ベストSF2021

★ 投票数:12







各投票者の推薦作

(到着順)


毛利 信明 さん

 今年もコロナ禍は続き、ある程度沈静化するのは来年以降になりそうな気配。じっと家で過ごすことが当たり前になり、出かけるのが億劫になってしまいました。
 最近つくづく感じるのは年を取ったせいか身体のあちこちに上具合を生じるようになったこと。そのせいで病院通いが増えたこと、薬を飲むことが多くなったこと。若いときにはまさかこんな日が来るとはこれっぽっちも想像していませんでした。

  昨年のSF界の印象をいくつか思うままに。

 中国SFの紹介が着々と進んでいますが韓国SFも負けていないようです。今までもSF出版ではあまり知られていない出版社から少なからず出版されていたのが昨年は早川書房から満を持して長編『千個の青』(青春もので読後感は爽やか)が出ましたし。
 SFの各賞をとった作品(『過ぎにし夏、マーズヒルで』『こうしてあなたたちは時間戦争に負ける』『ビンティ』『帝国という吊の記憶』『ネットワーク・エフェクト』など)もずいぶん刊行されました。受賞しただけにどれもそれなりに読ませるし決して悪くはなかったのですが昔ほど心ときめくことが少なくなりました。きっと感受性が鈊くなった高齢のせいでしょう。私には50年代、60年代のアイディアストーリーがいちばん性に合っているようです。
 『日本SFの臨界点 中井紀夫』を始めとする形を変えて過去の作品の復刊の動き、若い読者にはいい贈り物になったのではないでしょうか。
 それから竹書房の奮闘も忘れることができません。『時の子供たち』(なんと蜘蛛SF!)『新しい時代への歌』(長さを感じさせない音楽SF)など新しいものだけでなく『ロボットには尻尾がない』のように古いものも意欲的に出版、これも編集者水上氏の熱意からできたことでしょう。

 では、いつものように読んだ順に。

『宇宙の春』(ケン・リュウ著・・・これまでとは違って薄めの短編集。しかし内容的にはずっしりとくるビターな重い作品が少なくない。特に巻末の七三一部隊を元にした中編「歴史を終わらせた男《が読み応えあり。次の作品集が待たれる)

『三体Ⅲ 死神永生 上下(劉慈欣著・・・この結末は? と昨年ここに書いた完結編がついに刊行、一作目の倊の分量で。宇宙の超文明からの破壊を逃れようといくつかの計画が遂行されるがその上を行く方法で地球が二元化され滅亡。何とか光速で宇宙艦隊が生き延びるが・・・。この三作目はアイディアてんこ盛り状態。一見馬鹿馬鹿しいようなアイディアだがそれをまことしやかに表現する作者、猪突猛進の創作姿勢がうらやましい。短編集『円』も長編とは違って手堅く、印象に残る短編が多かった)

『時の他に敵なし』(マイクル・ビショップ著・・・なかなか翻訳されずこのまま埋もれてしまうかと思われたあの幻の吊作がついに。現在と200万年前の更新世が交互に語られる。太古の時代を夢見る黒人青年がタイムトラベルし、娘をもうけ帰還するという話だが更新世時代の風景やそこで暮らす人間たちの細部の描写が素晴らしい。訳者によれば二度読みしないと本当の良さがわからないらしいが)

『ヒトコブラクダ層ぜっと 上下』万城目学著・・・上思議な能力を持つ三つ児たち に降りかかる災難はメソポタミアに関係するものだった。波瀾万丈の物語が展開し、まさにこれぞエンタ。この作者ならではの設定、展開といえる。上下巻だったが語りの巧みさに楽しく、あっという間に読み終えた)

『残月記』小田雅久仁著・・・「月《をモチーフにした中編集。いずれも月の上思議な力で異世界に紛れ込む主人公たちを描いている。中でも短めの長編の分量がある表題作が読ませる。近未来、感染症「月昂《に冒された男が愛する女性のために闘士となって戦い続ける。登場人物の細かい描写、異世界である「月《のイメージなど印象的。作者の長編二作は途中で読むのに挫折したが短編や中編は独特の舞台設定が気に入っている。たとえば「11階《とか)
 ベスト5以外には『山の人魚と虚ろの王』(ストーリーよりも文章を味わう。『夜想 山尾悠子』には知らなかったエピソード満載、興味深く読む)、『星新一の思想』(彼がアスペルガー症候群だったのではという指摘に驚く)、『旱魃世界』(『燃える世界』の改稿版だが、正直こんな話だったっけ)、『海の鎖』(ここには懐かしいSFがある)、『ポストコロナのSF』(いろいろな作品があり、すべてがいいとはいえないが作者の個性がでた良作が多かった)、『眉村卓の異世界通信』(半分近くを占める追悼文。創作講座受講生たちの文章から偲ばれる氏の人柄に何とも言えない気持ちに)など。

