ベストSF2012

★ 投票数……17
(2013年2月28日締切)








各投票者の推薦作

(到着順)


毛利 信明 さん

 早いもので、もう2013年の正月ですか。昨年はSFマガジンで<日本SFの夏>という特集が組まれたりもしましたが、さて今年はどういうSF界になるのでしょう。

 悩んだ末のベスト5です。いつものように読んだ順に。
『盤上の夜』(宮内悠介)・・・ 四肢を失った女性棋士という設定に驚き。もちろん内容にも。

『サイバラバード・デイズ』イアン・マクドナルド)・・・ 『昔には帰れない』のピンチヒッターで登場。ばらつきはあるものの「ジンの花嫁」がマイ・ベスト。

『Delivery』八杉将司)・・・ SFガジェット満載でおもしろさ抜群。

『ぼくらは都市を愛していた』神林長平)・・・ やはり神林長平、いつもの<神林ワールド>炸裂。ますます思索的になっている。

『屍者の帝国』伊藤計劃・円城塔)・・・ 「冒険活劇」といっていいのでしょう。満足。
 上記以外では『シオンシステム完全版』『第六ポンプ』『NOVA7・8』『連環宇宙』『眉村卓コレクション』などが印象に残りました。ハヤカワJコレクションが一時期は毎月のように出版されたり、新SFシリーズも順調に巻を重ねている現状、「SF冬の時代」は確かに脱却したようです。創元SF新人賞からは多くの新人作家が生まれようとしていますし、ハヤカワのSFコンテストも再開。これからが楽しみです。



本橋 牛乳 さん

赤坂真理 「東京プリズン」 1点
伊藤計劃・円城塔 「屍者の帝国」 2点
鳥居みゆき 「余った傘はありません」 1点
「東京プリズン」は過去の自分と電話で話すということで、ぎりぎりSFかな、と。でも、日本人がどれだけきちんと過去と向き合ってこなかったのか。そのことが、どれだけ現在に悪影響を与えているのか。未来に目を向けるSFということでは、逆の位置にきちんと置いておきたい。一般文学としては5点をあげたい。

「屍者の帝国」は、伊藤計劃の感傷的な話が永遠に失われていることを考えて、失われた傑作に対する点数として1点。でも、円城塔の芸の見事さというのもあって、そこにもう1点。

「余った傘はありません」は芸人の本という枠でとらえられない。本人の芸もうっかりすると人間の本質に踏み込んでしまうので、笑えないホラーになるが、本書は小説として、言葉でしか表現できないところにまで踏み込んでいる傑作。

1点、残っちゃいましたが、こんなところでよろしくお願いします。



らっぱ亭 さん

ラファティ・ファンサイト「とりあえず、ラファティ」らっぱ亭(@RappaTei)です。
ラファティ「昔には帰れない」に5点ぜんぶ、以上ーっ! とは、小心者なのでさすがにできませんでした......。 (このネタ去年もやったなあ)

というわけで、
「昔には帰れない」R・A・ラファティ 早川書房 (ハヤカワ文庫 SF) 3点
うまくいったら「第四の館」と「蛇の卵」の三冊並べてよろしくって予定だったのですが、諸事情により今年はこの一冊となりました。
とは言え、単行本未収録の伊藤典夫訳をすべて収録し、浅倉久志訳の代表的なものも収録。
ヒューゴー受賞作「素顔のユリーマ」、しみじみラファティの佳作である表題作「昔には帰れない」などなど。
初心者からすれっからしのラファティ・ファンまで満足すること間違いなしです。
ちなみに傑作「ファニーフィンガーズ」と「田園の女王」が載ってないのは、つぎの短篇集につづく、と希望的観測をしています。

さて、以下4作はいずれも0.5点づつで。

今年は海外と日本でオールタイム・ベスト級の2短編を含む短篇集が出ました。
「第六ポンプ」パオロ・バチガルピ 早川書房 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ) 0.5点
全体的にレベルの高いSF短篇集ですが、特に表題作「第六ポンプ」は素晴らしい。
「飛行士と東京の雨の森」西崎憲 筑摩書房 0.5点
音楽と詩情に溢れた質の高い短篇集ですが、基本的にSFではないです。
しかし、巻末の「奴隷」はSF者も必読の傑作です。これからも様々なアンソロジーに再録されて読み継がれていくものと信じております。
今年出た「NOVA7」(河出書房新社)収録の「開閉式」もオススメですね。
「2」野アまど アスキーメディアワークス (メディアワークス文庫) 0.5点
早川書房からの新作も予告され、やっとSFクラスタのかたにも認識されてきたかなあ。
これまでの全作を読んでから読むと凄まじさがわかるひとには、わかる。(あ、「野アまど劇場」は読んでいなくても大丈夫かもw ばかばかしくて大好きですが)

