「ベストSF '99」集計報告


2000年2月13日締切(投票者数:27)

ベスト5


海 外 作 品
1 『宇宙消失』グレッグ・イーガン (18.3点)
2 『キリンヤガ』マイク・レズニック (11.95点)
3 『順列都市』グレッグ・イーガン (8.75点)
4 『エンディミオンの覚醒』ダン・シモンズ (7.5点)
5 『エンディミオン』ダン・シモンズ (3.5点)

国 内 作 品
1 『太陽の簒奪者』野尻抱介 (9点)
2 『クリスタルサイレンス』藤崎慎吾 (7.15点)
3 『グッドラック 戦闘妖精・雪風』神林長平 (6点)
4 『やみなべの陰謀』田中哲弥 (5.75点)
5 『スイート・リトル・ベイビー』牧野修 (4.25点)

1位に輝いた方のお言葉


山岸真様(海外部門1位『宇宙消失』訳者)

 どうもありがとうございます。2月26日(土)に森下さんから猩猩じゃなくて賞状を手渡ししていただきました。
 今年は総投票者数が少なかったようですが、『宇宙消失』に票をいれてくださったかたの数は例年の1位作品にひけをとるものではなかったので(自分で数えた^^)、ほっとしています。
 昨年末にインターネット環境になり、こちらの投票経過とコメントを日々追う一方、さまざまな感想も読ませていただきました。初の長篇訳書ということで舞いあがってしまい、2作目の『順列都市』とあわせ、あちこちでいろんなことを口走りましたが、ぼくのイーガン観は、訳者あとがきや、〈SFマガジン〉1999年11月号の特集解説、同2000年2月号「SFスキャナー」、などでくりかえし書きましたので(同誌1999年12月号の瀬名秀明さんの書評に、ある意味で近いと思います)、ごらんいただけるとさいわいです。
 イーガンの第3長篇は、アレン・スティールの長篇の次に訳しますので、楽しみにお待ちください。『宇宙消失』と『順列都市』は3月上旬から大きめの書店では入手しやすくなると思いますので、まだお読みでないかたはぜひお買い求めを。短篇集もひょっとすると出せる可能性がないとはいえないので、こちらも応援をよろしくおねがいします。

山岸真 


野尻抱介様(国内部門1位『太陽の簒奪者』作者)

 私のデビュー作はゲームのノベライズでしたが、最初からSF性を強く意識していました。『太陽の簒奪者』はSFマガジンでのデビュー作で、執筆にあたっては「自分だったらこんなSFが読みたい」ものにしようと思いました。それが好評を得たことは本当に嬉しく思います。
 この作品は3回で完結させる予定です。ちょうどいま最終話を書いていて、ひろげた大風呂敷を畳むのに苦労しています。ファーストコンタクト・テーマはすでにあらゆるパターンが書かれているので、これも誰かの作品に似てしまうかもしれません。
 しかし既存のパターンでも、新しい知見を注ぐことで成功する可能性はあると思います。科学に終焉がないのと同様、SFの素材も永遠に尽きないはずです。それこそがSFの強みだと信じています。

2000年 2月23日   野尻抱介  


得点の詳細




各投票者の推薦作(50音順・敬称略)

天川和久

1位『宇宙消失』グレッグ・イーガン(創元SF文庫)……1.8点
2位『順列都市』グレッグ・イーガン(ハヤカワSF文庫)…… 1.5点
3位『キリンヤガ』マイク・レズニック(ハヤカワSF文庫)…… 0.7点
4位『クリスタルサイレンス』藤崎慎吾(朝日ソノラマ)…… 0.5点
 〃『星ぼしの荒野から』ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア(ハヤカワSF文庫)…… 0.5点

 1999年は豊作だったと思います。『エンディミオン』もあったし。
 でも自分としては何といってもイーガンの年。山岸真さんには感謝をしております。小説としてはアンバランスでも、抗い難いアイディアストーリーの醍醐味があります。頑固な神様嫌いなところも面白い。甲乙付け難いが、日本初紹介作で長さのやや短い方を(薦めやすいので)1位にしました。でもアイディアの飛び具合は『順列都市』かも。SFマガジンの短編も面白かった。癖の強い作家だが引き続いての紹介が期待されます。
 3位はネット上でも楽しんだので少し加点。
 4位は新旧取り混ぜて。藤崎慎吾はまっとうなSFで好感が持てます。まっとうな分、現代的な魅力に欠かるかも。
 ティプトリーは良い短編もあったのでという程度。以前の短編集より落ちる。
 ロックネタは『順列都市』のニック・ケイブと『フェアリイランド』のバッド・ブレインズが印象的だった。もちろんブギー・ポップも。ピンク・フロイドのファーストがタイトルとはね。やられた。