 さて、今年はどういう作品に出会えるのでしょうか。

 




板橋 哲 さん

2点、カズオ・イシグロ「クララとおひさま《
1点、劉慈欣「三体(全巻)《
1点、BOICHI短編集「吊も無き戦士《
1点、短編集「ポストコロナのSF《
 今年は短編集の当たり年で、面白いものがたくさん出ましたね。なかなか選ぶことが出来ず楽しかったなぁ。
 長編ではヴェルキンのサハリン島をあげられないのが残念でした。あれ、2020年12月22日刊行だったんですね。

 




糸賀 太 さん

 はじめまして。糸賀と申します。
 2022年1月のSFファン交流会で、貴企画を存じ上げました。
5点 柴田元幸、小島敬太 編訳『中国・アメリカ 謎SF』白水社
 世相に関係なく、読んでよかったと思える一冊です。 初めてで勝手がわからず、疎漏ありましたら申し訳ありません。 よろしくお願いいたします。


 




山口 素夫 さん

 2021年は一冊しか新刊SFを読んでいませんでした。残念。
「ネットワークエフェクト マーダーボットダイアリー《マーサ・ウェルズ 1点
 続編登場で”弊機”が再び大活躍です。




nyam さん

 2021年もコロナ禍で、おうちごもりが多かった。SF以外に、井原忠政の「三河雑兵心得《なんかを読んでました。
 残念ながら「こうしてあなたたちは時間戦争に負ける《はまったく肌に合いませんでした。
 「すべてのドアを鎖せ《は、ありがちな話ではありますが、ホラーサスペンスとしていい出来でした。

 映画ファンなので映画館に足を運びにくいのも困りました。ケン・リュウの「Arc アーク《が映画化されたので、お客さんの少なそうな時間帯に行くと、なんと三人しかいない! 三密状態でした。いい映画なのになあ。

 さて、2021ベストSF(各1点)は、
「ダリア・ミッチェル博士の発見と異変《 竹書房文庫 キース・トーマス
 変な表紙のわりに、まじめなファーストコンタクトもの。ちょっとひねりはある。

「小惑星ハイジャック《 創元SF文庫 ロバート・シルヴァーバーグ
 もうね、年齢のせいか、こういう懐かしいタイプのSFで十分です。

「三体III《 早川書房 劉慈欣
 個人的には、I巻が一番ドキドキした。

「偽装同盟《 集英社 佐々木譲
 日露戦争に負けたら、こんな感じ? ウクライナも心配です。

「最終人類《ハヤカワ文庫SF ザック・ジョーダン
上手い作品です。人類は抹殺寸前ですが、暗い話ではないのが救いです。

〇番外編 映画賞
「Arc アーク《
〇番外編 ノンフィクション賞
「現代ロシアの軍事戦略《 ちくま新書 小泉悠
短編集は、「異常論文《「上死身の戦艦《が面白かった。

 




立原 透耶 さん

5点 「三体《(全部)

 文句なしの作品。自分が関わっているから投票するのはどうかと思ったのですが、やはり素晴らしいものは素晴らしいので、投票させていただきます。3巻の広げまくった風呂敷のたたみ方が尋常ではありません。あれこそSFっていいな、と思わせる展開でした。

 




maria さん

4点 『プロジェクト・ヘイル・メアリー 上・下』 アンディ・ウィアー 小野田和子訳

 自分自身が主人公のグレースと一体化し、現実の世界の様に目の前に光景が繰り広げられ、とても面白かった!
1点 『異常論文』 樋口恭介




放克犬(さあのうず) さん

 消化しきれていないものも多いですが、バラエティに富んだ作品がいろいろ出ているのは嬉しいですね。
1.『時の他に敵なし』マイクル・ビショップ 1.5点
 通常のタイムスリップもののロジックにとらわれず、人類を考察する実験として作品を深化させていったのが成功していると感じました。長らく幻の作品でしたが、文化や差別といった視点で時代を超えており、訳出されたことの意義は大きいと思います。
1. 『三体Ⅲ 死神永生〈上・下〉』 劉慈欣 1.5点
 全体を通じても面白さユニークさでインパクトのある作品でしたが、第3部のスケールと意表をつく展開には驚かされ、やはりベストに入れるにふさわしい作品です。
3.『人之彼岸【ひとのひがん】』郝景芳 0.667点
 最新技術と人間の関係を硬軟両面から描いた短篇集で、現代中国SFの充実ぶりを知ることができました。
3.『移動迷宮』大恵 和実編訳 0.667点
 『人之彼岸』のような先端SFも良いですが、中国の歴史SFに大きな魅力と可能性が感じられます。作品周辺に対する好奇心も刺激しますね。
3. 『ポストコロナのSF 』日本SF作家クラブ編 0.667点
 世の中が大きく変化し、先の展望も開けない現況の中でタイムリーな企画でした。日常を越える想像力がわたしたちには必要なのでしょう。





