ベストSF2000


ベスト5


海 外 作 品
1 『祈りの海』グレッグ・イーガン (21点)
2 『ダーウィンの使者』グレッグ・ベア (6点)
3 『フレームシフト』ロバート・J・ソウヤー (2.5点)
4 『エンダ−ズ・シャドウ』オースン・スコット・カード (2点)
〃 『神秘の短剣』フィリップ・プルマン (〃点)
〃 『バラヤー内乱』ロイス・マクマスター・ビジョルド (〃点)

国 内 作 品
1 『永遠の森 博物館惑星』菅浩江 (9点)
2 『猫の地球儀』秋山瑞人 (7点)
3 『鵺姫真話』岩本隆雄 (5点)
〃 『ブライトライツ・ホーリーランド』古橋秀之 (〃点)
5 〈安部公房全集〉全29巻 (4点)
〃 『レキオス』池上永一 (〃点)

1位に輝いた方のお言葉


菅 浩江様(国内部門1位『永遠の森 博物館惑星』作者)

 栄えある一位をいただき、とてもとても感謝しています。
 ご投票いただいた方々、本当にありがとうございました。
 これからも楽しんでいただける作品を書いていけるよう精進します。
 どうぞよろしく!

得点の詳細(2001年2月18日締切 : 投票者数 26)



各投票者の推薦作

(50音順・敬称略)

今中 一時http://www.pluto.dti.ne.jp/~moment/

グレッグ・ベア『ダーウィンの使者』……3点

 長編四本に中編一本が訳された昨年はベアの年だ! と言いたいところなのですがファウンデーションだったりスターウォーズだったり期待外れだったりして評価がむずかしいので代表してこの作品に。ただ姿勢がすこし後退したように見えるのが気になります(その意味では『斜線都市』を再読しなければと思っているのですが)。
 再刊では神林長平さんの『魂の駆動体』が絶品でした。文句なしに神林長平さんの最高傑作だと思います。
 漫画では岡崎二郎さんの諸作品、モーニングに不定期に掲載される「プラネテス」(作者名失念)、石渡治さんの「パスポート・ブルー」が印象に残りました。
MZT

浅暮三文『夜聖の少年』(徳間デュアル文庫)……0.5点
井上雅彦監修『宇宙生物ゾーン』(廣済堂文庫)……0.5点
米田淳一『リサイクルビン』(講談社ノベルズ)……0.5点
山之口洋『0番目の男』(祥伝社文庫)……0.5点
池上永一『レキオス』(文藝春秋)……1点
キース・ロバーツ『パヴァーヌ』(扶桑社)……2点

 本来であれば、久々のSF評論集である森下一仁『思考する物語』(東京創元社)と巽孝之編『日本論争史』(勁草書房)を強く推挙したいところなのだが、小説ではないため推薦できなかった。とりあえず、これらの優れた評論集が発売されたことは、21世紀に突入したSF界の現状を俯瞰する上で重要なことであると思う。
 浅暮三文氏の作品は正統的なジュヴナイルSF。このようなタイプのジュヴナイルSFがもう少し発売されると嬉しい。
 『宇宙生物ゾーン』。この異形コレクションはバランスがとれた作品が多く、SFをこれから読もうという人たちにも安心してオススメできる。
 米田淳一氏の作品は、意外性のある作品として評価できた。
 山之口洋氏の作品は、今話題のクローン人間の問題を肯定的に取り上げたSFとして興味深い。
 池上永一氏の作品は、スチームパンク的テイストが非常によかった。
 キース・ロバーツの『パヴァーヌ』(扶桑社)は歴史改変物の傑作。このような叙情的なSFがもっと読めたらいいなと思う。(森下註 : 『パヴァーヌ』は以前サンリオSF文庫で出たものの再刊ですので、ランキングでは参考作とさせていただきます)
えんど終翁邸

『永遠の森 博物館惑星』菅浩江(早川書房)……5点

 「天上の調べ聞きうる者」が〈SFマガジン〉に掲載されてから7年と、待ちに待った単行本化でした。連載時にそれぞろ読んではいましたが、こうしてまとめて一気に読むのもまた格別です。美に関する素晴らしいこれら9篇の物語をたくさんの人に読んで欲しいです。
大熊 健朗http://www7.cds.ne.jp/~nactor/