はっ、気がつくとここまで去年と同じラインナップでした。(「翼の贈りもの」R・A・ラファティ、「ねじまき少女」パオロ・バチガルピ、「ゆみに町ガイドブック」西崎憲、「小説家の作り方」野アまど)
後一冊は「都市と都市」 チャイナ・ミエヴィルだったのですが、今年はどうしよう。
『盤上の夜』宮内悠介、『道化師の蝶』円城塔あたりかなあ。他の話題作はほとんど積んでいるし。どちらもよかったけど、私が挙げなくてもいいかなあ。

そうだ、「ニッケルオデオン 赤」にしよう。「ニッケルオデオン 緑」と「ヴォイニッチホテル 2 」が出たのでご祝儀で。(いいのかw)
「ニッケルオデオン 赤」道満晴明 小学館 (IKKI COMIX) 0.5点
以上、よろしくお願いします。



笛地 静恵 さん

(1)  ロイス・マクマスター・ビジョルド『影の王国』 2点 東京創元社
『影の王国』原題The hallowed hunt。自分の中で、勝手に『神聖狩り』という邦題を作っていたなあ。
長いこと、翻訳が待ち遠しかったのだ。二日で読んでしまった。おもしろうてやがてかなしき読者かな
冬至に読了。
五神教世界。狼に育てられた双子の物語から『ハムレット』まで。西洋の神話や伝説に新たな視点が開かれる。
登場人物が「五方向」から考えることを求められるように。
狼男の物語。満月の夜に変身し、大量虐殺を繰り広げることはない。天国の門をくぐり、神の手に至れるものは、人間の魂のみである。動物はそうではない。動物の魂は汚れとされる。この前提条件がある。
宗教に由来する差別意識の峻厳。
五柱の神が存在し、複雑なパワー・ゲームを展開する世界で、人間の自由意志は、いかにして可能か?
「ちょうど東の尾根から顔を出した太陽の力で、湿気の多い大気は流れる黄金に、はるかな斜面は燃え立つ緑に変貌しつつあった。集落と畑の向こうには深い森が広がり、おそらく炭焼きだろうか、ひとすじたちのぼる煙よりほか、人の住む印はどこにも見えない。」(上)36頁。
風景描写の冴え。
そして、王とは何か?
王の力とは何か?
アレキサンダー大王の東征という偉業は、なぜ可能だったのか?
ビジョルドの想像力は、西洋の歴史の謎の核心に切り込んでいく。
「五柱の名に賭けて、いったいアウダル大王はどのようにして、軍を率いてこの丘陵地帯を全速力で駆け抜けたのだろう。」(下)237頁
カリスマとは何かという問いへの真摯な答えがある。
「なぜならば、親指は他の四本の指に触れることができるからです」/言葉がどこからともなくやってきて、彼の口からこぼれたかのようだった。」(下)189頁 
作者は、自ら作り上げた五柱の神が、唯一の神の手の指先にすぎないと書きつつ気が付いた。
戦慄。
五神教世界終焉。
(2) 『ビアンカ・オーバースタディ』 1点 筒井康隆 星海社 2012年 950円+税 
21世紀の”時をかける少女“とある。どうしても、あれと似た作品をと期待してしまう。しかし、別種の世界。ビアンカは白ワイン。その放課後という題名。未来人を助ける少女たちの物語。
読後の酔い心地は苦い。
前作の可憐な女子高生は、実験のためには手段を選ばないマッド・サイエンティストになった。未来人の少年は、実に情けない。未来の恋の成就はありそうにない。
行為そのものは過激になったが、ラベンダーの香はしてきそうもない。抒情よりも叙事が基本である。きびきびと進む。

