ベストSF2014

★ 投票数……17








各投票者の推薦作

(到着順)


毛利 信明 さん

 今年いちばん驚いたことは11月の終わり近くに知ったSFマガジンの隔月刊化の話。いきなりというか突然のことにしばらくぼんやりしていました。昔のように毎号全部に目を通すこともなくなり、連載はあきらめ興味を惹く短編を読むぐらいでしたが、やはり隔月刊化は衝撃でした。さて、いつものように読んだ順に。

『モンド9』ダリオ・トナーニ)・・・諸星大二郎の「生物都市」を思わせる異星の異形生物船の物語。異様な舞台設定だけで十分。

『大江戸恐龍伝』夢枕獏)・・・待ちに待った全5巻の完結。江戸時代に恐龍を持ってくる荒技、なかなか巧みに創られた物語。これだけの長さを全く飽きさせることがない。

『機巧のイヴ』乾緑郎)・・・表題作の短編を掲載誌で読んだのが初めて。ミステリを思わせる二転三転する展開、最後まで面白く読みました。

『突変』森岡浩之)・・・分厚い文庫書き下ろし。一気に読める異次元スリップもの。続編を早く読みたいものです。

『サンリオSF文庫総解説』牧眞司編)・・・いつ出るかと心待ちにした本。文庫自体はわずか数十冊しか読んでいないのですが、何か「びっくり箱」のような存在。でも解説を読んだからサンリオSF文庫を読みたくなるということは残念ながらないのです、不思議に。

 他に今年読んだ中でおもしろかったものを題名だけ列挙します。海外作品は読んだ割にはどうも合うものが少なく『月の部屋で会いましょう』『図書室の魔法』『黒い破壊者』ぐらい、国内作品では『アンドロギュヌスの皮膚』『深紅の碑文』『新生』『オニキス』『サムライ・ポテト』『柴野拓美SF評論集』『ブラックラジオ』『翻訳問答』『環八イレギュラーズ』『だれの息子でもない』など。




さあのうず さん

 あまり多くは読んでいないのですがいろいろな作品に昨年も出会いました。各1点。

『ピース』 ジーン・ウルフ

 何重にもほどこされた仕掛けに目眩すら覚える。ウルフは初めからウルフだったのだなあと感じます。

『オマルー導きの星ー』 ロラン・ジュヌフォール

 異星人が出て来ても例えば性的な部分など英米の流れとはやや異なるひねったセンスがあって面白いですね。もっといろいろな文化からのSFが出ると読者としては楽しいです。

『新生』 瀬名秀明

 先行作品のオマージュ短篇集の面があり、先行作品を読んでいないので十分読みこなしているとはいえないのですが、挑戦し続ける意志に胸躍るものがありました。

『全滅領域』 ジェフ・ヴァンダミア

 謎の領域<エリアX>の脅威にさらされた世界。終末の危機が忍び寄る中、描かれるのは主人公達と世界の関係性というニューウェーヴの色濃い影響を感じさせる表現がいいですね。(まだ3巻目は読んでいませんが)

『リテラリ―ゴシック・イン・ジャパン』 高原英理

 北原白秋から伊藤計劃まで幅広い時代・ジャンルを縦横無尽に網羅し、ゴシックというキーワードで日本文学史をとらえ直した野心的アンソロジー。これぞスペキュレイティヴ。




らっぱ亭 さん

『SFマガジン2014年12月号 R・A・ラファティ生誕100年記念特集』監修:牧眞司

 反則かもしれませんが、ラファティ者としてはこれしかない! 個人作家特集としては未曾有の充実ぶりで、ラファティの短篇、エッセイ、インタビューの翻訳、長篇・短篇の邦訳全レビュウ、未訳作品紹介、往復書簡、怒濤のコラムとエッセイ(浅倉久志!)などなど、約100ページまるまるラファティ。個人的にはSFマガジンデビューも嬉しかったですw
 ラファティ生誕100年ということで、国内では坂永雄一の旗振りでラファティ・トリビュート同人誌『つぎの岩』が刊行され、船戸一人や伴名練らが寄稿。これもラファティアン必携ですね。第二版では超隙間ネタの倉田タカシ・イラストも楽しかった。また海外ではフェイスブックのラファティ・ファングループが中心となって『Feast of Laughter』一号が刊行。PDF版は無料でダウンロードできるので、是非とも。http://www.feastoflaughter.org

