ベストSF2001

★2月25日確定 :投票数15(+参考票3)★

ベスト 3


海 外 作 品
1 『タクラマカン』B・スターリング(6点)
2 『ノービットの冒険』パット・マーフィー(4点)
3 『ゲーム・プレイヤー』イアン・M・バンクス(3.5点)

国 内 作 品
1 『サムライ・レンズマン』古橋秀之(6.4点)
2 『ふわふわの泉』野尻抱介(4点)
3 『銀河帝国の弘法も筆の誤り』田中啓文(3.5点)

1位に輝いた方のお言葉


古橋 秀之様(国内部門1位『サムライ・レンズマン』作者)

 拙作に投票してくださったみなさま、他の投票者のみなさま、それに森下一仁さま、ありがとうございました。身に余る光栄です。
 とはいえ、『サムライ・レンズマン』は、言わずと知れたE・E・スミスの《レンズマン・シリーズ》をベースとした作品ですので、これが100%「私の作品」であり、「私の手柄」というわけではないとは心得ております。
 かといって、「なんとなく歩いてきて、なぜか今ここにいる」、そんな私が“ドク・スミスの世界”や“SF”や“スペース・オペラ”の後継者や紹介者を名乗るつもりもありません。
 ただ、私のような「ちょっとズレたもの」を飲み込んでいくことによって、それらのジャンルがさらに生命力を増すことになれば、と考えています。
 どうぞ、今後もよろしくお願いいたします。

2002年 3月10日 古橋秀之



得点の詳細



各投票者の推薦作

(50音順)

赤尾杉 隆さん

『タクラマカン』B・スターリング……2点
『スーパートイズ』B・オールディス……1.5点
『サムライ・レンズマン』古橋秀之……0.9点

 『タクラマカン』21世紀のスターリングにも期待です。
 『スーパートイズ』ニューウェーブが息づいていました。古かったらごめんなさい。
 『サムライレンズマン』レンズマン原理主義者というほどでもないのですが、それでもレンズマンがこの世でもっとも価値のあるものと考える者にとって、とんでもない許せないところはありますが、いろいろ考え悩んで世に出されたのだと思います。拍手。バンザイ!

天川 和久さん

1.『ブラック・マシン・ミュージック−ディスコ、ハウス、デトロイト・テクノ』野田努(河出書房新社)……1.5点
2.『コカイン・ナイト』J・G・バラード(新潮社)……1.5点
3.『タクラマカン』ブルース・スターリング(ハヤカワ文庫)……1点
4.『ネバーウェア』ニール・ゲイマン(インターブックス)……0.5点
5.『ゲーム・プレイヤー』イアン・M・バンクス(角川文庫)……0.5点

 1. 以前から音楽ネタばかりでしたが懲りずにまた。ブラックミュージックの宇宙趣味、SF趣味というなかなか難しいテーマに取り組んだ第三章は立派。もちろん音楽書としてもディスコ以降のダンスミュージックの流れがよく分かり好著。日本人が書いているのにも驚く。
 2. 21世紀になってもバラードは刺激的。
 4. キャラ立ちの良いダーク・ファンタジーって非常に売れるのでは、と思った。
 2001年はSFマガジン“音楽SF特集”や映画「テルミン」もあり、楽しめた。しかし音楽SFは読者の音楽の趣味で守備範囲がかわってしまうのが難点。

大熊 健朗さんhttp://www7.cds.ne.jp/~nactor/

『20世紀SF』(全6巻)中村融・山岸真編 ……2点
『ノービットの冒険』パット・マーフィー……1点
『サムライ・レンズマン』古橋秀之……1点

 各メディアにとって、20世紀をどう振り返るか、というのが2001年の大きなテーマになっていたと思う。そして、SFというジャンルにおいて、このテーマを最もうまく消化した(と感じた)3冊を選んでみた。
しかし、本当はここに『ロミオとロミオは永遠に』が入るはずだったのになー。

加藤 逸人さん

『闇の底のシルキー』デイヴィッド・アーモンド
『オンリー・フォワード』マイケル・マーシャル・スミス
『タクラマカン』ブルース・スターリング
『ノービットの冒険』パット・マーフィー
『ダイヤモンド・エイジ』ニール・スティーヴンスン