犬引(http://www.interq.or.jp/black/rei/

『順列都市』グレッグ・イーガン……2.5点
 久しぶりにSFを読んで驚かされました。後半からのプロットの展開はスゴイです。並みの作家なら破綻してしまうところを(少々強引ではありますが)きちんとまとめています。流石。ただ、作品全体の雰囲 気がまじめすぎて疲れてしまうので、個人的にはラッカー辺りの作風の方が好みですが。
 
『マイノリティ・リポート』フィリップ・K・ディック……1.5点
 ディックの短編は安心して読めますねえ。
 
『キリンヤガ』マイク・レズニック……1.0点
 SFとしてはどうかなあと思うのですが、素晴らしい出来の小説であることは明白なので1点入れておきます。

今中 一時@D.B.C(http://www.pluto.dti.ne.jp/~moment/

 今年もあまり新刊を読まなかったので(本棚にある本ばかり読みかえしていたような……)ひかえめにいきます。

『グッドラック 戦闘妖精・雪風』神林長平……2点
 続編でありながら前作とまったく異なる地平の高みへ到達したその凄さに圧倒されました。
『星ぼしの荒野から』 ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア……1点
 ティプトリーの短篇集の中ではもっとも作品の出来不出来が激しいのではないかと思いますが大好きな「スロー・ミュージック」ととんでもない「たおやかな狂える手に」、そして思わぬ拾いもの「おお、わが姉妹よ、光満つるその顔よ!」(SFじゃないか?)が入っているので。

タカアキラ ウ(http://member.nifty.ne.jp/Takaakira_say/

 やはり本格的に働き始めたので本を読める量が減った気がします。そんな少ない読んだ本の中からですが自分なりのベストを投票させていただきます。

『やみなべの陰謀』田中哲弥……1点
『星ぼしの荒野から』ジェイムス・ティプトリー・jr……1点
『キリンヤガ』マイク・レズニック……1点
『銀河の荒鷲シーフォート(完結)』ディビット・ファインタック……1点
『ブギーポップ』(シリーズ)上遠野浩平……1点

どの作品も全部このおもしろさを誰かに伝えたい! 分かち合いたい! と思った作品ばかりです。

『やみなべの陰謀』
 書いてないところを読むのが気持ちいい本です。感動させられてしまうのです。
 ところで電撃文庫は裏表紙に膝を打たされてしまうことが多い気がします。

『星ぼしの荒野から』
 私はいつからこんな本を好きこのんで読むようになってしまったのでしょう。表題作と「たおやかな狂える手に」の他「ラセンウジバエ解決法」もお薦めします。

『キリンヤガ』
 別に人間はどんな風に進歩していってもそのそれぞれが間違いではないのではないかと思いました。というととんちんかんなことを考えているなと読んだ人とレズニックに笑われてしまうかもしれません。
 中国の桃仙郷惑星がだめなら泰平江戸惑星に入植希望。(間違ってます)

『銀河の荒鷲シーフォート』(シリーズ)
 ちょっと非道い話でもあるのでほかの誰もが投票してくれないんじゃないかと思って投票します。あとがきによく昔の海軍の関係者から昔が懐かしいという手紙をもらったと書いてありますが、実は私もシーフォートシリーズで描かれているような海軍式の教育を受けたことがあります。そのせいでというわけはたぶんにあるかもしれませんが劇中のリアリティのある軍隊生活描写が面白くてたまりませんでした。
 また頑固で不器用、馬鹿正直。つまり難儀な性格のシーフォートがどうしても嫌いになれません。というか大好きです。
 そうそう興味があって洋書の棚で原書の表紙を見たのですが…日本の読者で良かったと思います。

『ブギーポップ』(シリーズ)
 には去年も投票したので迷ったのですが入れてしまいます。
 何を隠そう私も高校生の時は日がな一日世界の平和を守っていました。テレビゲームですけどね、なぜにそんなに世界の平和を守りたかったのか。今となっては定かではないのですが、多分本当の世界の平和も守りたかったのではないでしょうか。なぜ本当の世界の平和を守りたかったのかというと、当時の私には世界が今にも崩れてきそうな危なっかしい物に感じられたのではないかと思うのですがこれも定かではありません。この作品のどこがどれだけすごいのかは当時の私の方がよく知っているのかもしれません。

