、『マッドマックス 怒りのデスロード』という超弩級の事件、新しい神話の誕生をここに刻ませてもらいたかったからです。81年公開の『マッドマックス2』の衝撃は凄まじいものでした。野蛮なB級エクスプロイテーションアクションと舐めてかかって観に行ったら、神話的な深みさえ湛えたディストピアSFの傑作だった。怒涛のアクション、異様、異能なプロダクションデザイン、ビジュアルイメージ、円環を閉じる構成、語り手の正体が分かる時のSF的な感動。
82年公開の『ブレードランナー』と並び、映画、コミック、アニメなどフィクションのみならず、現実のカルチャーやファッションにこれだけ多大な影響を及ぼした作品はなかなかありません。

そのオリジンの作り手であり、齢70のジョージ・ミラー監督がまさかそれをさらに超える傑作を作ってくれるなんて!
物語はどシンプル、直線的でひたすらカーチェイスとアクションが続くだけ。
それなのに、そのアクション、アクションのつるべ打ちの中から深いテーマが立ち上がる。独裁、カルトからの脱出、フェミニズム、人間性の再生。マックスは狂言回し、助っ人的に徹し、シャーリーズ・セロン演じるフュリオサが映画を牽引していく。女たちが気高く、強く、特に鉄馬の女たちことバイクを駆る老女たちの逞しさなど宮崎駿アニメに通じるものがある。っていうか『ナウシカ』『紅の豚』から絶対インスパイアされてるよな!
とにかく考えるな、感じるんだというブルース・リーの名言を思い起こさせ、遥かな地平まで連れて行かれる超絶の傑作。新たな神話。




本橋牛乳 さん

今年、読んだ中では、
円城塔「プロローグ」 1点
アンナ・カヴァン「鷲の巣」 1点
の2作品に。

なぜ「エピローグ」ではないのか、とか、言いたいこともあるのですが。手のうちが見えていて、なお、そうだよなあと思わせるところが、嫌いではないのです。つまり、世界のありかたっていうのでしょうか。みもふたもなく、世界は情報だったり数字だったり、という世界、みたいなイメージです。
カヴァンの本がコンスタントに出版されるというのも、なんか、すごいなあと思います。「氷」の世界が、いろいろなバリエーションで出てくるというのでしょうか。

SF以外なら、ジャン・エシュノーズの「1914」などもあるのですが。 選べる作品が少なくて、すみません。




青の零号 さん

『ジーン・ウルフの記念日の本』『紙の動物園』に2.5票ずつでお願いします。

どちらも技巧を凝らした奇想色の濃い短編集ですが、前者がアメリカという土地柄を、後者が中国系という出自を強く感じさせたのも印象的で、世界文学としてのSFという点をさらに意識させられた作品集でもありました。









ベストSF2015 投票募集のお知らせ


 今年もやります、良かったSFアンケート。
じっくり選んで投票してください。

 2015年1月1日から12月31日までに国内で出版されたSF(奥付の日付で判断してください)で、あなたがおもしろかったと思うものをEメールで投票してください。要領は次のとおりです。


昨年の結果