 『闇の底のシルキー』は、アラン・ガーナーを思わせる、生と死というテーマを真正面から力強く語った作品で、児童書の枠組みを軽々と乗り越えてしまった傑作だと思います。『オンリー・フォワード』は、『ネバーウェア』や『キング・ラット』といった都市型のファンタジイの中でいちばんの出来でした。『タクラマカン』と『ダイヤモンド・エイジ』はSFを読んだなあという満足感で。『ノービットの冒険』はマーフィーの職人芸が楽しめました。
 逆に、ワーストというわけではありませんが、『ゲーム・プレイヤー』と『フラッシュフォワード』は、両作家の二級品を読まされたという印象で期待はずれでした。

狩田 英輝さんhttp://www5d.biglobe.ne.jp/~kalita/index.html

『タツモリ家の朝食 3』古橋秀之(電撃文庫)……2点 
『サムライ・レンズマン』古橋秀行(徳間デュアル文庫)……1点
『DADDYFACE 冬海の人魚』伊達将範(電撃文庫)……2点

 『タツモリ家の朝食』と『サムライ・レンズマン』。どちらも異世界の構築に関して一級の腕を持つ作者らしい作品だと思います。共通点は「サムライ」ですね(笑)
 レンズマンの破天荒なノリを見事に再現している『サムライ・レンズマン』はインパクトがありますが、私的には「SFな日常」というアニメや漫画では手垢のついたテーマをきちんと昇華させ、その中にファーストコンタクトテーマを溶け込ませている『タツモリ家』の方を推したいと思い、このような配点になりました。
 『DADDYFACE』も破天荒なストーリーの後ろ側に有る一点を軸にした「歴史」の逆転が隠されているのが見事です。
 難点は他の作品も含めた壮大な作品群の一部でしかない所でしょうか? それが無ければ3点でした。

 今回リストを作成していて改めて思ったこと。
 海外の新作SFを見たら反射的に敬遠するクセは何とかしないと……(^^;

こばげんさん

 ジュブナイル系・マンガからの選択になりました。海外SFはいまさら『スノウ・クラッシュ』読んでる程度になので……
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1.『サムライ・レンズマン』古橋 秀之(徳間デュアル文庫)……1.5点
2.『プラネテス』幸村 誠(講談社モーニングコミックス)……1.5点
3.『戦略拠点32098 楽園』長谷 敏司(角川スニーカー文庫)……1点
4.『ラスト・ビジョン』海羽 超史郎(電撃文庫)……0.5点
5.『AQUA』天野 こずえ(エニックスステンシルコミックス)……0.5点
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 といったところで。

 次点は――
 注目度が高い
『イリヤの空、UFOの夏』秋山瑞人
 や、自分にとって余りにも痛い
『ネガティブハッピー・チェーンソー・エッヂ』滝本竜彦
 などです。

杉並 太郎さんhttp://www.hi-ho.ne.jp/taros/

「しあわせの理由」グレッグ・イーガン(『20世紀SF 遺伝子戦争』収録)
『クロニカ』粕谷知世

 『ベルゼブブ』と『鳥類学者のファンタジア』を読んでいない上で、『クロニカ』に入れてもいいのではないかという判断をしました。
 読んでないのに入れてもいいなら『ベルゼブブ』が面白のではないか。
 もともとあまり読んでいないのに、復刊が多い年だったが気がします。北野勇作とか、〈十二国記〉も文庫になったし、『オルガスマシン』や〈20世紀SF〉は復刊とは言わないかもしれませんが。というわけで、新刊をあまり 読んでいないのです。すいません。

鈴木 力さん

『20世紀SF』全6巻 中村融・山岸真編
『懐かしい未来』長山靖生編著
『イリヤの空、UFOの夏』シリーズ 秋山瑞人
『日本文学盛衰史』高橋源一郎
『鳥類学者のファンタジア』奥泉光
各1点