大熊健朗(http://www7.cds.ne.jp/~nactor/

『宇宙消失』グレッグ・イーガン(創元SF文庫)……2.5点
『クリスタルサイレンス』藤崎慎吾(朝日ソノラマ)……2.5点
 1999年は実に沢山の、かつ面白いSFが出版された年だった。これでSF氷河期というのなら、永遠に氷河期でも別にいいやと思ってしまったほどだ。
 ということで、気に入った本に5点を配分していくと一冊辺りの点数がとても小さくなってしまうので、思い切って最も印象に残った2冊(海外SF・国内SF)に絞ってみることにした。どちらも「SFを読む愉悦」を楽しむことのできる傑作だったと思う。
 それでは、2000年もよきSF氷河期でありますように。

加藤逸人

『順列都市』グレッグ・イーガン……1点
『キリンヤガ』マイク・レズニック……1点
『フェアリイ・ランド』ポール・J・マコーリー……1点
『黄金の羅針盤』フィリップ・プルマン……1点
『エンディミオン』/『エンディミオンの覚醒』ダン・シモンズ……1点(各0.5点)
 あまり票が集まりそうにない 『フェアリランド』と『黄金の羅針盤』について ひとこと。
 そっけない文体でいつも損をしている気がするマコーリーですが、『フェアリランド』だけはその文体のおかげでただの物語以上の作品になっていると思います。『黄金の羅針盤』はYA向けのファンタジーですが、ここまで独自の設定に徹した作品も少ないのではないでしょうか。ハリ・ポタの影に隠れてしまったようで非常に残念。
 ちなみに、〈エンディミオン〉の2作については、期待以上の出来ではなかったということでちょっと迷いましたが、ハイペリオンの2作に比べるから見劣りするだけで、十分楽しませてもらいました。ここで挙げておかなければ申し訳ないですよね。
 尚、90年代SFの投票があれば〈ハイペリオン〉の2作とともに是非入れたいメアリ・ドリア・ラッセルの『すずめ』、残念ながらまた昨年も翻訳されませんでした。20世紀もあと1年ですから、今年こそはなんとかして欲しいです。

Mutsuhiko Katoh

『チグリスとユーフラテス』新井素子……1点
『グッドラック』神林長平……1点
『夢の樹が接げたなら』森岡浩之……1点
『宇宙消失』グレッグ・イーガン……1点
『フェアリイ・ランド』ポール・J・マコーリイ……1点

おまけ
『キリンヤガ』マイク・レズニック
 「空にふれた少女」だけだったら、5点全部入れてもいい。「ノドの地」だけを読んだのだったら、1点ぐらいは入れてると思う。でも、シリーズまとめて読むと点を入れる気になれないんだなあ、不思議なことに。

川島秀一

『宇宙消失』グレッグ・イーガン…… 0.5点
『順列都市』グレッグ・イーガン…… 0.25点
 イーガンの作品は、アイデアだけでも、十分わくわくさせられます。ただ、いつも物語中盤あたりが一番面白いような気もします。

『キリンヤガ』マイク・レズニック…… 0.25点
 雑誌掲載をずっと読んでいたので、99年の作品という感じがしないのですが、掲載を待ちかねて読んでいたシリーズでした。

『エンディミオン』ダン・シモンズ……2点
『エンディミオンの覚醒』ダン・シモンズ……2点
 未読だった『ハイペリオン』から4冊一気読みしました。一般には、『エンディミオン』2部作は『ハイペリオン』2部作より少し低い評価のような気がしますが、個人的には『エンディミオン』2部作の方が、キャラクター的に感情移入しやすかったこともあって、少なくとも読みやすくて楽しめました。どちらにせよ、すごい作品です。

喜多哲士(喜多哲士のぼやいたるねん

『スイート・リトル・ベイビー』牧野修(角川ホラー文庫)……3点
『やみなべの陰謀』田中哲弥(メディアワークス電撃文庫)……2点
 「やみなべ」はもっと評価されてしかるべき作品だと思うのですが。なんだかあまり話題になりませんね。

