ベストSF2011

★ 投票数……18




各投票者の推薦作

(到着順)


毛利 信明 さん

 昨年は職場のTVで見た震災の大津波の映像が今でも頭に残っています。また、小松左京氏の逝去も忘れがたい出来事でした。いつものように読んだ順で。
「ダイナミックフィギュア」三島浩司著・・・上下巻の厚さを感じさせないぐらいぐいぐいと物語に引き込まれました。

「ドクター・ラット」ウィリアム・コッツウィンクル著・・・あのサンリオSF文庫で出版予定になってから30年余り。予想していた内容とは異なったもののうれしい刊行でした。

「11eleven」津原泰水著・・・これほど、ひとつひとつの作品がきらめいているとは。作者の力量に改めて脱帽。

「きつねのつき」北野勇作著・・・震災後に書かれたのではないとのことですが、どうしても結びつけて考えてしまいました。

「時間はだれも待ってくれない」高野史緒編・・・東欧SF短編集です。幻想小説集といったほうがいいのでしょうが、それはそれで味わい深いもの。出版に感謝。
 これ以外にも多くの話題作がありましたが、まだ読んでいなかったり、自分とは波長が合わなかったりで、上記の結果となりました。自分がSFを読み始めた40年以上も前と違い、SF関係の出版が増えたことに、ただただ驚きです。その分、1冊1冊への思い入れは薄まっているような気がして少々残念です。



大熊 宏俊 さん

 まだ何冊か気になるのを残しているのですが、いろいろ忙しくなりそうで、読み切れるかどうか判りません。あきらめて投票します。
眉村卓『しょーもない、コキ』(出版芸術社)は、久しぶりの純然たるエッセイ集で、古希をコキと書きあらわすところなど、いかにも著者らしく飄々としていて楽しみました。

平谷美樹『義経になった男(全四巻)(ハルキ文庫)は、影武者というアイデアと北行伝説を巧みに撚りあわせ、全四冊巻措く能わずの面白さでした。蝦夷史観というべき独自の視点から奥州藤原氏と平泉の意義を語り直し、通説に真っ向から挑んだ気宇壮大な歴史小説!

R・A・ラファティ『翼の贈りもの』井上央訳(青心社)は、従来のホラ吹きラファティを転倒させる作品が並べられ、目を洗われる思いがしました。これはとてもよいアンソロジー。新たなラファティ観を提示した編訳者の見識に敬意を評します。

高野史緒『時間はだれも待ってくれない』(東京創元社)は、21世紀東欧SF・ファンタスチカ傑作集。近頃はグローバル化の余波でしょうか、以前に比べても英米作家偏重度がさらに上がっているような気がします。本書はほぼ30年ぶりの東欧SFアンソロジー。英米SFとはずいぶん風合いが違っていて面白かった。意外と70年代日本SFに近い印象。これはあるいはファンタスチカと規定した編者の選択基準によるのかもしれません。それもまた主体的でよし。編者と出版社の勇気に拍手。

クラーク・アシュトン・スミス『アヴェロワーニュ妖魅浪漫譚』大瀧啓裕訳(創元推理文庫)は、選集の第三巻。舞台が中世(から近世)フランスの架空の一地方という設定が効いて、従来の神話的散文詩的きらびやかさは保持しつつも、いかにもウィアードテールズの挿絵っぽい淫猥な官能的な要素が前面に出た作品集になっています。ところが恐怖と官能を描いても、やはりそれが耽美的詩情となってしまうところが、CAスミスのCAスミスたるところでしょうか。あとがきに次回予告がなかったのですが、もっと続けてほしい選集です。

△次点として渡辺温『アンドロギュノスの裔』(創元推理文庫)を挙げておきます。この大正モダニズムの申し子の、まさに時代を体現した鮮烈な輝き、一瞬の閃光が一冊にまとまって読めたのはありがたかった。出版社に感謝です。



こり さん

「火星の挽歌」アーサー・C・クラーク スティーヴン・バクスター
 すみません、2011年に出たものてはこれしか読んでいないため1点のみの投票をお願いします。(残り4点分は棄権します)
 クラーク最後の本。タイム・オデッセイシリーズの完結編です。 もっともっと読みたかったなぁ・・・