前作を初版の刊行時に読んでいる。
あれから四十年。
だが、中・高校生の男子は、当時も女子に頭が上がらなかった。女子の方が強かった。SF小説を読み終わった後の日常生活は、退屈だった。米ソの核戦争によって世界は滅亡するかもしれないと不安を抱いた。
何も変わっていない。
いとうのいぢのカラーの挿絵が可愛い。小さなことだが、69頁の少年の顔はおかしい。「そういえば他の子もみな額が広く、ノブだってそうだから、もしかすると未来人というのは、みんなこのように宇宙人的な顔になるのかもしれない。」(128頁)とある。
(3)『神変不知火城』 1点 山田風太郎・著 日下三蔵・編 論創社 2012年 山田風太郎少年小説コレクション2。
時代伝奇小説中編二作を収める。
「地雷火童子」は「ジュヴナイルの王道を行く痛快篇」。
表題作は、「山田風太郎風<奇想天外>時代小説の世界。超伝記小説」。(296頁)。
菊地秀行の評価。
共感。
女と見違える美少年。その女装。(131頁)美少女の体に蛇のように、するすると巻き付く縄。(166頁)日本人の男の子は、ずうっと同じような状況に胸をときめかせてきたのだ。絵物語がアニメになっただけのこと。
(4) 宮内悠介『盤上の夜』 東京創元社 1点
「象を飛ばした王子」
ゲームの記述者だった、あの観戦ジャーナリストが、ついに「わたし」を語る。4つめのエピソードが好き。
父と子の物語。深く静かな感動がある。
個の生老病死を越える道を求めた二人。
宗教も、ゲームも、時を超えて生きる。
神話のように。
 二回目の参加となります。
 よろしくお願いします。



山口 素夫 さん

昨年もあまりたくさん読めなかったので、ベストというよりほとんどこれだけしか読んでいないと言った方がいいかもしれません。ラファティも買ってはありますが、まだ積ん読状態です。早く読まなくては・・・
「煙突の上にハイヒール」小川一水 1点
「ドーン」平野啓一郎 1点
「南極点のピアピア動画」野尻抱介 1点
「ビアンカオーバースタディ」筒井康隆 1点
これからも細々と読み続けていきたいと思います。
よろしく



大熊 宏俊 さん

今回は日本作家オンリーで投票させて頂きます。いろいろ縛りをつけないと5作に絞れないので。
○ 山尾悠子 『ラビスラズリ』(ちくま文庫)
○ 高野史緒 『カラマーゾフの妹』(講談社)
○ 眉村 卓 『眉村卓コレクション異世界篇』全三巻(出版芸術社)
○ 芦辺 拓 『スチームオペラ蒸気都市探偵譚』(東京創元社)
○ 戸梶圭太 『原子力宇宙船地球号』(イーストプレス)
(次)川上未映子 『水瓶』(青土社)
(読了順。各1点)
『ラビスラズリ』は私の中ではオールタイム・ベスト級作品集。海外でいえば「太陽の黄金の林檎」や「刺青の男」的な位置づけでして、これからも復刊されるたびに投票するでしょう。
『眉村卓コレクション異世界篇』全三巻は、1作品だけ選べとのことなら、『V夕焼けの回転木馬』に致します。当コレクションで読み返すまでは『Tぬばたまの…』が一番という風に思っていましたが、今回、まとめて読み返して、『V夕焼けの回転木馬』の凄さに圧倒されました。
『水瓶』も採りたかったが、前作『先端で、さすはさされるわそらええわ』(ベストSF2008年に投票)に比べるとレベルが下がっているように私は感じましたので次点としました。試み自体は大変素晴らしく、次作に期待したいです。
『カラマーゾフの妹』は、あの「カラマーゾフの兄弟」のドストエフスキーの記述を全て正しいものと認めた上で、それから出発し、オリジナル版には明示されていない事実(小説内事実)をあぶり出した傑作。その意味ではミステリですが、隠れていた事実を白日のものとすることで読者にあっといわせる手法は、まさにSFの王道ではないでしょうか。
『スチームオペラ蒸気都市探偵譚』、著者が漸く本気でSFに取り組んでくれました! 成った作品はまさに予想通り、いや予想をはるかに凌駕する快作で、大いに楽しみました。この風景、私のようなロートルファンにはとても懐かしく(しかもストーリー自体はイマ風で若々しい)、今後も年に一作は、このような楽しいSFを提供していただけたら、わが残り少ない余生も退屈しなくてすむのですが(^^;
『原子力宇宙船地球号』のアナーキーな毒も、読んでいて溜飲が下がるもので、わが精神的安定をもたらしてくれました。抽象的な毒SFは、近年も少なくありませんが、このような具体的な毒素を吐きまくるSFは、いまや殆どみられないのではないか。著者の作品を読むのは初めてだったのですが、他作品もこんな調子なら読んでみたいですし、やはり年に一作はSFも書いてほしいと思いました。