斎藤 樂(http://www.cyberoz.net/city/nonoi/

『宇宙消失』グレッグ・イーガン……2点
『ペリペティアの福音』秋山完……2点
『星ぼしの荒野から』ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア……0.5点
『クリスタルサイレンス』藤崎慎吾……0.4点
『逢瀬』草川為……0.1点

番外『カラー・オブ・ハート』
 秋山さんはもっと評価されてほしい、と思うので最大の配点をしたかったのですが、さすがにイーガンさんを差しおくわけにはいきませんでした。
 草川さんは……舞台に使っているだけですし、SF方面の作品作りをしていってくれるとは思えませんが、「お話」の作り手として 今後に期待しています。
 番外、新しさはなくとも、世界の膨張感を求める自分にとってはベスト級の出来。やっぱりロスさんの仕事は素敵です。

十三 まりい

『キリンヤガ』マイク・レズニック(ハヤカワ文庫)……4点
『終わりなき平和』ジョー・ホールドマン(創元SF文庫)……1点
『キリンヤガ』はなんだかごちゃごちゃと論争になってたようですが、私は去年はこの作品ははずせないと思います。この作品がいわゆるSF読者には評判があまりよくなくて、一般の読者の評価が高いのはやっぱりそれなりの理由があるのではないかと思います。私が働いている本屋ではキイスの作品群を除いて(あれをSFとするかどうかはともかく)去年SFで最も売れた本でした。
 これは私の勝手な意見なのですが、世界設定や謎を見せたり解き明かす事を重点に置いたミステリのような形式のSFではなく、『キリンヤガ』が一般の読者に受け入れられたのは「SFは『現在』が舞台では描く事の出来ない『現在』を描く事が出来るのだ」ということを「SFなんて宇宙人が出てくる現実逃避のくだらない読み物だ」と思っている人たちに少しでも感じさせる事に成功したからではないかと考えます。

杉並太郎(http://www.hi-ho.ne.jp/taros/

『やみなべの陰謀』田中哲弥……1.25点
 迷うところだが、こういうタイプの作品を書く作家はあまりいないと思う。売れて欲しい人である。
『順列都市』グレッグ・イーガン……1.25点
 やはり、SFは奇想である。小説が下手だとは思わない。
『スイート・リトル・ベイビー』牧野修……1.25点
 ホラーだが、SFでもある。やはり赤ん坊は恐い。テレタビーズもダンシングベイビーも恐い。
『終わりなき平和』ジョー・ホールドマン……1.25点
 しまった、「終わりなき戦い」を買っておけばよかったと反省。戦争SFだと思って買わなかったのです。どこが戦争SFだ。

高川朋和(http://www.pp.iij4u.or.jp/~tomotaka/

 99年はSF不作の年だと思っていたのですが、後半は楽しみでしたね。
 アカデミックなところでちょこっと話題になった「宇宙消失」が期待大でしたね。

『クリスタルサイレンス』藤崎慎吾(朝日ソノラマ 1999.10.30)……2点
 ベスト’99SFの一冊。良質の日本SFです、これは絶対に英訳して世界に評価して貰うべき作品ですね。
 ガジェット一杯のサイバ−パンク&マイクロマシーンものかと思いきや読ませるところもあり、最後の恋愛の行方は存在性に関する問いかけでもあり、余韻を引きずるものです。SF者には、お勧めの一冊だな。
『宇宙消失』グレッグ・イーガン(創元SF文庫 1999.8.27)……1点
 量子論で話題になっていた本、確かに第2部から量子論の話しになり急に面白くなるが、あまり科学的な展開を期待していたら裏切られた。それまでもサイバ−パンクものとしては良い出来。
『〈新銀河帝国興亡史1〉ファウンデーションの危機』グレゴリー・ベンフォード(早川書房 1999.12.10)……0.5点
 90年代のリメイク版ですが、心理歴史学の再解釈があるとのことでこれから読むのが楽しみ。続編がベアとブリンということでサイバ−パンク前のSFのオ−ルスタ−登場みたいでわくわくものです(期待大きいと裏切られるかな)

タニグチリウイチ(http://www.asahi-net.or.jp/~WF9R-TNGC

『APE LITTLE FOOL』大塚ヒロユキ(新風舎、1500円)……1点
『処刑列車』大石圭(河出書房新社、1800円)……1点
『天魔の羅刹兵 一の巻』高瀬彼方(講談社、880円)……1点
『小説ワンダフルライフ」』是枝裕和(早川書房、560円)……1点
『ジ・ガレガレ」』堀池さだひろ(アスペクト、820円)……1点