新米SF読者 さん

三島浩司『ダイナミックフィギュア』上下(早川書房)2点
究極的忌避感、化外の地、ナーヴァス、ダル、走馬燈が破壊された……作品を読み終わっても、これらのことばを日常会話で使ってしまう読後感が半端ではない。
八杉将司『光を忘れた星で』(講談社BOX)1点
静謐な作品世界が、読み終わった後も静かな余韻を残す。 第1章の文章が特に素晴らしい。
片理誠『Type:STEELY』上下(幻狼ファンタジアノベルス)1点
ダイナミックフィギュアと互角に戦えるロボットがあるとしたら、これだ! という作品。絶望一色としか言えない上巻から、救いの光が差しこむ下巻は涙なしでは読めない。
上田早夕里『リリエンタールの末裔』(早川文庫)1点
読む者を物語に引き入れる筆遣いが素晴らしい。



さあのうず さん

各1点で。
「ミステリウム」エリック・マコーマック(国書刊行会)

 謎の事象が起きたときその「真相」や「解明」とはなにか、という問いかけが禍々しいイメージと共に浮き上がる。まさにSpeculative fiction。

「オスカー・ワオの短く凄まじい人生」ジュノ・ディアス(新潮社)

 まさに新しい風。「復活の日」(映画だけど)への熱い言及もあるから小松左京追悼の一作でもある。

「11eleven」津原泰水(河出書房新社)

 一寸先も予測が不可能。真に刺激的な読書体験が出来る傑作短篇集。近年の作者の充実振りは圧倒的。

「乱視読者のSF講義」若島正(国書刊行会)

 SFを深く楽しむための素晴らしい水先案内人による読書ガイド。

「ダールグレン」サミュエル・R・ディレイニー(国書刊行会)

 伝説の作品で理解できない面も多く入れるのに迷ったが、読後に読む本の傾向が変わったり随分影響を受けた。
「プランク・ダイヴ」も入れたかったな。「ねじまき少女」もインパクトあった。今年もいい本に出会えますように。



nyam さん

 昨年はいろいろあって読めてません(ほんと?)

『クロノリス-時の碑-』R・C・ ウィルスン (創元SF文庫)
 ありそうでなかった時間テーマ。なんだかしみじみしてます。
『錯覚 』仙川 環(朝日文庫)
 もうすぐ人工臓器も現実になるのかなあ、ケータイみたいに。
『シリンダー世界111 』アダム=トロイ・カストロ (ハヤカワ文庫SF)
 だまされてはいけません、これはミステリです。
『闇の船 』サラ・A・ホイト (ハヤカワ文庫SF)
 ハインラインのあのネタもこのネタも出てきます。
『米本土占領さる! 』J・ミリアス 、R・ベンソン (二見文庫 )
 北朝鮮が攻撃してくるところがトンデモですが・・・。
 時間旅行、人工臓器、宇宙都市、新人類、さらにはテロ攻撃も、みんな日常の風景になってセンスオブワンダーを感じなくなってしまった。ある意味で怖いことかもしれません。
 あと、まだ読んでないけど、〈新☆ハヤカワ・SF・シリーズ〉、はじまりましたよね。知ってた?



キュウちゃん さん

近代日本奇想小説史   2点
さよなら小松左京
追悼 小松左京
3.11の未来      各1点
でお願いします。
小松先生が宇宙に旅立たれたことを思いながら、点を付けてみました。
小説1件とかでは無いので、どうかとも思うのですが、まぁお許しを。
それにしても、小説を読まなくなりました。
昨年も、この対象にならないもので収穫が多かった。 「天地明察」はSFとは言いにくいし、「さいごの色街飛田」はさらに違うし、「倍音」に至っては昨年の出版でも無いし・・・。
でもまぁ、色々のジャンルで楽しんだ一年でした。