nyam さん

昨年は名画座で映画ばかり見てました。読書量は少し減りました。
『Delivery』八杉将司(ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)2点
 早いテンポで意外な展開でした。ちょっと脈絡がないと思う。
『アンドロイドの夢の羊』 ジョン・スコルジー(ハヤカワ文庫)1点
 アメリカ作家にありがちですが、異星人が単なる外国人のすり替え?
『月面の聖戦』1,2,3 ジャック・キャンベル(ハヤカワ文庫)1点
 出だしはよかったが、これで終わりなのか、続編があるのか。
『ミラー衛星衝突』上・下 ロイス・マクマスター・ビジョルド(創元社文庫)1点
 あまり主人公が活躍してないが、ヒロイン登場のお話なのでお許しを。
●映画賞『リミットレス』
 薬物で超知性を身につけると、人はなにをするのか。去年名画座で見たのですが2011年封切りだったので、番外で紹介します。テッド・チャン「理解」に似ているが、原作は文春文庫の『ブレインドラッグ』でした。

 『黒き計画、白き騎士』『トネイロ会の非殺人事件』も面白かった。




たまきち さん

 2010年以来、三度目の参加になります”たまきち”と申します。もう二月も終わりですか...。”一月は行く、二月は逃げる、三月は去る”なんてことを中学生だった時分に担任から聞かされたときは「なにを爺臭い!」と鼻で笑っていましたが、最近しみじみ感じるようになってまいりました。
 枕はこの程度にして、昨年読了した小説百冊と少しの中からでも面白いSFに出会えました。
第1位 ハンヌ・ライアニエミ 『量子怪盗』 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)
第2位 山本弘 『UFOはもう来ない』 (PHP研究所)
第3位 小田雅久仁 『本にだって雄と雌があります』 (新潮社)
第4位 コニー・ウィリス 『ブラックアウト』 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)
第5位 九井諒子 『竜のかわいい七つの子』 (ビームコミックス)
 これら5作品にそれぞれ1点ずつ投票します。漫画以外はこれといって目新しいセレクションでは無い、ベタなところに若干気がひけますが…(^^;

 各作品のコメントを少々。

 ハンヌ・ライアニエミ『量子怪盗』は正に絢爛華麗という言葉が似合うワイドスクリーン・バロック。飛び交う造語と、謎も多く素早いストーリー展開に最初は目がくらみますが、一旦読み始めれば最後まで引っ張っていってくれる牽引力がありました。ポストヒューマンな設定も私好みでGood!
 山本弘『UFOはもう来ない』は映画『SUPER8』や『宇宙人ポール』を想起させるファーストコンタクトSF。心が高なりっぱなしの素敵な物語でした。この本のおかげで後発のファーストコンタクトSFのハードルはグッと上がったと思います。
  小田雅久仁『本にだって雄と雌があります』は例えるなら道を歩くにつれて徐々に顔の見えない他人が増えていきズンズン歩いた最後にはみんな一緒になって特異点で弾ける、そんな爆発的エネルギーを内に秘めた作品。オチも秀逸。アホなアイデアがなんだか崇高に感じられるようになるまで勘違いさせる筆致が素晴らしい。
  コニー・ウィリス『ブラックアウト』は群像劇の巧みさを存分に発揮している所が読みどころだと思います。とにかく読んでいて先の展開が気になること、気になること!
  九井諒子『竜の〜』はランキングに挙げた作品の中で唯一の漫画です。人間に似ているけど知能は動物並みの人魚が主人公の転機になる「人魚禁猟区」、金に困った絵師が自らの作品に命を与えて売っぱらおうとする「金なし白祿」などを収めた短編集です。2011年に商業誌デビューを果たした著者の作品はストーリーテリングが実に巧みです。

 さて、最後になりますがTwitterやってます。IDは@Sacred_Maggotです。アニメに漫画の話や下らない妄想ばかり呟いていますが気が向きましたらお気軽にどうぞ。さあ!今年もSFを読むぞー!あと、SFセミナーみたいな定期的に開催される会が大阪でも欲しいです(どこへともなく