 いわゆる本線かはら外れているような作品ばかりになりましたが、現実を超えるビジョンを見せてくれたた点で記憶に残った作品を選んでみました。

 大塚さんはデザイナーらしくこれが多分最初の本。日常が繰り返される夢のような世界を舞台にピンチョン風な謎の組織「エスネスノン」の暗躍が絡んで、不思議なビジョンを見せてくれます。次回作も完成していて刊行のために活動中とか。
 大石さんは物以下の扱いで次々と人間が殺されていく描写が圧倒的。
 高瀬さんは戦国時代の合戦場に立つ「羅刹兵」の絵にシビれます。
 是枝さんは映画のノベライズ。思い出を振り返る死人たち様に陳腐な言葉ですが”生きる事”の意味が問い直されます。
 「ジ・ガレガレ」はコミック。未来の地球に暮らす怪物っぽい長命な「ジ・ガレガレ」の巻き起こす騒動、振り返る思い出の中から過去に残された”想い”が浮かび上がって来て身に迫ります。

 秋山瑞人さんの『猫の地球儀』は2000年の作品だから除外、でしょうね、それまで内的な1位を保ち続けることができるか。『E.G.コンバット』も完結するから2作ランクイン、ってこともありえます

 2000年は角川春樹事務所が年央からガンガンSFを出していくそうでラインアップに期待大、講談社らしい上遠野浩平さんの新作とか、徳間の三雲岳斗さんのSF新人賞受賞作とかも相次ぐから選ぶのに楽しそうですが読むのも大変そうな年です。

辻久仁子

 去年はSFはほとんど読んでないので投票するのは止めようかと思ったのですが『夢の樹が接げたなら』森岡浩之氏(早川書房)が入ってないようなので1票入れます。得点1点。これは比較の対象が私の中であまりないからです。

『夢の樹が接げたなら』森岡浩之……1点
 失語症などの患者さんを見ることがあるのですが、そういう経験からみてもこの話のつくりが矛盾しないような気がしたので。こういう世界の作り方もあるんだなあと感心しました。言葉というものの本質と、ニューロコンピュータなどの新しい小道具をうまく使って作られたフィクションのように思えました。

Hayashi Tetsuya

『宇宙消失』グレッグ・イーガン……4点
『ディスコ2000』サラ・チャンピオン編……1点

 『エンディミオンの覚醒』が未読なのが気になりますが、多分に戦略的な投票なので、読み終わっていても投票内容は変わらないでしょう。
 上記以外での99年の収穫は、『順列都市』『エンディミオン』『フェアリイ・ランド』『クリスタルサイレンス』といったあたりでしょうか。全般に、今年はレベルが高かったという印象があります。
 来年も傑作に出会えますように。

ひらやま ひろゆき(http://www.asahi-net.or.jp/~fq4h-hrym/scifi/

『太陽の簒奪者』野尻抱介……4点
『クリスタルサイレンス』藤崎慎吾……0.5点
『スタープレックス』ロバート・J・ソウヤー……0.25点
『グローリー・シーズン』デイビット・ブリン……0.25点

細井威男(http://www.fan.gr.jp/~hosoi/

『順列都市』グレッグ・イーガン…… 2.25点
『キリンヤガ』マイク・レズニック……1点
『クリスタル・サイレンス』藤崎慎吾…… 0.75点
『スタープレックス』ロバート・J・ソウヤー…… 0.5点
『やみなべの陰謀』田中哲弥…… 0.5点
 『順列都市』は突拍子もないアイディアを偏執狂的な論理と実験の積み重ね(ちょっと怪しいのですが)で読者を納得させる力技が特に気に入りました。『宇宙消失』も楽しめたのですがこの点がより徹底している『順列都市』の方に投票しました。
 あとは割とストーリーの面白さを重視した気がします。