『ピース』 ジーン・ウルフ 西崎憲・館野浩美 訳 国書刊行会

 翻訳されたことが奇跡のように思えるジーン・ウルフの傑作。作品も翻訳も装丁もなにもかも素晴らしい! よくわからないところも含めて。

『うどん キツネつきの』高山羽根子 創元日本SF叢書

 なんとも素晴らしくしかしその素晴らしさをなんとも説明し難いもどかしさ。ヘンテコで、しかしたぶんどこかまた別の世界ではキッチリと筋の通った話なのかもしれないと思わせるシタタカさもそなえた作品群は日本SF界のいや日本文学界の一大収穫だよなあ、ホント。
(↑読了時に興奮してツイートしたコメントの再録なので何が言いたいのかよくわからないが、たぶん激賞しているらしい)

『夏色の想像力』 夏色草原社(第53回日本SF大会なつこん)

 今年もアンソロジーにはいろいろと楽しませてもらったが、これを選んだ理由は、倉田タカシ「あなたは月面に倒れている」が超絶お気に入りだから。今世紀の日本にはスタージョンもラファティもいないけど、なんかもう大丈夫だなあ。

『霧に橋を架ける』 キジ・ジョンスン 三角和代 訳 東京創元社

 (日本翻訳大賞への推薦文を再掲します)
 キジ・ジョンスンはweb公開の「Spar」を読み衝撃を受けた。当時Twitterでスパー談義が盛り上がったのも懐かしい。http://togetter.com/li/32035
 しかしコレ翻訳は難しいだろうなーと感じたことも憶えている。だから、今回まず「スパー」を読み、そして安堵した。本作品集は、キジ・ジョンスンお得意のジャパネスクな動物ファンタジー系の作品をバッサリと省いた大胆かつ秀逸な編集が成功しており、本邦の読者にとっては、モダンなストレンジ・フィクション系の作品から詩情溢れる重厚なSFファンタジーまで、今まさに旬の作家の魅力を余すところなく伝える一冊となっている。そして三角和代氏の訳文は、時に詩的で叙情的であり、時にスタイリッシュで硬質なキジ・ジョンスンの文体に寄り添った見事なものだ。これからもこの作家の紹介を続けていただきたいと切に思う。

 以上、各1点で。(SFマガジンが対象外ならば、『ピース』を2点に)

 その他、気になった作品を主に自ツイートからピックアップ。

 津原泰水の名作を見事にコミカライズした近藤ようこ『五色の舟』はまさに奇跡のコラボレーション。

 "TSUTSUI is ALIVE and Well…"って感じの筒井康隆『繁栄の昭和』は十八番の夢とうつつと虚構の作品群。遠い昭和の郷愁と隠微なエロスとグロテスクなイメージがねっとりと纏わり付く「川端康成賞狙い」(©筒井光子)の「一族散らし語り」が圧巻。

 『ウは宇宙ヤバイのウ』。うわーえすえふだー。ブラッドベリ・オマージュはタイトルだけかと思ったら「万華鏡」パク...いやインスパイアのサイボーグ 009 小ネタもあったよ。そしてビッスン・ネタが出てくるラノベは宮澤伊織先生だけ(たぶん)w ちなみに"コードウェイナー菫"のネーミングが話題となっていたが、まだまだ甘かった。白衣眼鏡の助手っ娘"州谷州わふれむ"ってwww この時点で、もう出る限りの続刊を買い続けようと思ったよ。

 ジョー・ウォルトン『図書室の魔法』。実のところぜんぜんSFな話じゃないのにSFファンの心を鷲掴みにしてヒューゴー賞獲っちゃうのも当然な作品だー。そしてたぶんSFどっぷりな少年少女時代をおくったひとの共感も。痛い痛い痛いやめてくれうががががーってもんどり打ちながら読了。