高槻 真樹 さん

 「SFが読みたい!!」の投票結果と違うものにしようとギリギリまで粘ってみましたが、さほど変わらずすみません。とはいえ、実にバラエティ豊かな年だったと思います。

レベッカ・スクルート「不死細胞ヒーラ ヘンリエッタ・ラックスの永遠なる人生」(講談社)3点
 「SFが読みたい!」でも1位をつけてしまったのですが、他に誰も挙げなかったことにびっくり。いや、これは読んでほしい!というわけでここでも挙げておきます。ヘンリエッタ個人の物語と宇宙空間まで拡散する不死細胞の物語が直結する壮大な構成に呆然。これをSFと呼ばずして何がSFでしょう。
乾緑郎「完全なる首長竜の日」1点
 単行本が出たのは年の初め、年末に文庫が出て、読んでみてびっくり。なによりこのシンプルな短さがいい。これだけの短さでオリジナリティのあるSFを書けるというのはひとつの才能でしょう。
チャイナ・ミエヴィル「都市と都市」1点
 大晦日まで選考期間になっているということはこの作品を挙げないわけにはいきません(12月20日発売)。ミエヴィルは実は苦手だったのですが、これはすごい!基本的には普通小説でありミステリだというのに、文句のつけようもないSFだという力業。
 活字対象ということでランクインはできませんが、ドキュメンタリーにSFと共振する優れた作品が多数見られた年でした。

「100000年の安全」
 世界で唯一完成した放射性廃棄物貯蔵施設「オンカロ」の物語。10万年後の世界に危険性を警告する手段として採用されるのはなんと石碑らしい…
「死なない子供、荒川修作」
 荒川修作が三鷹に建設した養老天面反転住宅。荒川は「不死を獲得するための住宅」を主張しています。その空間の謎を解き明かそうとするのはなんと天文学者!
「エル・ブリの秘密 世界一予約の取れないレストラン」
 未知の食を求めて遠心分離器や液体窒素を駆使するカリスマシェフ。ほとんどマッドサイエンティストです。食を追究するあまり食から遠く離れてしまった男の物語は完全にSFと化していました。
 以上です。遅くなりすみません。どうぞよろしくお願いします。



小泉 博彦 さん

 私にしてはSFが読めたような気がしていた1年でしたが、見返してみると大したことがないです。3月以降は記憶も記録も怪しくなっていした。

「3.11の未来 日本・SF・想像力」(作品社) 2点。
小松さんの序文に敬意を払って。
「アレクシア女史、倫敦で吸血鬼と戦う」ゲイル・キャリガー(ハヤカワ文庫FT) 1点。
「〜飛行船で人狼城を訪なう」と「〜、欧羅巴で騎士団と遭う」と併せて。
「小松左京 日本・未来・文学、そしてSF」(文藝別冊) 1点。
乙部さんのインタヴューが…。
「MM9−invasion−」山本弘(東京創元社) 1点。

「セクシーGメン 麻紀&ミーナ」「フランケンシュタイン 野望/支配」も読みましたが、評点までには。



中村 達彦 さん

すいません、あまりSF読んでいないんですが、1点ずつ振ってください。
1 天獄と地国 小林泰三
2 夜の欧羅巴 井上雅彦
3 トワイライト・テールズ 山本弘
4 僕たちの関ヶ原戦記 小前亮
5 日本SF1000 大森望
「天獄と地国」は、未来、醜く変貌した世界で生きる人々の変革の物語です。絶対に暮らしたくない舞台のグロさが伝わります。しかし未来を掴み取ろうとする主人公たちの奮闘が脳裏に浮かび引き込まれます。劇中には、ロボット活劇の面白さも含んでいます。
(それで、小林先生はホラーも手がけますが、和製ホラー作家の作品では)
「夜の欧羅巴」。画家の母親を探して、少年がヨーロッパ各地を戦いながら旅するホラー冒険活劇です。次々に現れる怪物やメカの設定からSFベストに入れても良いかと。格調高い文章の表現や演出もまた楽しめます。
(それで、同じくモンスターが存在する世界の話と言えば)
「トワイライト・テールズ」は、MM9の外伝的短編集。作者のUMAや怪獣作品に対する愛を感じます。怪獣が災害として存在する世界設定もさることながら、各々の物語で頑張る主人公たちの姿は時には涙を誘い、時には微笑ましく感じます。
(それで、同じく超常現象に巻き込まれた少年たちの体験と言えば)
「僕たちの関ヶ原戦記」は、改変された現代から歴史修復のため関ヶ原合戦前夜へ飛んだ少年たちの奮闘記です。主人公を助け意外な歴史上の人物が登場します。歴史考証を抑えつつ、超能力やタイムパラドックスとSF設定も活かされています。作者は、中国史を主とする歴史小説で活躍中です。
(それで、中国史同様長い年月を感じさせるSFを語る上では)
「日本SF1000」は、21世紀に発表された日本SFにおける諸作品の概要解説です。ストーリー概略も記され、こう言う本が出てくれるのは有り難いです。何だかんだ言われつつも頑張っている日本SFのパワーを感じます。