『月の裏側』恩田陸(幻冬舎)……3点
『ジュブナイル』山崎貴(MFジュブナイル文庫)……1点
『ウェットワーク』フィリップ・ナットマン(文春文庫)……1点

 2000年は数多くのSFが出版され、未読の山をなんとか減らそうとおおわらわになった年だった。そんなわけで印象に残った本を挙げてゆくとキリがないので、思い切って3冊に絞ることにした。『月の裏側』は、99年以降の恩田作品としては多分ベスト。『ジュブナイル』は映画の面白さも含めて。また、『ウェットワーク』は1点という配点に最適な海外作品だと思ったので。
 そのほかでは、『パヴァーヌ』が復刊されたのがとても嬉しかったですね。
かつき よしひろファンタジア領

『祈りの海』グレッグ・イーガン(ハヤカワ文庫SF)
『時の扉をあけて』ピート・ハウトマン(創元SF文庫)
『永遠の森 博物館惑星』菅浩江(早川書房)
『レキオス』池上永一(文藝春秋)
『猫の地球儀』秋山瑞人(電撃文庫)

 各1点。

 今年も、他人に薦められる作品を選びました。薦める相手としては、SF研を引退してしまったので、今いる研究室(英米文学)の友人・先輩を想定しています。
 『時の扉をあけて』は他のベスト企画などではあまりふるわないようですが、解説のように現実に引きつけた読み方もできるし、ピースがきっちりはまる良質の時間SFとしても楽しめて、地味ながらお気に入りの一冊です。
 その他に印象に残った作品(すでに挙げられているもの除く)としては、

本多孝好『ALONE TOGETHER』(双葉社)
柄刀一『アリア系銀河鉄道』(講談社ノベルズ)
戸梶圭太『The Twelve Forces』(角川書店)

 などがあります。
桂井 宏明

 この一年読んだSFは多くても(300くらい)2000年度に限定して数えてみると案外少ないものでした。海外もの、とくに早川に偏ってるのが原因のようです。
 解かる限りリストアップすると以下のとおり――

『祈りの海』グレッグ・イーガン
『過ぎ去りし日々の光』クラーク&バクスター
『ハイペリオン』ダン・シモンズ
『ファウンデーションと混沌』グレッグ・ベア
『エンダーズ・シャドウ』オースン・スコット・カード
『ギャラクティックの攻防』デイビット・ファウンタック
『制覇せよ光輝の海を』キャサリン・アサロ
『フリーダムズ・チャレンジ』アン・マキャフリィ
『ブレードランナー3』K・W・ジーター
『巡洋戦艦出撃』デイビット・ウェーバー
『斜線都市』グレッグ・ベア
『銀河お騒がせマネー』R・アスプリン
『ブレードランナー2』K・W・ジーター
『稲妻よ、聖なる星をめざせ』キャサリン・アサロ
『フレームシフト』ロバート・J・ソウヤー
『突入炎の叛乱地帯』デイビット・ファウンタック
『ダーウィンの使者』グレッグ・ベア
『ミクロ・パーク』J・P・ホーガン

 総括的にみると娯楽性の強いSFが多いといったところですか。いずれも楽しくこの中から5点に絞るのは難しいのですがしいてあげてみます。
 まずは『祈りの海』に1点。短編であって強烈なインパクト。
 そして『フレームシフト』『ダーウィンの使者』に1点ずつ。やや似たような題材を選びながらもそれぞれの持ち味を生かした仕上がり。映像化されたものを見てみたい。
 カードは宗教色の強い話は苦手なのですが『エンダーズ・シャドウ』はそんなことはなく1点。
 『過ぎ去りし日々の光』はクラークとバクスターの合作で、クラークの読みやすい文章とバクスターのアイデア。お互いのよいところがうまく重なった作品で1点。
 次点は『斜線都市』、『ミクロパーク』、『ハイペリオン』。『斜線都市』には1点あげたいところですが、作者がかぶるので残念ながらなし。『ハイペリオン』の評価は周囲では高いのですが個人的にはあまり高い評価でなく、『遥かなる地平』の「へリックスの孤児」がこの短編集の中でも好きな作品なので続編に期待といったところです。『ミクロパーク』も映像化されたものを見てみたいもの。
加藤 逸人

『神秘の短剣』フィリップ・プルマン
『ダーウィンの使者』グレッグ・ベア
『時に架ける橋』ロバート・チャールズ・ウィルスン
『太陽の王と月の妖獣』ヴォンダ・N・マッキンタイア