 時代と切り結ぶ、というテーマで5点を選んだ。『20世紀SF』と『懐かしい未来』は、SFを生んだ20世紀(あるいは近代日本)を逆にSFの側から照射した貴重な試み。編者の目利きぶりもさることながら、なによりもその志の高さを評価したい。
 『イリヤの空、UFOの夏』は、上質の青春小説であるとともに、最先端の戦争文学でもある。一見ユーモラスな学園生活が、実は黴のように増殖する戦争の影に覆われていたとわかる過程は、本当に怖い。
 『日本文学盛衰史』は、真顔で「これがSFか?」と問い詰められると少々困るが(また、本書は我々が漠然と使っている小説の概念からも大きく逸脱している)、SFのエの字も知らない明治の文学者たちの苦衷がなぜ我々の胸を刺すのか、想像することの危うさ・困難さについて改めて考えさせられた。特に大逆事件をめぐっての石川啄木と夏目漱石のやりとりは、『1984年』や『華氏451度』との比較検討の必要性を感じる。
 『鳥類学者のファンタジア』は、『「我輩は猫である」殺人事件』、『グランド・ミステリー』など、20世紀という戦争の時代を問うてきた著者が出した、ひとつの回答と見るべきだろう。
 推薦作は田中啓文『銀河帝国の弘法も筆の誤り』。ダジャレと世界が矛盾するならダジャレを優先して世界の方を捩じ枉げてしまえ、という横紙破りな姿勢に心底感動した。このアナーキーさこそ、言語芸術としてのSFのある究極である。私は冗談を言っているのではありません。本気です。

とりこさんhttp://www.imix.or.jp/sawako/tori/tori.html

『タクラマカン』ブルース・スターリング(小川隆・大森望訳/ハヤカワ文庫SF)
『フラッシュフォワード』ロバート・J・ソウヤー(内田昌之訳/ハヤカワ文庫SF)
『ふわふわの泉』野尻抱介(ファミ通文庫)
『銀河帝国の弘法も筆の誤り』田中啓文(ハヤカワ文庫JA)
『サムライ・レンズマン』古橋秀之(徳間デュアル文庫)

 各1点でお願いいたします。

●番外
『20世紀SF』全6巻 中村融・山岸真編(河出文庫)
 アンソロジーなので、番外にしました。
『反在士の指環』川又千秋(徳間デュアル文庫)
 (※前作『反在士の鏡』(1979年)から22年ぶりに、未収録だった続編を含めた完結版が出たもので、純粋な書き下ろしではないので、番外にさせていただきました。『鏡』の、未刊のままで終わっているのも、不安定な印象が強く、個人的には好きだったりします。)

 

nyamさん

『ふわふわの泉』野尻抱介(エンターブレイン、ファミ通文庫)……2点
『フラッシュフォワード』ロバート・J・ソウヤー(早川書房、ハヤカワ文庫)……1点
『天空の遺産』 ロイス・マクマスター・ビジョルド(東京創元社、創元SF文庫)……1点
『でたまか 純情可憐篇 アウトニア王国奮戦記3』鷹見一幸(角川書店、角川文庫)……1点
★番外――『20世紀SF(6)』中村融・山岸真 編(河出書房、河出文庫)

 2001年のベストSFは、常連のメンバーで占められてしまった。これは、定番のシリーズのみを追っかけた結果のなのだろうか?
 『ふわふわの泉』 と『フラッシュフォワード』は、おすすめである。読みやすいので、みなさんに読んで欲しい。
 『天空の遺産』は、マイルズ・シリーズの新作なので期待していたのだが、すこし地味であった。同様のスペオペでは、『でたまか 純情可憐篇 アウトニア王国奮戦記3』を推薦したい。
 あと、短編集を選ぶのはポリシーに反するので、番外に『20世紀SF(6)』を置かせてもらった。個々の作品では、「軍用機」と「遺伝子戦争」が印象に残った。
 ちなみに、このシリーズのせいで、SF短編集を読みたくなり、古本屋で絶版の文庫(『SF9つの犯罪』とか、『ホークスビル収容所』とか)を買いあさっていたため、今年度は新刊を読めなかったのである。来年は長編も読むぞ!
 追伸、『グリーン・マーズ』は未読。