 牧野修『私の本気をあなたは馬鹿というかもね』は『大正二十九年の乙女たち』で描かれた不穏な改変歴史日本の少し後の時代を舞台とした、これもまた秀逸な少女小説だ。少女たちのまっすぐで馬鹿で、なんとも美しい瞬間は短くも愛おしい。そして、またつぎの少女たちへとつづくのだろうか。

 オキシタケヒコ『筺底のエルピス』 いやもう、あらゆるツボを完璧に押さえてますねー。古来から続く退魔の戦記をSF的設定バッチリに描く手法はジーン・ウルフより百倍親切・サービス満点な伝奇ハードSFラノベ。いろいろと感想はあるものの、一言でまとめたら「面白ぇぇぇぇぇぇーっ!」
 しかしあずにゃん系ツンデレ戦闘ヒロインといい、人外憑依系お兄ちゃ〜んな妹といい、天然ゆるふわ系親友といい、冷徹アイスドール系修道美少女といい、見事にツボを押さえたヒロイン達が活躍するのだが、実はサド系女医キャラが一番作者のツボだったりしてw




本橋 牛乳 さん

 今年も投票させていただきます。

「霧の犬」辺見庸
「SF的な宇宙で安全に暮らすっていうこと」チャールズ・ユウ
「狼少女たちの聖ルーシー寮」カレン・ラッセル
「月の部屋で会いましょう」レイ・ヴィクサヴィッチ
「サンリオSF文庫総解説」牧眞司、大森望

「霧の犬」
 ぼくたちがどういう時代に生きているのか。ものすごく気持ち悪いと感じている人はたくさんいると思います。でも、それは今という断片ではないし、安倍晋三という個人に集約されるものでもありません。積み重なった不快感、それが、福島第一原発事故のように具体化することもあります。死刑制度では、多くの人は当然のように、人の命が奪われることを支持します。あるいは、第二次世界大戦時の日本が行ってきたことは、しばしば忘れられようとします。同時に、辺見は脳血管障害とがんによって、身体が思うようにならないということも抱えています。こうしたことが、主人公の中に折り重なって見える。その内面が、提示されていく。「霧の犬」が描いているのは、こうした外の不快感と壊れた身体を通じて見た風景です。けれども、それは目を背けることができない、内宇宙などだと思うのです。
 SFはこうした毒を、今でも持っているし、作家は感じているとも思っています。それが、第三者によって無毒化されることがないように、という想いも込めて、この作品に1票。

「SF的な宇宙で安全に暮らすということについて」
 タイムマシンがあったら、自分の未来を知ってしまう。また、過去は買えることができない。そういったこととどうやって折り合いをつけていくのか。そこで語られる感情と思考の流れというものに、ひきつけられます。

「狼少女たちの聖ルーシー寮」
 実は異形の家族小説を集めた短編集。家族って何か、スタンダードではない形をさまざまに提示してみることで、つながりの本質が見えてくるような気がします。そのことは、「SF的な宇宙で・・・」の主人公と父親との関係にも、似たものを感じます。

「月の部屋で会いましょう」
 ぶっとんだ設定ばかりが目立つけれども、ものすごくセンチメンタルな作品集。おかしな設定だからこそ、人が人に何を求めているのかが、かえって純粋に示されるのかもしれません。

「サンリオSF文庫総解説」
 実は、サンリオSF文庫をリアルタイムで読んだことがない世代が執筆者として参加し、距離をとって読んでいるところが、ものすごくおもしろかった。それはそれとして、かつてこうした作品が翻訳されていたという事実そのものが、大きな遺産なんだということにも気づかされます。ディックがどんどん訳されたということもあるでしょうが、それだけではなく、その影響は、時間を超えることもあって、近年はアンナ・カヴァンの翻訳が出たりする、といったこともあります。SFにとどまらない、ユニークな海外文学が翻訳されるということが、これからも続きますように。




nyam さん

 2014年は、ミステリなどSFの境界領域にシフトしてました。もっと頑張れ!オレ・・・(以下各1点)