 昨年出版された本ということでは,たまたま大傑作がなかったのか,私が読んでいなかったせいなのか,どうしても挙げておきたいという作品に出会えませんでした.短編集・アンソロジーに話題が集中したようですが,短編恐怖症の私はほとんど読んでいないため,たまたま読んだ1冊だけを挙げるのも不適切かと思い,上記4冊だけの投票となります.作品の出来というよりは,個人的な思い入れから,プルマンの作品を2点とし,残りに各1点の配点とします.
 プルマンの作品は,大人にも広く読まれて欲しい,独自の世界を構築した力強いファンタジの傑作です.『ダーウィンの使者』は,SFらしい知的サスペンスが楽しめました.ウィルスンの作品は,作者の代表作とはいいがたいものの,ともかくこの作者が好きなので.他の作品も早く紹介を進めて欲しいところです.マッキンタイアの作品は,『夢の蛇』が好きだった私としてはジュヴナイルのファンタジ臭さがちょっと抵抗あるのですが,音楽を効果的に用いている点に好感が持てました.
 ちなみに,ワーストはなんといっても『タイムライン』.森下さんのページで超光速や量子テレポーテーションを勉強した私としては,むちゃいいかげんな量子コンピュータの描写や,多次元世界のはずなのにいつのまにかタイム・トラベルにすりかえられている物語の展開に最後までなじめず,核心であるはずの中世社会の描写も全く楽しめませんでした.これが『ジュラシック・パーク" を書いた人の作品とはとうてい思えません.読み終わって壁に投げつけたくなる本て本当にあるんですね(いえ,高かったサイン入りハードカバーでしたから大事に大事にしまいこみましたけど).

 さて,未訳の作品で昨年読んだものということでは,個人的にはまた充実した1年となりました.文句なしのベストは下記の3作となります:

- China Mieville, PERDIDO STREET STATION
- George R. R. Martin, A STORM OF SWORDS
- Neal Stephenson, CRYPTONOMICON

 ミエヴィルは先ごろ翻訳の出たデビュー作ではまだ小粒ですが,スチームパンク風のこの大作は,構築された世界の独自性,キャラクタ,作品の深み,物語性のどこをとっても凄いです.まだ28才という年齢を考えると,今後重要な作家になっていくことは間違いありません.全6巻が予定されているマーティンの大作ファンタジ第3作は,シリーズ前半の一段落ということで力のこもったものとなりました.マーティン特有の次に何が起こるか絶対に読めない話の展開はなんともいえずスリリングです.スティーヴンスンの作品は前二者の緻密なプロットとは全く逆に,プロットそっちのけの作者の饒舌が楽しめました.
 そのほか印象に残った作品とでは,ハードな宇宙物 Wil McCarthy,COLLAPSIUM,Alastair Reynolds, REVELATION SPACE が力作です.2人とも遠からずヴィンジ並みの作家になるのではないかと密かに期待しています.
 スタンダードなSFでは,量子論と人間の意識の関係を題材にした宇宙SFNancy Kress, PROBABILITY MOON,現代に隠れ潜むネアンデルタール人を扱ったサスペンス Frank M. Robinson, THE WAITING,地球温暖化をテーマとしたコメディ Norman Spinrad, GREENHOUSE SUMMER(旧作の RussianSpring も素晴らしい),ル・グインを思わせる,塩に覆われた過酷な殖民惑星でのイデオロギーのぶつかり合いを描く Adam Roberts, SALT,ブラックホールに恋人を奪われた(いえ,ゲイトウェイのように物理的にではなく,ブラックホールに恋人が心変わりしてしまった)主人公が,不条理な状況を理解しようと奮闘する Jonathan Lethem, AS SHE CLIMBED ACROSS THE TABLE が個人的には大きな収穫でした.
 ファンタジでは,死んだ後にも存在しつづける母の影から逃れようと苦闘する姉妹を描く Sean Stewart, MOCKINGBIRD,"M.D." の路線の4作目となるThomas M. Disch, THE SUB が素晴らしかった.また,児童書では,プルマンの3部作完結編 THE AMBER SPYGLASS が予想にたがわぬ立派な締めくくりを見せてくれました.ただし,きれいにまとめられてしまった点が逆に物足りないという贅沢な不満は残ります.これとは正反対に,行儀の悪さが魅力の型破りなファンタジ William Nicholson, THE WIND SINGER が,3部作の第1巻ということで当分楽しませてくれそうです.もうひとつ,生と死の問題を真摯に扱ったDavid Almond, KIT'S WILDERNESS が,児童書の枠を大きくはみ出すものとして強く印象に残りました.
実のところ,2000年はアメリカのベテラン勢の話題作が少なく少々さびしい気がしていたのですが(って,スターリングもル・グインもホールドマンもウルフも読んでいない人間がいうことではないですけど),イギリス勢や新人クラスの意欲的な作品と出会い,今後に大きな期待の持てる1年となりました.21世紀も楽しい世紀になりそうです.
K+G