林 芳隆さん

『タイタス・クロウの事件簿』ブライアン・ラムレイ(夏来健次訳、創元推理文庫)
『ノービットの冒険』パット・マーフィー(浅倉久志訳、ハヤカワ文庫)
『竜の挑戦』アン・マキャフリー(小尾芙佐訳、ハヤカワ文庫)
『天空の遺産』ロイス・マクマスター・ビジョルド(小木曽絢子訳、創元SF文庫)
『ゲーム・プレイヤー』イアン・M・バンクス(浅倉久志訳、角川文庫)

 12月中にもっと気に入るのがあれば、差し替えになるかもしれませんが。

林田さんhttp://www.kansuke.jp/

『銀河帝国の弘法も筆の誤り』田中啓文(ハヤカワ文庫)……1.5点
『イリヤの空、UFOの夏』秋山瑞人(電撃文庫)……1.5点
『ネガティブハッピー・チェーンソー・エッヂ』滝本竜彦(角川書店)……1.5点
『地球美紗樹』岩原裕二(角川コミックス)……0.5点

 『銀河帝国の弘法も筆の誤り』……横田順彌さんのハチャハチャ作品でSFというものに馴染んだ身として絶対に外せない作品です。
 『イリヤの空、UFOの夏』……これだけ文章力がうまいともう負けます。
 『ネガティブハッピー・チェーンソー・エッヂ』……引きこもりの気がある自分にとって余りに痛い作品でした。
 『地球美紗樹』……恐竜の子を軸とした複雑な群像劇が地味ながら面白い良作。

 次点は
 『W-face』ひのきいでろう(ガムコミックス)
 『サムライ・レンズマン』古橋秀之(徳間デュアル文庫)
 『細腕三畳紀』あさりよしとお(アフタヌーンKC)
 『プラネテス』幸村誠(モーニングKC)
 あたりでしょうか。

ひらやま ひろゆきさん

『ΑΩ』小林泰三(角川書店)
『ふわふわの泉』野尻抱介(ファミ通文庫)
『フラッシュフォワード』ロバート・J・ソウヤー(ハヤカワ文庫SF)
『なつのロケット』あさりよしとお(白泉社)
『サムライ・レンズマン』古橋秀之(徳間デュアル文庫)

『ΑΩ』はウルトラマンのパロディだったりホラーだったりハードSFだったりと云う、ごった煮的な要素を、良くぞここまで纏め上げた点を買います。
『ふわふわの泉』は、"ふわふわ"の発明がいいかげんすぎるとは思うのですが、かわいいから許すと言うことで(←良いんでしょうかね、こんなこと言って)。
『フラッシュフォワード』は"時間テーマ"の新たな到達点として。
『なつのロケット』はマンガなので、投票に躊躇しましたが、レギュレーション的に多少グレーでもぜひ。凡百の作品より"科学好き"に訴える作品です。
『サムライ・レンズマン』は、オリジナルに遜色ないクオリティに敬意を表して。

    ――(次点/番外)――
 以下、次点/番外(配点0)ですが、気になった作品です。
『新世紀未来科学』金子隆一(八幡書店) は、科学解説/SF案内で、創作ではないことから、涙をのんで落としました。
『スノウ・クラッシュ』ニール・スティヴンスン(ハヤカワ文庫SF)は、文庫オチで純粋な新刊ではなかったので、他の作品に席を譲りました。
『20世紀SF』全6巻・中村融/山岸真編(河出文庫)は、その偉業に敬意を表して。一本立ちの作品を優先したために今回は落としました。
『銀河帝国の弘法も筆の誤り』田中啓文(ハヤカワ文庫JA)も入れたかったのですが……
『マンモス/反逆のシルヴァーヘア』バクスター(早川書房)と『知性化の嵐(1) 変革への序章』ブリン(ハヤカワ文庫SF)は、シリーズ完結後に再評価。

本橋 牛乳さん

『ノービットの冒険』パット・マーフィー(早川書房)
『ゲーム・プレイヤー』イアン・M・バンクス(角川書店)
『ディアスポラ』勝谷誠彦(文学界8月号)
『いちばん美しいクモの巣』アーシュラ・K・ル=グイン(みすず書房)
『コカイン・ナイト』J・G・バラード(新潮社)