『今日から地球人』マット・ヘイグ(早川ミステリ文庫)
 P.K.ディックが描くと悪夢なんだが、この作者だといい話になっちゃったよ。

『火星の人』アンディ・ウィアー(ハヤカワ文庫SF)
 奇想天外さはないが、読みやすくて、楽天的で、前向きな作品。

『プロット・アゲンスト・アメリカ』フィリップ・ロス(集英社)
 平行世界の暗黒アメリカをユダヤ人の視点で描く。後半がちょっと納得いかない。

『プロジェクトぴあの』 山本弘(PHP研究所)
 同じ作者の「UFOはもう来ない」がとても良い出来だったので、こちらも読んでみました。

『宇宙人相場』芝村 裕吏(ハヤカワ文庫JA)
 株式投資とファーストコンタクトテーマのあっと驚くハイブリッド。

●番外編 映画『LUCY』 

 あと、東京創元社の『銀河帝国を継ぐ者』『2312』『外交特例』も面白かった。




キュウちゃん さん

今年は、皆さん出足が遅いようで。もう月末間近ですが・・・。
今年もボーダーラインを。
1.柴野拓美SF評論集 理性と自走性――黎明より 牧眞司=編
2.戦前日本SF映画創世記 ゴジラは何でできているか 高槻真樹
3.歳月パラパラ 眉村卓
4.創作の極意と掟 筒井康隆
5.理不尽な進化 遺伝子と運のあいだ 吉川浩満

以上に各1点でお願いします。

相変わらず「SFが読みたい! 2015年度版」に取り上げられない様なところを見ています。
小説も読んではいますが、とても投票には間に合いません。
「サンリオSF文庫総解説」は外の方が投票されているので外しました。

今年は以上で、よろしくお願いします。




大熊 宏俊 さん

原田裕『戦後の講談社と東都書房』(論創社)1点。

 原田裕氏は今年91歳。昭和21年に講談社に入社、定年退職後出版社を立ち上げられ、その会社=出版芸術社では現在『筒井康隆コレクション』を鋭意刊行中と、戦後今日に至るまで70年間、一貫して出版の現場で活躍してこられた最長老です。その原田氏に、主に講談社時代・東都書房(実は講談社の一部門)時代について語ってもらったのが本書。大変面白かった。擱坐した東都SFシリーズですが、もし原田氏が人事異動で他部署に移られることなかりせば、インタビュアーも言っているように、講談社を後ろ盾に持つ東都SFは、早川書房の日本SFシリーズの対抗馬として、日本SF初期シーンにまた異なる刺激を与え、別の展開を示したかもしれないと、本気でそう思いました。本書はこのままで大変刺激的なのですが、ただインタビュアーがミステリの方らしく、本書に私が期待していたSF関連は殆んど話題に上りません。東都SF関連も数頁で、ミステリファンならばこれで十分なんでしょうが、私はいささか残念に感じました。なろうことならSFに焦点を絞って出版芸術社も視野に収めた第2弾を期待したいです。

眉村卓『歳月パラパラ』(出版芸術社)1点。

 眉村さんの最新エッセイ集です。実は東都SFシリーズから唯一長篇『燃える傾斜』を出版したのが眉村卓氏なんですよね。そんなわけで本書には、上記したところの原田インタビューでは不満だった部分を補うエッセイが載っていまして、セットで読むとなかなか興味深いのです。たとえば福島さんはやはり講談社の東都SFに脅威を感じていたんでしょう、眉村さんはしばらくSFMから干され、その頃発足した日本SF作家クラブにも入れてもらえなかったとありますね(星さんが心配してくれたとも)。本エッセイには、他にもこれまであまり語られることがなかった事実がわりと記述されていて、日本SF史の資料としても価値の高いものです。

田丸雅智『海色の壜』(出版芸術社)1点。

 同じく出版芸術社から上梓された新人作家のショートショート集です。本書はデビュー作『夢巻』に続く第二弾。『夢巻』も面白かったですが、本書はさらに出来がよいです。ショートショート作家らしく作風は多様ですが、大別して感傷的なものとほら話的なものに分かれます。私は後者が気に入っています。近年なかなか現れなかったショートショートの有望新人で、今後の活躍が大いに楽しみです。