『ブレーメン2』川原泉(白泉社:漫画)……3.5点
『ダブルブリッド』中村恵里加(メディアワークス:小説)……1点
『成恵の世界』丸川トモヒロ(角川書店:漫画)……0.5点

 次点は

『海底密室』丸川トモヒロ(小説)
『静寂の森の殺人』夏緑(小説)
『ブルー・プラネット』笹本祐一(小説)

 といったとこでしょうか。今年は海外SFもほとんど読めなかったので、基本的にヤングアダルト系から選んでます。『フレームシフト』も生物系(?)ということで読みたいのですが、まだ読んでいません。『猫の地球儀』もまだ読み終わっていないので、今回ははずしました。
 他には『ダークウィスパー』(山下いくと:漫画)は再版でしたので、『プラネテス』(幸村誠:漫画)は単行本が2001年発行ということではずしました。
齋藤 聡FREIHEITSTROM

 今年ベストを選ぶとすると
1.『祈りの海』グレッグ・イーガン
 になると思います。短編集として、です。表題作もそうですが、どの短編も皮肉が強烈で、印象に強く残りました(読んで日が浅いためかもしれませんが)。
 帯には「SFの未来がここにある」とあるのですが、スタイルはとてもオーソドックスだと思いました。「キューティ」の悪趣味さ、「イェユーカ」のやるせなさ、「祈りの海」のストレートさ、どれも好きです。
 他に読んでいないわけではないのですが、例えば『アルカイックステイツ』(文庫版)であったり『消滅の光輪』(ハルキ文庫版)であったりして……どれも初版は2000年扱いなのですが、ベストSF2000の対象ではありませんよね。たぶん。
斎藤 らく

『祈りの海』グレッグ・イーガン……1点
『ファイアストーム――火の星の花嫁――』秋山完……3点
『あかく咲く声』緑川ゆき……1点

 本当は各1点にするつもりだったのですが、ライトノベルの評判が良い中、秋山さんがいつも地味なのは悔しいので、私情込みで。
 緑川さんは最後までよく頑張ってまとめてくれた、と読んでいるこちらが嬉しくなりました。シーンのつなぎで二人二人しがちなところとか、マンガ的な結構の技術不足は否めませんが、それ以上にマンガだからこそ、という画を幾度も見せてくれて、満足感たっぷりです。ごちそうさま。
 せっかくの機会ですから、私も『星虫』に票を入れておきたいのですが、新版は未読ですのでなんとも。この復刊に「よし、この勢いで『月のしずく100%ジュース』も!」と妄想したのは私だけでしょうか。こちらも再刊されたら『星虫』とあわせて再購入すると誓わせて頂きます。
杉並 太郎http://www.hi-ho.ne.jp/taros/

グレッグ・イーガン『祈りの海』……5点

 ひさしぶりにSFらしいSFを読んだ気がします。
 いやSFマガジン掲載時にもけっこう読んでいるのですが、まとめて読むとまた格別。
タカアキラ ウhttp://member.nifty.ne.jp/Takaakira_say/

『紫の砂漠』松村栄子(ハルキ文庫)………5点

 他にも点数を入れたい作品はあるのだけれどまだ誰も紫の砂漠に投票してくれていないので僕の持ち点を全部注ぎ込もう。
 読んだ時期なんかナーバスになっていたのか。はらはらと泣いてしまった。一生に一度だけ経験する運命の恋。なんともファンタスティックでロマンティックではないか。
 もしかしたら、一晩で性別が決定してしまうような、肉体が変質する音が聞こえてきそうな、激しい恋愛というのが自分にとって強烈なファンタシーだったのかもしれないけど。
 早く読むのがもったいなくてわざと時間をかけて読んだ。砂漠なんかみたこともないのに、僕が故郷と聞いて思い出すのは海なのに懐かしいような不思議な感じの美しい紫の砂漠にすっかり心惹かれてシェプシと一緒に砂漠の空に心を遊ばせた。久しぶりに息をするのを忘れるような心地良い読書体験だった。
 この本は7年前にハードカバーででた本でひょっとしたら規定外かもしれないけど、僕はこの本に投票する。読んでる間、読んだ後、本当に楽しかった。あーっと、楽しいだけじゃなくて心の底から悲しくなったりもしたのだけれど。
 僕はこの本が読めて良かった。書いてくれてありがとうと作者に言いたい。
 文庫で出してくれた出版社の人もこのベストに投票してくれているけども出会わせてくれてありがとう。と担当の人に伝えて欲しい。
 作者松村栄子さんのホームページ l'Espace Lunatique によると続編が今月発売なのだ!どんな話なんだろう。
タニグチリウイチ裏日本工業新聞!!