 いずれも、1点ずつです。

 『ノービットの冒険』は、『ホビットの冒険』をみごとにスペースオペラにつくりかえていて、いろんなエピソードがうまくできていて、感心してしまいました。それに、フェミニズムにも関心が深いマーフィーらしさというのが、キャラクター設定に生きているし、とても楽しみました。
 『ゲーム・プレイヤー』も、少年ジャンプのまんがのような話の展開ではあるのですが、そもそものアイデアのばかばかしさには脱帽というか。
 『ディアスポラ』は、近い未来が舞台、ある事件によって、日本が破滅し、日本人が難民として生きていかなくてはならないというのが設定。舞台はチベットにある難民収容所。そこで、日本人が難民として苦しい生き方をしている。舞台となる場所が場所なら、国連職員の一人にユダヤ人を配置する設定も設定だけども、でもこの国に必要な未来小説って、こういうものだとも思うんです。時間的にも空間的・地理的にも外側に対する想像力が欠如した人ばかりが集まっているというのが、この国だからです。
 『いちばん美しいクモの巣』は、『空を駆けるジェーン』とどちらにしようか迷いました。でも、クモがタペストリーを織るというアイデアで、こっちにしよう、と。タペストリーは人間の目からは美しいんだけど、クモにとっては役立たない。むしろ、朝露に濡れたクモの巣のほうがはるかに美しい、そういう話なんですけれども、生きていくことそのものの美しさというのを、感じさせてくれる絵本でした。
 『コカイン・ナイト』がSFかと言われると、少し困るところもあるのですが、これまでのバラード以上にバラードらしく感じさせるところもあります。何より、世界が読者にとってこれまで以上にリアルだからです。これは小説として書かれた、バラードのテーマパーク、ハウステンボスのようなものではないか、と。それに、山田和子さんのソリッドな訳文がうまく合っているとも思うし。

 年末に『コカイン・ナイト』のほかに、リチャード・パワーズの『ガラティア2.2』やニール・スティーヴンスの『ダイヤモンド・エイジ』なんかも出ていて、これらを読むとリストが変更になった可能性がありますが、投票締め切りまでにはとても読めそうにないので、あきらめました。
 それから、SFではないので、これもリストに入れなかったのですが、高行健の『ある男の聖書』は、亡命中国人作家が、バラードの『女たちのやさしさ』を書いたような、そういう傑作でしたので、紹介しておきます。
 あと、松村栄子の『詩人の夢』についてコメントしておきます。昨年のベストSFを読んでいて、この作者の『紫の砂漠』について言及してあったので、昨年出版された続編の『詩人の夢』と合わせて読みました。正直なところ、『紫の砂漠』では、ジェンダーに対するロールというのを固定化するところがあって、不満でした。成長するにしたがって、パートナーを見つけて、互いの性別を決定するところです。でも、その不満は『詩人の夢』で裏切られたのです。同じ性別のままパートナーになるという結末だったからです。松村は、実は『紫の砂漠』で性別決定のシステムをつくったのは、それが松村の思想を反映させたからではなく、むしろ壊すべきシステムとしてつくったのではない か、それゆえに『詩人の夢』は書かれねばならなかったのではないか。そんな ことを思いました(このことは、トーキングヘッズ16号に、もうすこし詳しく 書きました)。いろいろと感じることはあったのですが、残念ですけど、今回 のリストからはずしてしまいました。

 2002年は早速、マイクル・ムアコックの『グローリアーナ』という傑作が読めて、すごく幸せな気分です。サンリオSF文庫の近刊予告から十数年、待ったかいがあったというところです。

森下 一仁

『ダイヤモンド・エイジ』ニール・スティーヴンスン
『グリーン・マーズ』K・S・ロビンスン
『ゲーム・プレイヤー』イアン・バンクス
『タクラマカン』ブルース・スターリング
『銀河帝国の弘法も筆の誤り』田中啓文