らっぱ亭 さん

ラファティ・ファンサイト「とりあえず、ラファティ」らっぱ亭です。
ラファティ「翼の贈りもの」に5点ぜんぶ、以上ーっ!
とは、小心者なのでさすがにできませんでした......。

というわけで、
「翼の贈りもの」R・A・ラファティ 青心社 3点
ラファティを全作読まれている編訳の井上央さんが満を持して出された作品集です。ラファティ初心者には「九百人のお祖母さん」をオススメするのですが、深みにはまったラファティ者にも納得の一冊になっていると思います。
ラファティ達人のおひとり、牧眞司さん曰く「どのラファティも等しく面白い」
このお言葉に、私も諸手を挙げて賛成いたします。

さて、以下4作はいずれも0.5点づつで。
「ねじまき少女」パオロ・バチガルピ ハヤカワ文庫SF 0.5点
「SF」のベストとして。バチガルピは今年出た短篇集「第六ポンプ」もいいですよー。
「都市と都市」 チャイナ・ミエヴィル ハヤカワ文庫SF 0.5点
ミステリ境界域の作品ではエリック・マコーマック「ミステリウム」と迷いましたが、バカミスとも言われかねない設定を力業で成立させたというところに一票。
「ゆみに町ガイドブック」西崎憲 河出書房新社 0.5点
奇想・ファンタジー境界域の作品として。円城塔「これはペンです」(特に併載の「良い夜を持っている」)と迷いました。共通点として、どちらも(私には)よくわからないながらも、非常に魅力的な作品でした。
「小説家の作り方」野崎まど メディアワークス文庫 0.5点
SFクラスタのかたには認識されていないのではないかと危惧される作家の作品として。特に本作は是非とも読んでいただきたいなあ。同じく2011年に出た「パーフェクトフレンド」も好きなのですが、「ベストSF」としてはこちらを。

あと、SF関連図書としては、
「乱視読者のSF講義」若島正 国書刊行会
も嬉しかったですね。参加がかなわなかったSFセミナー2011【乱視読者の出張講義― ジーン・ウルフ編】が収録されたのは涙ものでした。



椋野 直樹 さん

 また、ぎりぎりですみません。そして、海外の注目作をいろいろ読みこぼしてお恥ずかしい限り。
  1. 『折れた竜骨』米澤穂信 2点
  2. 『ジェノサイド』高野和明 1点
  3. 『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』ジュノ・ディアス/都甲幸治 訳 1点
  4. 『アライバル』ショーン・タン 1点
(1)は実在の歴史ものに、魔法を投入したミステリー。精緻に構築された異世界で起こる殺人事件、ファンタジー設定の中で輝くミステリーのロジックが美しい。キャラクターも魅力的、レイ・ハリーハウゼン(人形アニメ・特撮の巨匠)ファンには涙もののクライマックス。そして、重圧を背負う少女と、寄る辺ない少年の成長譚でもある。凛とした傑作。

(2)手に汗握るサスペンス、謀略・情報戦、社会派的なトピック、医学もの、そして理系男子の青春もの。様々な要素をを無理なくまとめあげ、息もつかせない。そして中心には、小松左京の傑作を《継ぐ》SFのヴィジョンが。海外のエンタメなら下らないディティールで、上下800ページの冗長なものになるところを、無駄なものを削ぎ落し、それでも行間を読ませる。読後感のさわやかさも最高。日本が誇っていい冒険SFの傑作が誕生。ダンカン・ジョーンズ監督で映画化希望(笑)。