『猫の地球儀』秋山瑞人(メディアワークス)
『双色の瞳 ヘルズガルド戦史』霜越かほる(集英社)
『ファンタスティック・サイレント』D(KKベストセラーズ)
『方舟』しりあがり寿(太田出版)
『ばいばい、アース』冲方丁(角川書店)

 順不同、各1点。2000年1月に出た『猫の地球儀 焔の章』が関心を1年間も惹き付けていられるか心配でしたが、『幽の章』で落涙のラストを決めてくれて、年間通じた内的なベストの位置を堅持しました。
 ヤングアダルトからはハルキ文庫の「ヌーベルSF」に「徳間デュアル文庫」と新シリーズが立ち上がり、ますます意気軒昂な電撃文庫なんかと激戦を繰り広げて選ぶのに困りました。とりあえず「集英社スーパーダッシュ文庫」から文章キャラ世界観イラストの全てに惹かれた『双色の瞳』を取りました。
 『ファンタスティック・サイレント』は絵物語、『方舟』はコミックで、死に対する哀しさと裏腹の甘美さが滲んで心に残りました。年末に出た『ばいばい、アース』は2600枚の長さに最初は臆しましたが、緻密に構築された、独特の法則なり文化を持った世界設定の妙と、剣が中心になった戦闘シーンの迫力に引っ張られて読む手が止まりませんでした。
中津宗一郎角川春樹事務所

『イカロスの誕生日』小川一水(ソノラマ文庫)
『猫の地球儀』秋山瑞人(電撃文庫)
『双色の瞳』霜越かほる(集英社ダッシュ文庫)
『EDGE2』とみなが貴和(講談社ホワイトハート文庫)
『海底密室』三雲岳斗(徳間デュアル文庫)

 候補の5点は順不同で各1点。私自身も編集なので「自社(角川春樹事務所)の本は選ばない」「各社1冊、作家と編集の顔を見つつ」となるとこうなりました。
 『イカロスの誕生日』は小川一水氏のエポックとなった作品、『猫の地球儀』は幽のセリフラストの余韻の空白など、両作品とも作家の技量とそれに答えた編集手腕の高さを感じました。
 『双色の瞳』と『EDGE2』は、シリーズ継続中ですが、このテンションを維持できれば両作家の初期の代表作になるのでは? 色んな意味で期待作。
 『海底密室』と前作の『M.G.H.』と合わせて去年のSF立役者の一つ。SFへのアプローチの提示としても非常に興味深く、成功した例だと思います。

次点
『星虫』岩本隆雄(ソノラマ文庫)
『静寂の森の殺人』夏緑(富士見ミステリー文庫)
『the Sneaker』(スニーカー文庫)
『遙かな地平』(早川書房)

 次点はそれぞれ<良きジュブナイル><成功したヤングアダルトミステリ><読み応えのある記事><知性化シリーズの最新翻訳>との観点から選出しました。復刊・ミステリ・雑誌・本編訳してよ、から次点となりましたが、見て欲しい作品です。
nyam

『バラヤー内乱』ロイス・マクマスター・ビジョルド(東京創元社、創元社文庫)……2点
『フレームシフト』ロバート・J・ソウヤー(早川書房、ハヤカワ文庫)……1点
『侵略者の平和 第一部』林譲治(ハルキ文庫)……1点
『20世紀SF(2)』中村融・山岸真編(河出書房、河出文庫)……1点

番外『女王陛下の薔薇(3)』三浦真奈美(中央公論社、中公ノベルス)