さあのうず さん

『屍者の帝国』 伊藤計劃×円城塔 1点
『第六ポンプ』 パオロ・バチガルピ 1点
『青い脂』 ウラジミール・ソローキン 1点
 あんまり数を読んでいないので、3作のみでそれぞれ優劣なく1点ずつとしました。『屍者の帝国』は混沌とした現代を象徴する様な内容で、暗澹たる世界観は『第六ポンプ』に共通するものですが、前者は内に秘めた熱さ後者は外に向かう激しい怒りを感じさせるものでした。『青い脂』は唖然とするような奇想炸裂して言語実験的なところも面白かったです。



小泉 博彦 さん

ほぼ読み終わった順番です。各1点です。SFというか小説の読書量が落ちています。
「リヴァイアサン クジラと蒸気機関」 スコット・ウェスターフェルド「ベヒモス」「ゴリアテ」と併せて)
「屍者の帝国」 伊藤計劃×円城塔
「ビアンカ・オーバースタディ」 筒井康隆
「BEATLESS ビートレス」 長谷敏司
「UFOはもう来ない」 山本弘
他に、「ファイナル・オペラ」「アレクシア女史、女王陛下〜」「〜埃及で木乃伊〜」「戦後SF事件史」など。「昔には帰れない」「近代日本奇想小説史入門編」は、期限内に読み終えられませんでした。一番興奮し、ある意味でがっかりしたのは「都市と都市」でした。



中村 達彦 さん

すいません、今年もあまりSF読んでいません。
1 鉄人28号THENOVELS  瀬名秀明・芦辺拓・田中啓文・辻真先  1.0点
2 この空のまもり  芝村裕吏  1.0点
3 宇宙海兵隊ギガース  今野敏  0.5点
4 名被害者・一条(仮名)の事件簿  山本弘  1.0点
5 さあ今から未来についてはなそう  瀬名秀明  1.5点
「鉄人28号THENOVELS」は、鉄人を題材にしたアンソロジーです。1作目のプロメテウスの悪夢は原作の複数の話をうまく料理して良かったですが、全体として、パロディーに比重にかかっているのは否めません。それぞれ面白く、鉄人へのオマージュは感じたのですが……。もう1本真面目な話が欲しかった。あと2作目に出てくる、「世界少年探偵会議」の模様は感激です。

(それで、同じく犯罪や侵略に科学の力で立ち向かうといえば)

「この空のまもり」。日本のサイトへ押し寄せるウイルス等の攻撃から、防衛する人々の物語です。弱体化し国の威信も失われた近未来の日本。主人公の仮想世界の大臣は、現実世界で実はニートの青年、彼を中心に、複数の視点から、発生した暴動とそれに立ち向かう無名の人々が描かれています。ラストいささか駆け足の感があり、人間関係や各々の正体について甘い気もしますが、恋愛や友情も微笑ましいです。

(それで、この作品より未来の戦争ものと言えば)

「宇宙海兵隊ギガース」は、機械を自由自在に操作する少女パイロットが主人公の宇宙戦争ものです。後半、戦争の真実と終結を狙う人々のドラマに比重を置いていますが、世界観や舞台設定を描ききれなかった感が大きいです。もう少し未来世界や戦争にアイデアを盛り込んで欲しかったです。22年を経ての完結です。

(それで、同じく人と違った能力・体験を持つ少女が主人公と言えば)

「名被害者・一条(仮名)の事件簿」は、被害者になりやすい体質の美少女が出くわした4本のハチャメチャなミステリーと1本のハチャメチャなSFです。いろいろな作品のねたを盛り込んでいて楽しめます。間抜けな犯人たちと、危ない目に合いながらあっけらかんとした変わり者の主人公に笑います。また創作の入門テキストで使える一面もあります。その後の主人公の活躍も読んでみたいです。

(それで、この内容に怒るでしょうが、SF作家クラブをしょって立つ先生と言えば)

「さあ今から未来についてはなそう」は、SF入門的な色合いを持つ解説書です。東北大震災や既に亡くなった先人に想いをはせつつ、SFの重要な事柄を、わかりやすく解説しています。最近の作品や、小説以外のねたも扱っており、若い高校や大学にいるSF好きに手に取ってもらいたいです。瀬名先生は、一昨年末に「科学の栞 世界とつながる本棚」と言う新書を刊行しており、併せて読むことをおすすめします。