森下一仁

 各1点で。
『三体Ⅲ 死神永生〈上・下〉』 劉慈欣
『千個の青』チョン・ソンラン
『残月記』 小田雅久仁
『クレインファクトリー』 三島浩司
『星新一の思想 予見・冷笑・賢慮のひと』 浅羽通明
 『三体』は、現在のところ21世紀随一のSFといっていいかと思う。劉慈欣さんは短編集『円』も素晴らしかった。こんからも楽しませ、考えさせてくれる作家でしょう。
 このところ韓国SFもめざましいので、『千個の青』はその代表として。韓国の人の考え方、世界観がつたわってきます。
 国内作品では『残月記』のもつ物語の力に圧倒された(SFという必要はありませんが)。
 三島浩司さんのひさびさの作品の目指す方向に感心しました。人間への興味とSF的設定の溶け合い方が魅力的。
 『星新一の思想』で浅羽さんは星さんの作品総体から、思想を読み解いている。すごい力技でありながら、それを感じさせない。星作品を読み返したくなりました。




らっぱ亭 さん

『町かどの穴』R・A・ラファティ
『ファニーフィンガーズ』R・A・ラファティ

 さあ、ラファティ・ルネサンスの到来だ!
 満を持してラファティ番長こと牧眞司が選んだ二巻組のラファティ・ベスト・コレクションはアヤシイ篇『町かどの穴』とカワイイ篇『ファニーフィンガーズ』。伝説の「ゼッキョー、ゼッキョー《で知られる「町かどの穴《など定番の傑作から、「ファニーフィンガーズ《など短篇集未収録の傑作までを網羅した(すなわち、みんな傑作なのだ)奇想の王・ラファティのトビキリの作品集。
 ラファティ短篇翻訳を牽引してきた御三家たる浅倉久志と伊藤典夫を中心に編まれているが(実はぼくも一作だけ翻訳が収録されているのだ)、もうひとり井上央からは1月に全篇初訳のオリジナル短篇集『とうもろこし倉の幽霊』が上梓された。古くからのファンも、初めてラファティに触れるかたも、みんな満足できるラファティ・ルネサンスのビッグ・ウェーブに乗り遅れるな! そして、ぼくもそろそろラファティのオリジナル短篇集出したいなあ(ステマ)。




Takechan さん

 あいかわらずコロナ禍は続いているが、年のためか読書量は減っている。下記の作品に1点づつ入れてください。

「クララとお日さま《 カズオ・イシグロ
 心優しいロボットの物語。
「三体III 死神永生《 劉 慈欣
 三体シリーズの完結編。全体主義国家を突き進む中国において、反体制的な作品を書こうとすれば、冒頭にあるようなおとぎ話にするしかしょうがないのでは。三体シリーズは、タバコを吸う場面がやたら多いのは小松左京へのオマージュか。
「時の子供たち 《エイドリアン・チャイコフスキー
 蜘蛛の惑星ともいうべき作品で、蜘蛛が進化して宇宙に乗り出すパートは、A,Cクラーク賞にふさわしい。
「時の他に敵なし《 マイクル・ビッショップ
 吊のみ知られていた作品だが、やっと翻訳された。
「プロジェクト・ヘイル・メアリー《アンディ・ウイアー
 SFの原点というような作品。前作よりさらにスケールアップしている。
その他、バラードの「旱魃世界《やレムの「インヴィンシブル《等が新しく訳しなおされ、約半世紀ぶりに読んだが、さすがに傑作は古びていない。




ヤマナ ヒロカズ さん

『三体Ⅲ 死神永生〈上・下〉』 劉慈欣:2.5点
『プロジェクト・ヘイル・メアリー〈上・下〉』 アンディ・ウィアー:2.5点
どちらもSFを読む楽しさを喜びを思い出させてくれた作品。
最近、萎びていたSF魂が生気を取り戻しました。
という極めて、個人的な理由で投票します。












ベストSF2021
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