有栖川有栖『大阪ラビリンス』(新潮文庫)1点。

 堀晃さんの異色の傑作「梅田地下オデッセイ」が撰録されたので購入したのでしたが、他の収録作品も大変面白く、思いがけなくもよい買い物をしました。収録作品の選定基準が、19世紀末から現代まで、東北端の旭区から西南端の大正区まで、大阪を一望する楽天地登仙閣の展望台から梅田の地下世界までと、きわめて特異なジャンル横断的セレクションになっているのも魅力で、様々な大阪の近現代の文学風景が、アンソロジストの宜しきを得てバラエティ且つ過不足なく提示されていて、堪能しました。

ケリー・リンク『プリティ・モンスターズ』柴田元幸訳(早川書房)1点。

 海外小説からも一作。久しぶりのリンクの翻訳ということで、リンク大好きな私としては大いに期待して購入したのでしたが、果たせるかな想像していた通りのきわめてレベルの高い作品集で、満足満足でありました。ただこの中から私がベストを選ぶとしますと、旧作からの再録が上位になってしまうのです。だからといって新作が不満足だったわけではありません。再録を除外しても十分レベルの高い作品集なのです。しかし新作は常に旧作を乗り越えたものであってほしいと思うのは、ファンとして当然ですよね。ね。次の作品集を期待して待ちたいです。

選外となりましたが、以下の本も大変面白く、たのしませてもらいました。

アレクサンダー・レルネット=ホレーニア『両シチリア連隊』垂野創一郎訳(東京創元社)
ダンセイニ卿『賢女の呪い』稲垣博訳(盛林堂ミステリアス文庫)
未谷おと『月虹――松村みね子訳詩集――』(盛林堂ミステリアス文庫)
平谷美樹『伊達藩黒脛巾組 独眼竜の忍び(上下)(富士見新時代小説文庫)




Takechan さん

今年からSFMが、隔月刊になるという。高校生の時から50年以上定期購読を続けていたが、最近は定期購読をやめていた。それでも、ほとんどのバックナンバーは捨てずに残っている。いまでも、黒い破壊者 (宇宙生命SF傑作選)などを読み返すと、P.アンダースンの「キリエ」では宇宙のロマンを感じる。A・E・ヴァン・ヴォークト「黒い破壊者」は、「空想科学小説ベスト10」で、大昔に読んでいるが、今読み返してみてネコ型エイリアンにちょつぴり同情を感じるのは年をとったからでしょうか。

下記の作品に1点づつ入れてください。

『火星の人』アンディ・ウィアー
火星でのサーバイバル小説。昔,SFMに連載されていた「月は地獄だ」を思い出した。
かなり楽天的に描かれており、完全有機栽培でじゃがいもを作るところ等は笑ってしまう。

『レッドスーツ』ジョン・スコルジー
メタメタなメタSF。スタートレックの世代ではないが、楽しくよめた。

『図書室の魔法(上・下)』ジョー・ウォルトン
15歳のSFおたく少女の成長の物語。作中で言及されるいくつかのSFがなつかしい。
私も15歳からSFにはまったが、当時のお気に入りはA.C。クラーク、I。アシモフ、E。ハミルトンなどであった。それに比べると彼女は随分ませている。

『SF的な宇宙で安全に暮らすっていうこと』チャールズ・ユウ
何も知らずに読んだら、チャールズ・ユウなどという作家は架空の作家で、訳者の円上塔のオリジナルの作品のような印象をうけた。

『カノン』中原清一郎
SFの古典的テーマである精神交換をあつかった作品。脳間海馬移植が可能となった近未来が描かれているが、意識は海馬だけではなく、脳の複雑なネットワークにより生じると思われるので全脳移植でも行わないとむりだとおもうが。読後感は帯に書いてある「ソラリス」ではなくて、「アルジャーノン」にちかい。