(3)すみません、これはSFじゃありません。けれどもSF・ファンタジー、アメコミ、日本のアニメの熱狂的なファンである主人公オスカーに肩入れせずにいられない。ドミニカ移民の非モテ、デブのオタク青年が、厳しい現実社会に痛めつけられながらも、SFを糧にサバイブしようとするが…。その不器用ぶりに、ただただ涙。
 そこに重なるドミニカ共和国の暗黒の歴史。重層的でほら話・マジックリアリズム的な語り口が、おぞましい現実と、リリカルな逃避の世界を鮮やかに対比させる。
 膨大なオタクネタ、サブカルネタを注釈で拾いまくった翻訳チームも素晴らしい仕事。

 因みにオスカーが千回ビデオで観て、千回号泣したと絶賛する映画は…なんと角川映画『復活の日』(海外タイトル『ヴィールス』)。ラスト、チリの海岸で東洋人の男と黒髪の女性(草刈正雄とオリビア・ハッセーのこと)が奇跡的に再会する場面で滂沱の涙に。ピューリッツァ賞受賞作の小説の主人公(と作者)が泣いてくれたなら、草葉の陰で小松左京も、深作欣二監督も、喜んでくれているでしょう。巨匠木村大作キャメラマンもね。

(4)ドラゴンの影が空を覆う圧政の母国に妻子を残し、大きな国へ渡ってきた男。1940年代のアメリカを思わせる、異世界での移民の生活を豊かな空想力と精緻なディティール描写で見せる。『ゴッドファーザーパート2』ほか、さまざまな移民の物語を連想させるタッチが素晴らしい。ただため息をつくばかり。
評論集部門
『リトルピープルの時代』宇野常寛
新書ノンフィクション部門 
『もうダマされないための「科学」講義』菊池誠・伊勢田哲治・松永和紀・片瀬久美子・平川秀幸
番外編 SF・特撮映画部門
(1)『ミッション:8ミニッツ』ダンカン・ジョーンズ>監督
(2)『コンテイジョン』スティーヴン・ソダーバーグ監督
(3)『宇宙人ポール』グレッグ・モットーラ監督
(4)『X-MEN:ファーストジェネレーション』マシュー・ヴォーン監督
(5)『劇場版マクロスF サヨナラノツバサ』河森正治監督
 次点『私を離さないで』マーク・ロマネク監督
すみません、映画に関しては後日、急ぎコメントを送りますので、少しお待ちください。いずれも傑作揃い。



Takechan さん

 以下の各作品に1点ずつ。レム、クラークについで小松左京が亡くなって、巨匠の時代は終わった感じがする1年であった。
  1. 『クロノリス―時の碑―』ロバート・チャールズ・ウィルスン
    オールドSFファンには安心して読める作品。
  2. 『ジェノサイド』高野和明
    SFとして出版されていたら、ベストセラーにはならなっかてであろう。真のSFは、新人類が出現した後に始まる。
  3. 『ねじまき少女』 パオロ・バチガルピ
    作者の名前からして、異星人ぽい。
  4. 『探偵術マニュアル 』ジェデダイア・ベリー
    ミステリー文庫で出ているが、SFファンタジーである。
  5. 『都市と都市』 チャイナ・ミエヴィル
    モザイク状の2つの都市のSFミステリー。第三の都市オルツイニーの存在を否定したことで、ミステリーとして着地しているのが残念である。



笛地 静恵 さん

 笛地静恵と申します。
 投票させていただきます。
 新しい感想を書いている時間がありません。twitterで書いた文章を再度、掲載します。
[国内]
紀田順一郎『幻想怪奇譚の世界』松籟社 2011年 1点