2013年は、人々に希望を与えるSF作品が1作でも多いことを願います。



Takechan さん

 昨年はレイ、ブラッドベリとストルガツキー兄弟(弟)が亡くなった。追悼の意味も込めて積読しておいた「死ぬときはひとりぼっち」を読んでみた。自伝的要素の強いファンタジックミステリーである。
 オールドSFファンにとっては、だんだん懐かしい名前が消えてゆき、新しい名前は覚えられなくなってきている。というわけで、下記の5作品に各1点づつ投票します。
1.R、C、ウイルソン「連環宇宙」  
 三部作の完結編、第1作ほどではないがセンスオブワンダーは感じられる。
2.マーセル、セロー「極北」
 タフなヒーロー(ヒロイン)を主人公としたディザスターSF。
 A、Cクラーク賞候補作でもある。
3.伊藤計劃・円城塔 「屍者の帝国」
 屍者(伊藤計劃)のために生者(円城塔)が続きを書いた作品。
4.宮内悠介「盤上の夜」
 盤上に宇宙が見えるような作品集である。
5.フェリックス、パルマ「宙の地図」
 前回の「時の地図」よりはSFぽくなってきている楽しい作品。




キュウちゃん さん

のんびりしていたら、月末になってしまいました。
今年もノンフィクションを主体に投票させていただきます。
1.SF挿絵画家の時代 大橋博之
2.近代日本奇想小説史 入門編 横田順彌
3.フランス流SF入門 ステファンヌ・マンフレド
4.マンガのあなた*SFのわたし 萩尾望都
5.世にも奇怪な人体実験の歴史 トレバァー・ノートン
各1点でお願いします。
5はSFかって? マッドサイエンティスト物として見れば、なかなかのものですよ。

それにしても、ほんとに小説を読まなくなりました。 「屍者の帝国」など、面白そうなのですが・・・。

以上、よろしくお願いします。



渡邊 利道 さん

はじめて投票します。よろしくお願いします。
『ゴースト・オブ・ユートピア』樺山三英(ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)
『眉村卓コレクション異世界篇(全三巻)』眉村卓(出版芸術社)
『昔には帰れない』R.A.ラファティ(ハヤカワ文庫SF)
『天体による永遠』オーギュスト・ブランキ(岩波文庫)
『シュルレアリスト精神分析』藤元登四郎(中央公論事業出版)
順不同です。刊行が待ち遠しかった樺山さんの小説はとても果敢な作品であえて選ぶなら今年のベスト1でした。眉村さんの本は読んでいなかった本もあり非常にワクワクしながら読みました素晴らしい企画だと思います。これからも埋もれた名作を発掘してほしいです。ラファティについてはいまさら何も言うことはないように思います。今年一番の驚きだったのは岩波から出たブランキでした。名前だけは知っていたんですがこんな内容とは!まさに科学的思弁の想像力が世界を揺るがす傑作エッセイでした。SF評論賞チームでご一緒させていただいている藤元さんのシュルレアリストの絵画と人生で初期荒巻を読み解くという長篇評論は、ブランキも吃驚するような綿密な読解が神秘主義に飛躍する一種の奇書といってよい本で、これは誰彼なしにつかまえてちょっと読んでみて!と言って歩きたい作品でした。



森下 一仁

  • 『百年法』 山田宗樹(角川書店)
  • 『南極点のピアピア動画』 野尻抱介(ハヤカワ文庫JA)
  • 『BEATLESS ビートレス』 長谷敏司(角川書店)
  • 『機龍警察 暗黒市場』 月村了衛(早川書房)
  • 『第六ポンプ』 パオロ・バチガルピ(新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)
各1点。
〈小説推理〉2月号の「今年のベスト・ブック」と同じです。川端裕人『雲の王』とか瀬名秀明『大空のドロテ』とかウラジーミル・ソローキン『青い脂』とか、ほかにも印象に残っている作品がいくつもありますが、とりあえず5点を選ぶとこうなるしか……。収穫の多い年でした。



すける さん

初めて投票します。新しい作品をあまり読んでいないので遠慮していたのですが、『天体による永遠』が入っていたので、これはわたしも便乗しようと参加させていただきました。ツイッターで大騒ぎして何人かの方に手に取っていただいた責任もこれで果たせそうな。