本上力丸(http://www.geocities.co.jp/Technopolis-Mars/1662

『宇宙消失』グレッグ・イーガン(創元SF文庫)……1.5点
 この作品のメインアイデアって,ラッカーの『時空の支配者』に似ていますよね。で,最後なんか,まんま『セックス・スフィア』。ラッカーファンとしては票を入れない訳には行きません。
 ただ,聊か真面目すぎるきらいがあって,いまいち好みに合いませんでした。それに,作者独特のディティールがないのも,作品の魅力を半減させている。モッドだって,ジョージ・アレック・エフィンジャーからのいただきでしょう。
 それに,脳によって波動関数が収縮する,というのも,気に喰わない。なんだか,形を変えた生気論の様に思えます。どうやって収縮させるのかも分からないし。こういう,都合の悪い所は適当にぼかすやり方が厭。結局,『時空の支配者』の方が,断然面白い。
『幻惑の極微機械』リンダ・ナガタ(ハヤカワ文庫SF)……3点
 これだけ真正面から宗教を扱ったSFも珍しいのでは。その意味で,ベスト10に入る資格は充分かと思います。とにかく,この作者の,椎名誠を思わせるデティールやネーミングセンスがたまらなく好きです。ただ,題名は原題に忠実な方が良いのでは……。
『スタープレックス』ロバート・J・ソウヤー(ハヤカワ文庫SF)……0.5点
 確かに面白い亊は認めますが,どうにも軽すぎる。もっと思想的にも頑張って欲しかった。この作品には,“今の自分の頃の亊を殆ど覚えていない自分”と主人公が対話する場面がありますが,そこも,もっと哲学的に掘り下げたら面白かっただろうに。つまり,そこまで記憶が無くなってしまっている人間(容姿も,激変している)は,《自分》と言えるのだろうか? とかね。

『時空ドーナッツ』の解説によると,去年中に『フリーウェア』が刊行される筈だったのに,とうとう刊行されずじまいだった。刊行されたら,それに5点入れたのに。翻訳は,どうなっているのだろうか……。部分訳がSFマガジンに載ったのが96年だっていうのに,遅すぎやしないか。

masaki@mailhost(http://www.mailhost.net/~masaki/

『ペリペティアの福音[下-聖還編]』秋山完……1点
 下巻で何が驚いたって、たった3回しか発売が延期されなかったことです(^^)。冗談はともかく、待った甲斐はありました。一葬儀屋の話が、最後に全宇宙を揺るがす大戦争に発展するとは。いろいろな遊び心にあふれた、チャレンジングな作品だと思います。ネーミングのセンスとかが時々すべってるのですが、それも含めてオッケーです。

『スカーレット・ウィザード(1,2)』茅田砂胡……1点
 茅田砂胡がこんなにSFな人だったとは、意外でした。

『西の善き魔女 5 闇の左手』荻原規子……1点
 これほど真っ当なファンタジー小説は、最近珍しいです。ラストのオチも、SF者にとっては大満足でした。

『やみなべの陰謀』田中哲弥……1点
『夢の樹が接げたなら』森岡浩之……1点

maririn

『エンディミオン』ダン・シモンズ……5点
 今年は 投票資格があるようなので 投票します。
 今日、図書館から『エンディミオンの覚醒』が入りましたって留守電に伝言が残っていたので、土曜日に借りに行くつもりです。読み終わることができれば また投票しなおすかも。
(森下註 : ……といっていたら、やはり投票の訂正がありました。以下が正しい投票です)
 先日、『エンディミオンの覚醒』を読み終えました。それで 訂正したくメールいたします。
『エンディミオンの覚醒』ダン・シモンズ……4点
『エンディミオン』〃……1点
 どちらもとっても読み応えがあって面白かったのですが、謎が解けていくって事で『覚醒』の方にいっぱい点を入れたいと思います。
 よく分からないところもいっぱいありましたが(急いで読んだので特にそうでした)、それでも『ハイペリオン』からの謎が後半ばんばん解けていくのが嬉しくて。

溝口哲郎(http://home.catv.ne.jp/dd/fmizo/

『宇宙消失』グレック・イーガン(創元SF文庫)……2点
『キリンヤガ』マイク・レズニック(ハヤカワ文庫SF)……2点
『トロピカル』井上雅彦編(廣済堂文庫)……0.5点
『鍋が笑う』岡本賢一(朝日ソノラマ)……0.5点

 古い作品ばかり読んでいたので、現在のところ読んだSFの中ではこの二つが面白かったです。翻訳も非常によくて、物語世界を楽しめたことも選んだ理由の一つです。
 日本人の方ですが井上雅彦さんのアンソロジーの中から選んでみました。多少ホラー的な要素もありますが、十分バランスの取れたアンソロジーに仕上がっているのではないかと思いました。岡本賢一さんの短編集は表題作「鍋が笑う」がSFとして完成度が高かったので。