  『幻想と怪奇の時代』(松籟社 2007年)の姉妹編。
  •  「幻想怪奇小説と推理小説、さらにはSFとの境界に位置する作家と作品についての論考を多く収録した。」「あとがき」(240頁)
  •  夢野久作「ともあれ、同時代の乱歩が時代状況に関して明白に逃避の姿勢を採択したに反し、久作は独自の方法で時代にコミットした。同じ幻想怪奇派とはいえ、そこに本質的な差がある。」(34頁)
  •  チェスタトン「ペシミズムとオプティミズム、センチメンタリズムと決定論の両極を批判した彼の態度は、一見中庸主義ではあったが、良く見ると明らかに一つの旗じるし――神の旗じるしを掲げていた。」(136頁)
  • H・G・ウェルズの『宇宙戦争』「ものごころついて以来の閉塞感の原因であった旧秩序下の社会に、宇宙人来襲という脅かしをかけることによって、鬱屈した破壊衝動を満たしたのではないか。
     現に彼は作家としての成功後、異星人来襲ということを一度も口にしていない。そこに主人の交代を幼児期に経験しなければならなかった海野(十三)との決定的な相違がある。」(151頁)
  • 私「私の場合、怪奇幻想小説というジャンルに接近したのは《めずらかなるもの》への嗜好ということが根底にある。表層感覚上のスリルを求めてのことではない。
     徳富蘇峰の『読書九十年』の序文に「此の個人としては長き丁場を今日まで過し来れる、唯一とは言わぬが、第一の耐久朋は書籍である」とある。「耐久朋」とは漢和辞典によれば「心変わりしない、長持ちする朋」のことだそうだ。
     その意味で、近年の映像を含めての野卑なオカルト・ブームには嫌悪の念しか抱いていない。」(101頁)読者に阿ることのない、豊富な知識に基づく公正な論証。良くも悪くも逸脱せざるを得ない精神への理解。
  • 怪奇幻想小説の読者は、紀田という先達がいたことで広い視野を持ち、多彩な作品を読むことができた。一冊にまとまることで、紀田の位置が、より明白に読み取れる。「中庸」の人である。
松崎有理『あがり』東京創元社 2011 1点
  • 子どもの頃に読んだ童話。大学生活。研究と恋愛。最新の科学技術論文の成果。そして、遺伝子の自己実現の旅。すべては流れさっていく。
     それゆえに、今の、きらめきを作者は、しなやかな言葉で、すくいとる。食べ物は、みんなが引用するだろう。少し別のところから。
  • 「窓ぎわに這いよる。手のひらに乗るほどの陶器の植木鉢は、大きな窓硝子が床の上に作った矩形のひだまりのなかに入っていた。のぞきこむと、親指くらいしかない丸いさぼてんは、今日も元気な緑色をして白く短いとげを逆立てていた。」(96頁)
  • 「彼はときおり思い出す。手にした絵筆の軸の感触を、そのかすかな重みを、水にといた絵の具の匂いを。真っ白な紙を前にして画題を考える時の緊張と興奮を。筆を動かしている間の没入感と、すべてが仕上がって落款を押すときの充実感を。」(260頁)
  • たまゆらに、すぎさっていくものへのやさしさ。松崎有理は、いつかフィリパ・ピアスの『トムは真夜中の庭で』のような時間の不思議を物語るファンタジーを書くことだろう。
  • もうひとつ。いわゆるカタカナ英語を使っていない。『原色の想像力』の笛地の「人魚の海」も同じ試行だった。同好の士に出会えて嬉しかった。硝子(がらす)麦酒(びーる)のルビには笑ってしまう。
     少し試してみるだけで、このためだけに、どんな苦労をしなければならないかは、すぐにわかる。衣食住の「衣」だけでもいい。例えば、シャツ、ブラウス、ズボン、パンツを、あなたはどんな漢語や大和言葉に言いかえるだろうか?
[海外]
『時間は待ってくれない』21世紀東欧SF・ファンタスチカ傑作集 高野史緒編 東京創元社 2011年 1点
  • 「もうひとつの街」(ミハル・アイヴァス この街に重なって存在する世界からのサイン。
  • 「自分の目がたどる道を厳格に制限しているのだとしたら、それは、私たちの視線が片隅にいる怪物の存在を暗に察しているのを私たち自身が意識しているという証拠に他ならない。」(100頁)
  • 世界から何か聖なるもの、美しいものが失われていて、もう二度と取り戻せないという欠落感。どうしても家に帰れない悪夢。無限に塔の階段を登る(あるいは降りる)夢に魘された人。
     キャンプ・ファイヤーの最後の胸掻きむしるような歌が、ドボルザークの交響曲第9番の第二楽章の旋律だと大人になって気が付いて、好きになった人。
     そういう人たちのための作家がここにいる。長編の翻訳を待ちたい。
  • ヴァーツラフ・ノイマンで。マーラーの交響曲第7番『夜の歌』を聞きつつ読む。チェコフィルハーモニーの金管の雄弁。弦の調べの生み出す闇の物質的な厚み。