 2000年は実り多き年であったと思いながら調べてみると、記憶にある作品の多くは1999年初出のものだった(とほほ)。
 私はスペオペが好きなので、『バラヤー内乱』と『侵略者の平和』は、はずせないですね。ただ、『侵略者の平和』は、第一部ほどの面白さが第三部まで続いていないのが、すこし残念。短くして、1冊にすべきか?
 『フレームシフト』は、相変わらずのソウヤー節が心地よい。 
 また、こういった投票に短編集やシリーズものを入れるのは反対なのですが、名品ぞろいということで『20世紀SF(2)』を入れました(ごめんなさい)。
 最後に、SFとはいえないので、大好きな三浦真奈美さんの作品は番外にこっそり置きました。
 皆さんはどんな結果でしたか?2001年の投票でまた会いましょう。
林@不純粋科学研究所

池上永一『レキオス』…… 2点
グレッグ・イーガン『祈りの海』…… 2点
中村融編『影が行く』…… 1点

 河出の20世紀SFシリーズは完結時に投票ということで外しました。00年は国内SFに秀作が多く、逆に海外が弱いという印象です。今年は海外の巻き返しを期待します。待ち望んだニール・スティーブンスンも出るようですし。
ひらやま ひろゆきhttp://www.asahi-net.or.jp/~fq4h-hrym/scifi/

 時間もないので手短に(^^;

(3点)
野尻抱介『銀河博物誌 1 ピニェルの振り子』
(1点)
グレッグ・ベア『ダーウインの使者』
(0.5点)
ロバート・J・ソウヤー『フレームシフト』
三雲岳斗『M.G.H. 楽園の鏡像』

 以上4作品、お願いいたします。
堀田 伸二

『エンダ−ズ・シャドウ』(小説)オースン・スコット・カード……1点
『ダブルブリッド』(小説)中村恵里加……1点
『ミルククローゼット』(漫画)富沢ひとし……1点
『最終兵器彼女』(漫画)高橋しん……1点
『NieA_7』(漫画)安倍吉俊……1点

 投票要領を読むと漫画に投票してもよさそうなので上記のように投票します。もしも漫画に投票することに問題があれば以下の3点を代替にします。問題がなければ以下の3点は無点の推薦作とします。
 (森下註 : マンガもOKですので上記の5点の得点とします)

『永遠の森 博物館惑星』(小説)菅浩江
『鵺姫真話』(小説)岩本隆雄
『猫の地球儀』(小説)秋山瑞人
maririn

『鵺姫真話』岩本隆雄(ソノラマ文庫)

 私にとってのベストは 岩本隆雄さんの『鵺姫真話』です。
 10年ぶりに復活した『星虫』も『イーシャの舟』もすごーーくすきなのですが、点数を分けたくないので、『鵺姫真話』に5点でおねがいします。
 読み終えたとたんまた最初から読み直したのって、これが初めてかも! 2度目に読んだときは、一人ネタバレでにやにやしながら読むことが出来ました。
向平真

 昨年も実り多きシーズンでした。で、結果はと言いますと……
〈安部公房全集〉全29巻(新潮社)4点
石黒達昌『人喰い病』(ハルキ文庫)1点
 と、海外SF読みの私にしては珍しく、どちらも国内作品。
〈安部公房全集〉は、いささか反則技のように思われるかもしれませんが、私としては、「SFにとりつかれた作家・安部公房」というひとつの大きな物語として読み終えることができました。『無名詩集』にはじまり、『壁』『第四間氷期』を経て、『箱舟さくら丸』『カンガルーノート』『飛ぶ男』『さまざまな父』で終わった足跡が、小説、エッセイ、脚本、対談などジャンルを無視して完全に時系列で並んでいるのです。最終刊を迎えた今、全体をひとつの大きな物語として評価するのもよいのではないでしょうか。
 個々の作品でも、埋もれた傑作が目白押しで、個人的に大プッシュなのが、児童文学作家としての安部公房の知られざる側面。『ひげの生えたパイプ』『お化けが街にやって来た』の児童文学ドラマ脚本二作は、「ひょうたん島」もビックリのシュールな面白さ。何しろ全29巻中、この2作で3巻を占めているのです。意外に大きな仕事であったのが分かっていただけるのではないでしょうか。
 石黒氏は、「おかえりなさい」という意味をこめて。この作品集がSFとして刊行されたことの意味は非常に大きいです。SFが石黒氏を許容するだけの容積を回復できたのですから。
 本当は、クラフト・エヴィング商会の『らくだこぶ書房21世紀古書目録』(筑摩書房)で決まり! と思っていたんですが、読んでみたらビックリ、純然たるファンタジーなのでした。一番SF的なはずの設定でファンタジーをやる、というのが逆に面白いところなんでしょうが……ちょっとがっかり。アンソロジー本『影が行く』(創元推理文庫)は、NW派としては感涙ものの一冊なんですが(やっと『唾の樹』読め たし)、まあ私が挙げなくても誰か挙げるであろうと(笑)。
 あと、SFではありませんが、ドン・デリロ『マオU』(本の友社)は、目の付け所の特異さが、SFに共通するものを感じてお勧めでした。ポストモダンながら非常に読みやすい筆致も好感を持ちました。
 いかにもSFっぽい装丁なのにとんだ肩透かしといえば『ジョン・ランプリエールの辞書』(東京創元社)。ハリウッド映画のラストのようなクサい結末は、エーコの万分の一の感動も呼ばず。
 映像はノーカウントということなので選外ですがアニメ映画『青の六号』の完結も重要事項ですね。
本橋 牛乳http://member.nifty.ne.jp/tenshinokuma