向平真

『Think』クラフト・エヴィング商會プレゼンツ/吉田音著(筑摩書房)……3点
『前日島』ウンベルト・エーコ(文藝春秋)……1点
『宇宙消失』グレッグ・イーガン(創元SF文庫)……1点

 またしても、クラフト・エヴィング商會にしてやられてしまいました。年に一冊ずつ、ちょうどこのベストSFを「何にしようかなー」と思うころに刊行されるというのもあるんですが、それにしても、毎回、かくも見事に予想を裏切る展開を見せてくれるのも珍しい。しかもそれがいちいち、私のSFゴコロのツボにハマってしまうので、モダエまくっております。
 「発明発見奇談」「架空旅行記」ときて次は何かなと思っていると、なんと今回は「思弁小説」なのです。それもなんと、とびきり楽しい!
 クセモノなことに冒頭でまず、今回は自分たちの作品ではない、と言い始めます。中学1年生になる、自分たちの娘が作品を書いたので、それをプロデュースしただけだ、というのです。ところが、どうみてもひどく大人びた文章で、子供らしさのカケラもない。むむ、これは怪しい。何かあるな、と思いながら、読者は読み進めることになります。
 内容はというと、近所に住むネコ・シンクがあちこちに散歩して拾ってきた鳥の羽や古い映画のポスターなどをもとに、主人公・音(おん)ちゃんが、シンクが行った場所を推理する、というものなのですが……シンクが拾ってくるものは妙なものばかりで、音ちゃんが立てる前提は次々に覆されていってしまいます。
 音ちゃんが推理して作った物語もひどく大人びて寓話じみたものばかりで、謎を解くどころかますます謎を深めてしまいます。気になって仕方ないのは、それらの手がかりが、何か言いたげで、明らかに断片的情報を見せているということ。そういえばネコの名前も「Think=考える」なんだよなあ……と考えるうちに、自分自身もこの物語の中に取り込まれていることに気づくことになります。
 ちなみに今回はタネあかしはありません。著者略歴のところにもしっかりと「吉田音・1986年、東京生まれ」と載っているのですが、音、というのも女の子の名前らしからぬ名前ですよね。冒頭の写真には、「O」と「N」のアルファベットが描かれた立方体が意味ありげに置かれているのですが、これって、「NO」とも読めるもんなあ……
 ちなみに、あと二冊については、あまり言うまでもないかと思います。エーコの著作についてはSF的アイデアを満載した疑似科学のカタログ集として、そしてイーガンについては「一生ついていきます」という証として。

椋野直樹(元空想小説ワークショップ受講生)――郵送にて投票


『グッドラック 戦闘妖精・雪風』神林長平……3点
『バトル・ロワイアル』高見広春……1点
『トンデモ創世記2000』唐沢俊一、志水一夫……1点

映像メディア部門
TVアニメ『カウボーイビバップ』監督/渡辺信一郎(脚本では村井さだゆきと佐藤大が秀逸)

 SF者でもパソコンユーザーでもないのに、また参加させて頂きます。結局、昨年もあまりSF読めなかったのにすいません。『エリコ』に挫け、『クリスタルサイレンス』は図書館に入らず、『カムナビ』は敬遠してしまい、え、シモンズって誰ですか。昔『カーリーの歌』というホラーを読みましたが、その後も翻訳されていたんですか。うーん、知らなかった(あれ、本棚の奥深くの『殺戮のチェスゲーム』って何?)。大体翻訳SFに弱く、『火星転移』は二十ページで放り出し『レッドマーズ』は気力を整えてからと思っているうちに一年以上たってしまい……。『宇宙消失』も面白いんですがタイムアップとなってしまいました。あの、投票資格はありますか?