  • 「プリャハ」アンドレイ・フェダレンカ チェルノブイリの事故によって立ち入り禁止となった地域。そこに残って生活する人々の物語。
  • もともとはリアリズムの小説として書かれた作品。それが「ここ」に置かれることによって、ファンタスチカとして読めるようになる。「ここ」というのは、この傑作集という書物の中でもあるし、今日の日本のことでもある。放射能という人災への怒り。
  • 「家から住人を追い出したり、「ゾーン」を封鎖することを思いついたりしたのは放射能なんかではない。草を刈ることを禁止したり、ミルクや牛や豚を施設に回収したのも放射能ではない……。それはすべて爺さんや婆さんと同じ人間の仕業なのだ。」(82頁)
  • すでに、昨年の時点でこの作品を掲載し刊行された、翻訳者、編者、編集者、出版社等々の関係者の皆様の英断に敬意を表します。
ジャック・ヴァンス『奇跡なす者たち』浅倉久志 編 国書刊行会 2011年 1点
  • 「最後の城」。遠い未来、宇宙へ植民した人類も、地球に戻って来る。異星人を奴隷として扱いつつ貴族のような生活をしていた。が、彼らの反乱によって、平和だった都市国家は破滅の危機に瀕する。
  • 「最後には、だれにも平等に死が訪れた。そして死に瀕した中で、本質的に品位に欠けたその過程から、だれもができるだけ大きな満足を味わおうとした。誇り高い人々は端座して美装本をひもといたり、百年物のエッセンスの風味を論じ合ったり、寵愛のフェーンを愛撫したりした。」(325頁)この「愛撫」の意味も、読んでいて不意に明らかになる。(374頁)
  • 欧州史や、アメリカの独立戦争の歴史が、踏まえられている。ブッキッシュな作家である。書物も、美術も、音楽も、女性も、酒も、造詣が深いだろう。
     聖書やシェークスピアの引用が、さりげなくなされる。その作品は、人間の歴史を皮肉に見つめている。既得権益の甘い汁を味わう上層階級の腐敗を呵責なく暴き立てる。
     だが、けして悲観論には陥らない。どこかに、父親が子どもを見守るような愛情がある。楽観的である。まるで、そこにいて事件を記録しているような緻密な細部の魅力がある。文章は安定していて揺るがない。
     この人のいくつかの作品では、misanthropyの黒く深い淀みが、隠しようもない腐臭を発している。しかし、彼は、絶望に声を荒らげることはしない。
  • 1965年 2月7日 アメリカは、北ベトナムへの爆撃を開始。ベトナム戦争に本格介入。2月21日 黒人指導者マルカムX暗殺。3月18日 ソ連のアレクセイ・レオーノフ 人類初の宇宙遊泳。
  • 12月15日 アメリカの宇宙船ジェミニ6-A号と7号がランデブー飛行に成功。知識も、趣味も、戦争も、宇宙開発も、原型を留めないほどに、すべての要素は、魅力ある異世界の物語の中に溶け込んでいく。
  • 想像力という巨大な樽の中で泡立ち発酵している。歳月を経ても、美酒の酔い心地には、ほとんど変化がない。ヴァンスは、芳醇な葡萄酒のような作家である。独特なコクと苦みがある。はまると癖になる。
  • 「奇跡なす者たち」<アスタウンディングSF> 1958年7月号 この前年の1957年5月15日 イギリスが初の水爆実験。7月8日バグウォッシュで国際科学者会議開催。11日 核実験中止要請声明。
  • 7月29日 国際原子力機関が発足。 8月26日 ソ連 大陸間弾道弾の実験成功を公表。ヴァンスは、孤高の芸術主義者ではない。時代の荒波をかぶって泳いでいる。
  • 「未来には多くの道がありますからな。なかには通れる未来もありますし、通れない未来もあります。どの未来にいたるかを特定することは、わしにはできません」(151頁)賢者ハイン・フスの言葉。
クラーク・アシュトン・スミス『アヴェロワーニュ妖魅浪漫譚』大瀧啓裕・訳 創元推理文庫 2011年12月22日 初版 1200円+税 1点
  • 深い森の底に謎を秘めたアヴェロワーニュ地方。妖しい魅惑の力を持つ女たちとの浪漫。それを主とする物語集。
  • 「若いころから浮名を流したスミス」(414頁)「シレールの魔女」などには恋の思い出がまとわりついているのか。
  • 「首の周りには、明るい金の鎖があって、髪の輝きを照り返しているようで、女が水で戯れると胸の谷間で揺れた。」(211頁)水浴する女。
  • 妖怪でも美しい女たち。中でも、とりわけ醜い「蟾蜍(ひきがえる)のおばさん」。あまりにも巨体なので、「両手を使っても、片方の乳房が覆えるだけだった。」(267頁)最後に手に触れる蟾蜍めいた悍ましいものの正体まで。スミスの細密描写が冴える。
 以上、ささやかな読書好きの、ささやかな感想。妄言多謝。