 うわあ……5作にはおさまりきりません。挙げられなかった傑作には「申し訳ございませんでした」といわせてもらいます。

締切後到着した票(到着順。得点は計算していません)★

林@不純粋科学研究所さん

 もう締切を丸一日以上過ぎているのでカウントはしていただけないと思いますが僕の昨年度のベストです。

『ペニス』津原泰水(双葉社)
『ΑΩ』小林泰三(角川書店)
『20世紀SF(6) 遺伝子戦争』中村融&山岸真編(河出書房新社)
『ネヴァーウェア』ニール・ゲイマン(インターブックス)
『さらば、愛しき鉤爪』エリック・ガルシア(ソニーマガジンズ)

 順不同で1点づつです。とりとめというもののまったく無いリストになってしまいましたが、面白かったものを5作選んだらこうなりました。
 『グリーンマーズ』も面白くはあったのですがちょっと偉すぎて個人的な趣味と外れるので選外です。

 ああ、しかし締切を忘れていたのは痛恨の極み。

タカアキラ ウさんhttp://www.hoehoe-net.com/takaakira/

『チェンジリング 赤の誓約』妹尾ゆふ子(ハルキ文庫)……0.7点

 これは姉妹編である緑の聖所を読まずに判断して良いか分からないですけど、主人公が学生とかひきこもりとかいわゆるモラトリアムの時期にいる人ではなく、社会人であるOLというところで普段の読書よりも自分にとって痛いところをつかれているような気がしました。そんな風に意識しないで読書するようになりたいですね。
 下巻も読まずに投票するのは本当にどうかと思いますが、間違いなく下巻も傑作だと思うので投票します。

『PATRONE』 とその続編『PATRONE 仮面の少女』伊豆平成(角川スニーカー文庫)……0.5点

 続編のあとがきによると異世界物なのに登場人物がトマトやジャガイモを食べるので怒られたそうですが僕は南京錠を開けるとかの方が有罪だと思います。
 でも好きな作品です。もっと怒られてもっと丁寧に存在しない世界を存在するように書くよう精進して欲しいと思います。

『マリオネット症候群』乾くるみ(徳間デュアル文庫)……0.4点

 後半を読んでて余りの事に涙が止まりませんでした。
ええ、もちろん大笑いしながらの涙です。

『天国に涙はいらない』佐藤ケイ(電撃文庫)……0.3点

 絶対に他にだれも投票しないと思うので投票します。
 表紙が可愛らしくていかにも男性おたく向けと言う感じがして敬遠する人もいるかもしれないですけど、この作品はそういう萌え偏重のおたく風潮を風刺するという結構シニカルな構成になっているのです。そういう目で見る人だけとは考えられないくらい売れてる気もしますけど。
 作者の誕生日がぼくと2日違いだったので読んだ時には同年代の女性がこれだけのバランス感覚をもっておたくを笑い飛ばすとは!? とびっくりしたものです。

『ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ』滝本竜彦(角川書店)……3.1点

 無差別テロやそのテロに対する報復軍事行動など海の向こうでの戦争のニュースが伝わって来ます。十年前の戦争の時は、ぼくは中学か高校で世界の反対側の戦争のニュースに圧し潰され、明日にも世界が終りそうな空気を(勝手に)感じていました、そのころの読書には現実からの逃避や、危機に瀕している世界の再生といったテーマを求めていたのではないかと思います。
 明日にも世界が終りそうな感じは確実にするのに世界を壊そうとしているのが誰かわからず、ゲームや小説に世界の敵の代表である悪の大魔王やそれらと戦う英雄を求めていた。みたいな。
 2001年に世界の反対側から入って来る戦争のニュースを聞いてもあんまり明日にも世界が終りそうな気がしません。なぜそういう気がしないのかというと、まがりなりにも社会の構成員としてあんまり払いたくない税金や年金をはらって、普通に生活を送ることで普通の生活を形作っているという誇りや気概というのもあるのでしょうけれど、学生時代に読書を通して本から生きる勇気をもらったということも大きいかもしれないです。ブギーポップがでたころには、なぜあなたはなぜぼくの学生時代に間に合ってくれなかったのか。とちょっと恨めしい思いもしましたが、現在のぼくはもっと余裕をもって本書がでた事を喜べます。って全然本書の紹介になってない気がするし、滝本氏の本を何人の人が同じように感じながら読むかはわからないのですが。