 『完璧な涙』にすべって以来、ごぶさたの神林長平だが、雪風の続編となれば読まずばなるまい。派手なシチュエーションを、静止画像のようにしてしまうクールな文体。それが終盤で逆にエモーショナルな奮りを感じさせる。理解不能なものとのコミュニケーションという主題に安易な決着をつけず、それでも人間の存在基盤―愛―をさらりと提示したところに作者の成熟が感じられた。
 設定が異常で残酷、作品が世にでることも許されないと聞いたので、どんなナスティな話かなとワクワクした『バトル・ロワイアル』は、拍子ぬけするほどまっとうな熱血健康優良不良少年少女活劇じゃん。冒険小説趣向とワイズクラック調の語り口がいい。世界観の構築にSF的な面白いロジックが感じられないのと、オタクが意外な活躍をみせないのが不満だが。宮部みゆきファンがころびそうな男の子が主役だなんてね。でもラストの方は目頭が熱くなってしまった。作者はSFやホラーには執着がないようだから、次はぜひ本格冒険小説を読ませてほしい。それにしても信じられないくらい不快なのは××××(森下註 : 筆者の了承のもとで伏せ字としました)と物言いだよ、林真理子。
 オタクか。大学一回生の時『劇画ブリッコ』の中森明夫のエッセイで、初めてそういうものを認識した。根クラ、根アカという分類に代わって若者の間(死語)では早くに差別語として定着したな。それが今やサブカルチャーの主流になってしまうとは。『トンデモ創世記2000』は胎動期の七十年代から拡散と浸透の現代まで、当事者として関わってきた著者たちがオタクの歴史を語りおろす。イタいものからお約束なものまでエピソード満載で、隔膜がひきつるほど笑えるけれど、良質の青春映画のような哀切と至福の混じった奇妙な感動も受ける。ところであなたは、どの『ガンダム』を初めて観た? 私しゃ中三の時『ファースト』にフィーバー(当時でも死語)してました。もちろんリアルタイムで。認めたくないものだな、以下略。
 映画では『ガメラ3』の本編の混乱ぶりがつらい。しかし怒涛の特撮は、素晴らしい。渋谷を焼き払ってくれて、感謝します。『スターウォーズ/EP1』は史上最低、最悪の出し遅れ証文映画でしたな。『マトリックス』も予告編以上の魅力がなかった。仮想現実や異世界をネタにした安易な欲望充足や癒し系の物語が多すぎないですか。悲劇の原因を性的虐待や家庭内暴力に求めるミステリー小説と同じ。 

森太郎(http://hp.vector.co.jp/authors/VA005631/

『太陽の簒奪者』野尻抱介 …… 5点

以下 0点
『順列都市』グレッグ・イーガン
『宇宙消失』グレッグ・イーガン
『星ぼしの荒野から』ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア 『スタープレックス』ロバート・J・ソウヤー

 1998年の「沈黙のフライバイ」に続き、今回も野尻さんの短編に集中することにしました。イーガンにも非常に惹かれたんですが、鋭く心を動かされた読後感を思い出し、『太陽の簒奪者』を選ぶことにしました。
 1999年の本では、非SFも含めて『リヴァイアサン』ポール・オースター『キリンヤガ』マイク・レズニックなどが、印象的でした。

森下一仁

『チグリスとユーフラテス』新井素子(集英社)……1点
『夢の樹が継げたなら』森岡浩之(早川書房)……1点
『宇宙消失』グレッグ・イーガン(創元SF文庫)……1点
『エンディミオンの覚醒』ダン・シモンズ(早川書房)……1点
『終わりなき平和』ジョー・ホールドマン(創元SF文庫)……1点

森山和道(独断と偏見のSF&科学書評

 昨年はあまりSF読んでないし、SFのベスト、って感じじゃないかもしれませんが、取りあえず、以下の5冊に。

『魂込め』目取真俊……1点
『バトル・ロワイヤル』高見広春……1点
『造物主の選択』J・P・ホーガン……1点
『仮想空間計画』J・P・ホーガン……1点
『キリンヤガ』マイク・レズニック……1点


ベストSF '99 投票募集のお知らせ


 今年もやりますベストSFアンケート。
じっくり選んで投票してください。

 1999年1月1日から12月31日までに国内で出版されたSF(奥付の日付で判断してください)で、あなたがおもしろかったと思うものをEメールで投票してください。要領は次のとおりです。

  • 日本語で読めるもの。最終集計で翻訳作品と国内作品に分けます。
  • 1人5作品まで推薦可能。もちろん、1作品でも構いません。
  • 点数集計:推薦者1人が5点を所有し、推薦各作品に割り振る。指定のない場合は、均等に配分する。
    例1:郷ひろふみ『あ・ち・ち!』―4点、C・D・シマッタ『虚無へのステーション』―1点
    例2:ドモ『こんにちわ』、デワ『さようなら』、マタ『会いましょう』。(配点指定がないので各1.667点)

  • 投票期間:2月13日(日)午後11時59分59秒まで。
  • 発表:投票があり次第、途中経過を発表してゆきます。
  • ランキングとは別に、各人の推薦リストも掲載します。作品への簡単なコメントも可。個人名およびメールアドレスを公表されたくない方は、その旨お書き添えください