渡邊 利道 さん

『埠頭三角暗闇市場』椎名誠
帯がシーナ・ワールドという言葉を使わずにSFとなっていたのが驚きでした。いつもそうなのですが、椎名さんの未来史はアモラルで陰気な熱がこもっていて独特な面白さがありますね。今回の作品では黒澤明の「酔いどれ天使」とか山田風太郎の荊木歓喜シリーズなどを想起させられるところがある「戦後」のイメージが鮮烈でした。

『ユゴスの囁き』松村進吉・間瀬純子・山田剛毅
ラブクラフトを現代作家がリメイクするトリビュートシリーズの一冊で、なんといっても間瀬純子さんの「羊歯の蟻」が圧倒的です。これほど絶望的で笑ってしまうような結末はこの作者意外ではそうそうお目にかかれないと思います。間瀬さんのクトゥルーものは世界各地を舞台に移動し続けていて次回もチョー期待しています。

『契約 鈴木いづみSF全集』
こういう本が欲しかったという本ですね。読みかえすたびに子供の頃にあこがれたにーさんねーさんの世界をそのときに感じた疎外感とともに思い出します。

『うどん キツネつきの』高山羽根子
まとめて読み直すとこれは完全に現代文学だなあと思います。『月の部屋で逢いましょう』の解説にも書いたのですが、ジャンルの垣根がまったく意味を為さない作品が次々にあらわれていて、どういう言葉でそれを受け止めていくのかというのを評論家としては考えてしまうところです。

『臣女』吉村萬壱
前作が福島を想像させ、今作も介護のテーマを引き寄せるのですが、小説それ自体の力で一気にそういうテーマがどうでもよくなってしまうような抽象的なところにもっていってしまう膂力が素晴らしいです。SF、というか社会的なテーマに肉薄する小説のひとつの理想型だと思います。

今年はほかのベスト投票では触れられなかったものを中心に選んでみました。今年も手に余るほどのいろいろな作品を読みたいです。




森下 一仁

国内作品のみで選んでみました。

  • 藤井太洋『オービタル・クラウド』(早川書房 2014.2.25)
  • 仁木稔『ミーチャ・ベリャーエフの子狐たち』(ハヤカワSFシリーズJコレクション 2014.4.25)
  • 長谷敏司『My Humanity』(ハヤカワ文庫JA2014.2.25)
  • 森岡浩之『突変』(徳間文庫 2014.9.15)
  • 高山羽根子『うどん キツネつきの』(創元日本SF叢書 2014.11.28)

こうして見ると、素晴らしく充実した年だったと思います。筒井康隆『繁栄の昭和』が入らないのがもったいない。




小泉 博彦 さん

「繁栄の昭和」 筒井康隆 2点
「カンパニー・マン」 ロバート・ジャクソン・ベネット 1点
「NOS4A2―ノスフェラトゥ―」 ジョー・ヒル 1点
「時が新しかったころ」 ロバート・F・ヤング 0.5点
「宰相の二番目の娘」 ロバーロ・F・ヤング 0.5点

期待はずれが多かった一年のように思います。読み手の問題かもしれないけれど。それにしても、ヤングを二作入れることはないと、自分でも思います。




笛地 静恵 さん

『うどんキツネつきの』高山羽根子 3点

たとえば、目の前に紗がある。
裏には、何かの彫刻作品が、置かれているようだ。
背後から、光が当てられている。
幕に投影された姿を見ている。
何かを見ている。
人間のように見える。
しかし、角度を変えれば、それは、まったく別な竜の像であるかもしれない。

文字で描かれた美術作品である。

日本のSFは、言語にこだわることによって、小説の境界を越えていこうとしている。
その流れに乗っている。




角谷 洋子 さん

ジーン・ウルフ『ピース』

一作品のみでお願いします。
私にとって特別な作家の魔法のような傑作を。

(森下註:1作品のみの投票なので5点となります)