 上記のようなことは1999年に懲りずにブギーポップに投票しながら書こうとして失敗してるのですが、今年もちゃんと書けてないですね。

向平 真さん

 今年は何かずいぶんとジャンルSFが豊作だったようですね。イーガンも相変わらずだし、久々にオールディスは読めたし、イアン・M・バンクスはコテコテぶりがたまらない味わいだったし、イアン・ワトスンの処女長編はウェットでいてクールな快調さがよかったし、選択には困らないはずなんですが、そういうのを選ぶのもなんか違うなーという感じでして。
 オールディスはやっぱヘリコニア3部作(人を殴り殺せそうな原書は買ったんですが(笑)を訳してほしいし、バンクスは結局『ブリッジ』は出ないんかいと思うし、ワトスンは「!」マークを全部小さい「っ」の字にしてしまう大島豊さんの訳文がどうしても納得できないしで、ちょっとためらいがあるわけです。
 そこでこんなチョイスはいかがでしょう?

『召還するかドアを開けるか回復するか全滅するか』村上隆(カイカイキキ刊)……3点
『釈義』P・K・ディック(アスペクト刊)……1点
『カフカ小説全集3・城』池内紀訳(白水社刊)……1点
参考作品「ヨコハマトリエンナーレ2001」

 村上隆のは、今秋に東京でやっていた展覧会の図録なんですが、一般書店でも発売していますし、現代美術に関する彼の緻密な思弁がぎゅうぎゅうに押し込まれたゴージャスな1冊で、これ単体でも十分に評価する価値があると思います。もちろん、展覧会そのものも文句のつけようもないぐらい完成度の高いものてしたが……。美術というジャンルを通して思弁を繰り込み、現実を歪めていく彼の方法論は、SFという地点から見ても、非常に興味深いものだと思います。
 「ヨコハマトリエンナーレ2001」は番外としましたが、これはパンフ単体では見るべきものがなかったので……。ただ、展覧会そのものは、SF的に見ても大変興味の尽きないイベントでした。これだけネガティヴなイメージに覆い尽くされた現代美術の最前線に大量の見物客が押しかけ、テーマパーク的に消費されてしまうことになろうとは……。その意味で、主催者サイドのアーチストたちが失敗だったと頭を抱えているのも分かります。作り手サイドから言えば現代美術は不快にさせてなんぼ、ですものね。
 でも、その現状自体が、SFサイドから見ると非常に面白いんですよ。「絶望」を「娯楽」としてヌケヌケと消費してしまっている現代の姿が。この展覧会全体に対する痛烈な批評として、都築響一氏の「SF秘宝館再現展示」がダントツのオーラを放っていたのも当然かもしれません。
 『釈義』は、ディックの人生観そのものがSFになっていることを再確認させてくれたことに感謝して。やたらめたら難しいけど、取り組みがいのある一冊でした。大瀧氏の翻訳も見事なもので、『グロリアーナ』でも堪能させていただきました。何か、もう2002年のベストも決まってしまった、という感じです。
 池内版『城』は、これまでのカフカ観を覆す驚きの1冊として。鮮やかに「日本語」として生まれ変わったカフカは、「未完」の印象を強く残すものでした。つまり意図的に不条理を狙ってたんじゃなくて、自分でもよく分からない「何か」を探しながらウネウネと書き進めていくんだけれども、結局たどり着けなくて挫折してしまったのが、残されたこの作品なのではないかと。カフカが探し続けてたどり着けなかった「何か」を、あまりにもプリミティヴにドンと放り出してしまったのが実はアメリカ50年代SFで、逆にカフカから「結末を書く必要はないのだ」と反面教師的ひらめきを得たのがNWだったのではないかなと、そんなことを考えながら読んでいました。

ベストSF2001 投票募集のお知らせ


 今年もやりますベストSFアンケート。
じっくり選んで投票してください。

 2001年1月1日から12月31日までに国内で出版されたSF(奥付の日付で判断してください)で、あなたがおもしろかったと思うものをEメールで投票してください。要領は次のとおりです。