というわけで雁思社版は1985年刊行ですが、ほとんどの人は岩波文庫で読む機会を得たと思われる
ブランキ『天体による永遠』に2点を。

以下1点。

ラファティ『昔には帰れない』
バチガルピ『第六ポンプ』
伊藤計劃×円城塔『屍者の帝国』



椋野 直樹 さん

(1)『機龍警察 暗黒市場』月村了衛 早川書房 3点
(2)『新世紀読書大全 書評1990〜2010』柳下毅一郎 洋泉社 1.5点
(3)『極北』マーセル・セロー 村上春樹訳 中央公論社 0.5点
 (1)は日本のお家芸とも言えるロボットアニメ的なギミックを、近未来警察小説の枠に落とし込んだ傑作シリーズ第3弾。グローバリズム化の中で、犯罪集団が跋扈する一種の移民国家となった日本。多様な価値観、異文化に晒される近未来の日本という設定が、例えば昨年話題になった、インディーズ映画『サウダーヂ』とも通じるものがあって魅力的。今回はロシアから流れてきた元刑事の特捜部警部、ユーリ・オズノフにスポットを当てた、ノワール色の濃い一篇。
 日本にたどりつくまでのユーリのロシアでの過去が、重厚な青春もの、警察ものとして、まず秀逸。潜入捜査として潜り込んだロシアンマフィアとの駆け引きや実態が、ノワールとしてまた秀逸。そしてスリリングなロボットバトルと、一大活劇への転調に胸が熱くなる。現実の日本の未来の変容を見据えながら、『機動警察パトレイバー』『新宿鮫』に匹敵する、冒険活劇SFとして書き続けて欲しい。

 (2)は異能翻訳家、映画評論家として活躍する著者の、20年に及ぶ多彩なジャンルの書評をまとめたもの。まず何より、これを紙の媒体にまとめ上げ、非常に洗練され読み易い本に仕立てた、編集者とブックデザイナーをまず称賛すべし。おかげであちらこちらの雑誌へと散らばっていた柳下さんの書評を、いちいち引っ張り出さなくて済む。SF、ビザール、コミック、映画、悪趣味、犯罪、山田宏一、と多岐に渡る内容。あらゆる世界への航海地図になる、一生もののブックガイド。素晴らしい。

 (3)ハードボイルドタッチな文体で展開する、近未来ディストピアもの。都市や南部、砂漠ではなく、アラスカ、ロシアと北方が舞台なのが過酷さを増す。静かにベールを取るように、段々と見えてくる主人公の過去と、世界の変容。食糧危機、天候異変、治安が崩壊し、暴力に支配され、富める者が弱き者を奴隷にしている世界。コーマック・マッカーシーの『ザ・ロード』を連想させながら、宗教的な問題など、より具体的にち密な世界観を構築しており、読後感は大きく違う。
 文体ともども、主人公の行動原理もハードボイルド、汚れた世界を一人孤高に歩む騎士のよう。幕切れの鮮やかさが深く心に残る。作者は作家ポール・セローの息子。父親から直接勧められ、お義理で読み始めた訳者がその骨のある内容に感心し、翻訳。

メディア編

 ・TVアニメ
『モーレツ宇宙海賊』監督・シリーズ構成 佐藤竜雄、アニメーション制作 サテライト
 ・映画
『ウルトラマンサーガ』監督 おかひでき 脚本 長谷川圭一 特技監督 三池敏夫  配給 松竹
『仮面ライダー×仮面ライダー ウィザード&フォーゼ MOVIE大戦アルティメイタム』監督 坂本浩一、脚本 浦沢義雄,中島かずき 制作 東映
 ・イベント
特撮博物館 スタジオジブリ 東京都現代美術館





各投票者の推薦作

(到着順)


毛利 信明 さん



ベストSF2012 投票要領


 今年もやります、良かったSFアンケート。
じっくり選んで投票してください。

 2012年1月1日から12月31日までに国内で出版されたSF(奥付の日付で判断してください)で、あなたがおもしろかったと思うものをEメールで投票してください。要領は次のとおりです。

  • 日本語で読めるもの。最終集計で翻訳作品と国内作品に分けます。
  • 1人5作品まで推薦可能。もちろん、1作品でも構いません。
  • 点数集計:推薦者1人が5点を所有し、推薦各作品に割り振る。指定のない場合は、均等に配分する。
    例1:河合秀和『名曲のたのしみ』―4点、丸谷才一『読書指南』―1点
    例2:たつ『グォーン』、へび『ニョロニョロ』、うま『パカパカ』。(配点指定がないので各1.667点)

  • 投票期間:2013年2月28日(木)24時まで。