『舞踏会へ向かう三人の農夫』リチャード・パワーズ(みすず書房)
「掃討の村」ケイト・ウィルヘルム(SFM10月号)
「デリー分割」マイクル・ムアコック(SFM2月号)
『コオロギの眼』ジェイムズ・サリス(早川書房)
『サハリン・ニブフの物語』ウラジーミル・サンギ(北海道新聞社)

 ピンチョンの『重力の虹』がSFであるとすれば、パワーズの『舞踏会……』もSFなんじゃないかって思う。タイトルに示される20世紀初期の1枚の写真をもとに、イマジネーションは写真・自動車・戦争という20世紀を代表する機械について広がっていく。まさに20世紀そのものといった小説。SFが未来を描くものだったとしても、21世紀になった現在では、同じ距離をもって過去を描くことも可能なんだなって思う。もうSFは一方的に未来に進めないんじゃないかって。
 「掃討の村」はベトナム戦争が影を落とした小説。あの戦争が何だったのかは、アメリカ人であるウィルヘルムと日本人であるぼくとは、たぶん感じ方はちがうんだけど、なお、20世紀がけっこう残酷な世紀だったことは記憶されるんだろうな。そのウィルヘルムが90年代に書いたミステリー短編「キリストの涙」が扶桑社ミステリーのアンソロジー『夜汽車はバビロンへ』の中でこっそり訳されている。とてもユーモアに充ちた作品で楽しいので、こちらもおすすめ。何といっても主人公の探偵夫妻のモデルが自分自身とデーモン・ナイトというのがいい。この2つの短編の間に20年以上の時間が流れていることを考えると、しみじみする。ケイト・ウィルヘルムはベトナムから癒されたのかなあ、とか。
 「デリー分割」はムアコックがせっせと書いたジェリー・コーネリアス物の短編。コーネリアスは北京だのプラハだの今回のデリーだのと、とにかく紛争のあるところに出かけていっては、自分が無力なことを悟っている。けっこうかわいそうな人なんだけど、ここでも戦争、というより東西の対立とその波及による紛争がテーマ。無力な主人公を描いたSFが無力じゃなかったのかどうか。短期的にはニューウェーブSFって無力だったのかもしれないけど、長期的にはSFが現実にコミットできることを示しただけでも大切なことだったって思う。
 かつて、ムアコックと一緒に「コオロギの眼の不安」というコーネリアス物の短編を書いたジョイムズ・サリスは、後に『コオロギの眼』というハードボイルドを書く。いや、実はこの2つの小説の作者が同一だという確証はないのだけど、『コオロギの眼』にはサム・ディレーニなんていう人物が出て来たり、ディックへの言及などSFへの関心も高いので、同一人物だと確信はしているのだけど、まあ。で、このハードボイルド、読んでいると途中で依頼された事件が解決してしまう。で、ラストはむしろ主人公自身が困難や孤独が解決され、癒されていく。サリスの場合、アフリカ系アメリカ人として公民権運動など、合州国内部の対立の中にいた。そんなギスギスした中(同じシリーズの『黒いスズメバチ』に描かれている)から、ゆっくりと再生していく小説の、このラストを考えると、今でも涙が出そうになる。
 サハリンという土地を考えるとき、日本人は戦争抜きに語れないと思う。そのサハリンを舞台にした、サハリン・ネイティブによる小説を読むと、複雑な気持ちになる。北海道のわずか北、第二次世界大戦以前は一時は日本だったこともある土地。そこにソ連が存在し、コルホーズが存在した。ネイティブの語りはイヌイットともアイヌとも近いようなファンタジーとなっている。いまだに日本を閉塞的なものにしているナショナリズムがいかに世界に対する距離感を狂わせているのかって思う。サハリンの小説を読むと、国境って明確な線は一方的に引かれているけれども、実際にはもっとゆるやかなもの。昨年読んだ小説の中で、幸福な出会いの一つだった。
 なんだか、SFじゃないみたいですけど、SFに関係する作品を選んだつもりです。それで、説明が長くなってしまいました。すいません。
森下 一仁