森下 一仁

 国内の短編集が充実した年でした。とはいえ、ジャック・ヴァンスと年末に出たミエヴィルも挙げておきたく、はなはだ悩ましいリストとなりました。各1点。
  • 『あがり』 松崎 有理
  • 『11 eleven』 津原 泰水
  • 『希望』 瀬名 秀明
  • 『奇跡なす者たち』 ジャック・ヴァンス
  • 『都市と都市』 チャイナ・ミエヴィル



寺岡 敬 さん

駆け込みで失礼します。投票させていただきます。
  • 『ねじまき少女』パオロ・バチガルピ:2点
     凄まじい熱気と息苦しさ。カタストロフの爽快感と、その後に訪れるSF的ビジョン。圧倒されました。
  • 『時間はだれも待ってくれない』高野史緒・編:2点
     本来ファンタスチカ作品ではないのに強くSF性を感じさせる「ブリャハ」や、仕掛けよりもその旧東ドイツ描写にディストピアSF風の味わいがある「労働者階級の手にあるインターネット」など、他では読めないものを読めたと思います。
  • 『ゴーストハント7 扉を開けて』小野不由美:1点
     シリーズ物の最終巻、しかも旧作のリライトなのですが、かなり大きく手が入れられており、またそのことで改めて高いSF性をも獲得した作品だと思います。一作目以来の心霊現象に対する「科学的」な調査方法に加え、2章5節の心霊現象に対する対話など、ちょっとぞくぞくします。



崎田 和香子 さん

 すみません。最近SFを読んでいません。 なので両方とも、ファンタジー作品です。
 おまけに、両方とも新潮社ですが、私は別に新潮の回し者とかではありません。
(海外)
「オスカー・ワオの短く凄まじい人生」ジュノ・ディアス:著 都甲幸治、久保尚美:訳 新潮社)
(国内)
「さざなみの国」勝山海百合:著 新潮社)

(森下註:点数配分の指定がありませんので、各2.5点とします。変更がありましたらご連絡ください)



北原 尚彦 さん

『近代日本奇想小説史 明治篇』 横田 順彌 1.5点
日本のSFを知るには書かせない1冊です。
『ゆみに町ガイドブック』 西崎 憲 1.5点
心地よい読書をしたい方には熱烈オススメ。
『奇跡なす者たち』 ジャック・ヴァンス 1点
ミステリファンにも読んで欲しいですね。
『あがり』 松崎 有理 1点
自分も理系男子だったので、たいへん楽しく読みました。













ベストSF2011 投票要領


 今年もやります、良かったSFアンケート。
じっくり選んで投票してください。

 2011年1月1日から12月31日までに国内で出版されたSF(奥付の日付で判断してください)で、あなたがおもしろかったと思うものをEメールで投票してください。要領は次のとおりです。

  • 日本語で読めるもの。最終集計で翻訳作品と国内作品に分けます。
  • 1人5作品まで推薦可能。もちろん、1作品でも構いません。
  • 点数集計:推薦者1人が5点を所有し、推薦各作品に割り振る。指定のない場合は、均等に配分する。
    例1:大和撫子『あきらめない』―4点、東京蹴球児『一年一念』―1点
    例2:うさぎ『ピョンピョン』、たつ『グォーン』、へび『ニョロニョロ』。(配点指定がないので各1.667点)

  • 投票期間:2012年2月29日(水)24時まで。