椋野 直樹 さん

  1. 『赫獣』 岸川真(河出書房新社)2点
  2. 『中子真司SF映画評集成』 中子真司(洋泉社)1点
  3. 『機龍警察 未亡旅団』 月村了衛(早川書房)0.5点
  4. 『サンリオSF文庫総解説』牧眞司、大森望 編(本の雑誌社)0.5点

2014年は70〜80年代の映画、音楽、フィギュアなどサブカルチャー、オタクカルチャーの現場を回想、あるいは当時のレポートをまとめた本が目立ち、内容も充実したものが多かった。他にも『海洋堂創世記』やケイブンシャの辞典シリーズ解説本、『ゴジラ』の本多猪四郎監督の詳細な研究など。
と言うか、そういうものにしか興味が向かなくなってしまったのですかねえ。先月50歳になってしまいました。気だけは若くありたい(笑)

ベストSF映画
  1. 『ホドロフスキーのDUNE』 フランク・パビッチ
  2. 『キャプテンアメリカ ウィンターソルジャー』 アンソニー&ジョー・ルッソ
  3. 『ベイマックス』 ドン・ホール、クリス・ウィリアムズ

ノーランは元より嫌いなので『インターステラー』は認めません。バカ映画。『ゴジラ』は怪獣映画としてのルックは大満足だが、脚本がかなり雑に過ぎる。




青の零号 さん

ジーン・ウルフ『ピース』5点

らっぱ亭さんにそそのかされて投票しに参りました。
とにかく2014年はこの1作につきます。
すべてを書かないことによって読みの可能性を無限に広げてくれるのはウルフの得意技ですが、それを実現するのは選び抜いた言葉で慎重に組み上げた物語の中に、いくつもの仕掛けを縦横無尽に張りめぐらしているから。
平凡な光景がふとした発見によって見知らぬ異界へと変貌していくさまは、まさにSFの妙味でしょう。
作家としての実質的なデビュー長編とも言える本作でこれだけのものを書き上げた孤高の狼に敬意を表して、持ち点全部を捧げたいと思います。




池宮 京一 さん

  1. 火星の人
    いかに過酷な環境で生き延びるか。 堪能しました。
    しかしこのタイトルは、何とかならなかったのですかねえ。

  2. 深紅の碑文
    ますます力強くなってきましたね。これからも期待しています。

  3. 新生
    素晴らしかったです。これからも出るたびに購入します。

もっともっと読みたかったのですが、積読状態の本が多かったので、この3点だけです。 ちょっと投票期限を過ぎましたか?

(森下註:半日遅れで到着しましたがOKとしました。ただし『深紅の碑文』は2013年12月刊行なので集計の対象外です。残る2作に、2.5点ずつ配分しました)




山口 素夫 さん

相変わらずSFを読んではいるのですが、積ん読だけの本が多すぎてなかなか出版年内に読めないので、調べたら下記2点くらいしかありませんでした。各1点ということにしてください。

きつねのつき 北野勇作 
相変わらずの北野ワールドですが、大震災以後の日本ではより読者の荒廃した世界へのイマジネーションを刺激されます。

図書室の魔法 ジョーウォルトン
ファンタジーのジャンルなのでしょうが、70年代のSFが次々出てくるので、読みながらタイムトリップしている気分でした。
私がもっとも熱心にSFを読みふけっていたのは高校生の頃なので、この作者の年代より少し上でしたが、のちに作家になるほどの人はかなり早熟だったのでしょうね。
でも大学でSF研に入っていましたが、こんなふうに読んだ本について熱心に話しあった記憶はないのです。一の日会ではこんな感じだったのですか、森下さん。
主人公が読んだ本をまた読み返してみたくなりました。それだけでもこの本を読んで良かったと思っています。

(森下註:こちらも「遅刻」組ですがカウントします。喫茶店や居酒屋で、かなり熱心に本の話をした記憶がありますよ。>山口さん(^^) )





ベストSF2014 投票要領


 今年もやります、良かったSFアンケート。
じっくり選んで投票してください。

 2014年1月1日から12月31日までに国内で出版されたSF(奥付の日付で判断してください)で、あなたがおもしろかったと思うものをEメールで投票してください。要領は次のとおりです。