『祈りの海』グレッグ・イーガン
『永遠の森 博物館惑星』菅浩江
『八月の博物館』瀬名秀明
『人喰い病』石黒達昌
『フューチャーマチック』ウィリアム・ギブスン

 以上に各1点。以下の各作品にも点を入れたかったのですが……。

『太陽の王と月の妖獣』ヴォンダ・N・マッキンタイア
『時に架ける橋』ロバート・チャールズ・ウィルスン
『バラヤー内乱』ロイス・マクマスター・ビジョルド
『M.G.H.』三雲岳斗
『魚籃観音記』筒井康隆
『レキオス』池上永一
『ワイルド・レイン』岡本賢一
山崎 晃

『永遠の森』菅浩江(早川書房)……2点
『ジュブナイル」山崎貴(メディアファクトリー、MFジュブナイル文庫)……1点
『猫の地球儀」秋山瑞人(電撃文庫)……1点
『双色の瞳」霜越かほる(集英社ダッシュ文庫)……0.5点
『EDGE2」とみなが貴和(講談社ホワイトハート文庫)……0.5点

 SFと言ってもヤングアダルトを多く読んでいるので、そちら方面が中心になってしまいました。
 『永遠の森』は待望の菅作品、SFマガジンの連載では何故か最終話を読んでいなかったのですが、満足の行く内容でした。
 『ジュブナイル』は映画のノベライズ、単純に映画のストーリーをなぞるのでは無く、主人公の少年の成長を中心にし、映画を見ていない人でも十分に楽しめる(映画を見た人は映画では語られなかった話を知る事でさらに楽しめる)内容になっています。去年の「鉄コミュニケーション」(秋山瑞人)に続き「ノベライズ侮りがたし」と感じた1冊です。
 『猫の地球儀』は去年のベストである『鉄コミュニケーション』と比較すると私的には期待が大きかった分、評価は低くなっています。
 『双色の瞳』、『EDGE2』は作品のSF度は高くありませんが、SFマインドを感じさせる若手作家の作品として上げさせて頂きました。
依光 秀志

グレッグ・イーガン『祈りの海』(早川書房)……3点

 イーガンの短編は本当にいいなあ、と思う。長編『順列都市』も、スゴく好きだ! スゴく好きなんだが、上下二巻はけっこうダルかった。ネタ的には中編程度のものを水増しされたような感じ。個人的には、短編でこそストレートに伝わってくる作家という気がします。

牧野修『病の世紀』(徳間書店)……2点

 ラストに不満はあるものの、全体に読者へのサービス精神にあふれた作品に感じました。今までの著者の作品の中でも、登場人物の個性の強烈さという点では一番ではなかろうか。
匿 名 1

『猫の地球儀』秋山 瑞人著(メディアワークス、電撃文庫)……3点
『祈りの海』グレッグ・イーガン著、山岸 真 編・訳(早川書房、ハヤカワ文庫)……2点

 点数を等分してもよかったのですが、最近元気がいいヤングアダルト分野への応援もこめて『猫の地球儀』をやや多めにしました。
 『祈りの海』もかなりぐっときていまして、新世紀から幸先いい感じです。(読んだのは今年に入ってからなので)
匿 名 2

『ブライトライツ・ホーリーランド』古橋秀之(電撃文庫)……5点

 個人的には古橋秀之が見事に復活を遂げた一年でした。『タツモリ家』も捨てがたいのですが、やはりあの《ケイオス・ヘキサ》シリーズの完結編で、古橋秀之大復活の一年の劈頭をなしたこの一編を推したいと思います。
 国内・海外を問わず他作家の作品にも秀作が多かったのですが、点数を分けるのを避けたいので『ブライトライツ・ホーリーランド』一本でお願いします。

★投票要領は次のとおりでした★

ベストSF2000 投票募集のお知らせ


 今年もやりますベストSFアンケート。
じっくり選んで投票してください。

 2000年1月1日から12月31日までに国内で出版されたSF(奥付の日付で判断してください)で、あなたがおもしろかったと思うものをEメールで投票してください。要領は次のとおりです。