「ベストSF '98」集計報告


1999年2月14日締切・確定(投票者数:41)

ベスト10


海 外 作 品
1 『スノウ・クラッシュ』ニール・スティーブンスン (13.75点)
2 『時空ドーナツ』ルーディ・ラッカー (9.2点)
3 『スロー・リバー』ニコラ・グリフィス (8.75点)
4 『量子宇宙干渉機』J.P.ホーガン (6.15点)
5 『ホログラム街の女』F・ポール・ウィルスン (6点)
6 『タイム・シップ』スティーヴン・バクスター (5.6点)
7 『レッド・マーズ』キム・スタンリー・ロビンスン (5.5点)
8 『ドラキュラ戦記』キム・ニューマン (4.2点)
9 『ダスト』チャールズ・ペレグリーノ (3点)
〃 『WATCHMEN 日本語版』アラン・ムーア作
                 デイブ・ギボンズ画 
(〃)

国内作品
1 『ブギーポップは笑わない』上遠野 浩平 (13.25点)
2 《異形コレクション》井上雅彦監修 (8.75点)
3 『未来さん』新谷明弘 (8.5点)
4 『ベクフットの虜』野尻抱介 (7.5点)
5 「沈黙のフライバイ」野尻抱介 (6.35点)
6 『クロスファイア』宮部みゆき (5.5点)
7 『グランド・ミステリー』奥泉光 (5点)
8 『ランポ』上山徹郎 (4.9点)
9 『ループ』鈴木光司 (4.5点)
10 『PURE TRANCE』水野純子 (3点)

1位に輝いた方のお言葉


日暮雅通様(海外部門1位『スノウ・クラッシュ』訳者)

 まず、お礼とごあいさつがここまで遅くなってしまったことを、深くおわびします。1999年2月付でお手紙と表彰状をいただいて以来、3年近くにもなってしまいました(アスキー編集部の混乱により、私が受け取れたのは3月でした)。
 そして、あらためて「森下一仁のSFガイド」で『スノウ・クラッシュ』を“98年の最優秀翻訳SF”に選んでいただいたことに感謝し、投票していただいた皆様にお礼申し上げます。これはもちろん著者であるニール・スティーヴンスンの受けた評価ですが(彼には知らせてあります)、訳者の私としてもSFの読者の方々からこのようなものをいただいたのは初めてですので、宝物にしております。
 99年にいただいたお手紙は、私の感想をHPに載せたい旨、ご希望がありましたが、次の『ダイヤモンド・エイジ』の出版スケジュールがはっきりしてからお便りしようと思っているうち、年月がたってしまったのでした。森下様含め、投票していただいた方には本当に申しわけありません。ご存知のように今月末にようやく同作品の刊行にこぎつけたので、こうして手紙を書けるようになった次第であります(電子メールにしようかとも思いましたが、あえて手紙にしました)。
 早川書房から出した『スノウ・クラッシュ』の文庫では訳文の改訂をかなり行ないました。続いて『ダイヤモンド・エイジ』のフィニッシュ作業に入りましたが6月ころから身体をこわしたため、秋の刊行が12月になってしまったのでした。『ダイヤモンド・エイジ』の遅れをおわびするとともに、少しでも多くの皆さんに読んでいただけることを祈っております。

(2001年12月)


上遠野浩平様(国内部門1位『ブギーポップは笑わない』作者)

 えー、過去に於いてSFとは何か、という問いが何度も繰り返されて来ました。そして答えは未だに出ていないようです。というか気がついたらそういう問いかけ自体が無意味になってしまうほどSFというものが巨大になりすぎてしまったのでしょう。見渡せぱ現代文学で評判になるのはどいつもこいつもSFに影響を受けたとしか思えないものばかりです。しかしどうしたことでしょうかそんな中で私の作品がベストに選ばれてしまいました。巨大になりすぎてしまったSFの足元で、物陰にこっそり隠れていた私の作品が、なんだか上を見るのに疲れた皆様の見おろした視線と合ってしまったようです。私にはこの上ない幸運と栄誉ですが果たして皆様にとってそれが本意でありますかどうか。ただこの皆様よりのこの上ない御支持に感謝いたします――とここで私本人よりも皆様の注目を集めている輩がなにやら横に立って――
「やあ、とりあえずはタイトルにもなっている者だ。ま、上で上遠野が言っていることはその通りなんでね、別にぼくがみんなの本当のベストだとは思っちゃいないよ。と言うよりも本当のベストというのは君の心の中にしかないのさ。一番になったものだけ拾っていけばそれでいいというほど世界は甘くないんだ。君は君だけのベストに出会うために、色々なものを見落としているってことを認識した方がいい。いや、本当に、君は数多くのものを見過ごしてきてしまっているんだぜ。気を付けた方がいい。それじゃ失敬」
 ――や、奴に喋りまくられて言うことがなくなってしまいました。ええと、そ、それでは私もこの辺で。皆様、本当にありがとうございました。上遠野浩平でした。


得点の詳細



各投票者の推薦作(50音順・敬称略)

赤尾杉 隆
 投票に参加させてください。新作を読んでる数が少ない中でですが。
『ドラキュラ戦記』キム・ニューマン……2点
 前作よりもドタバタになってしまった気もしますが、せつない感じのストーリーは健在ですね。
『タイム・シップ』スティーヴン・バクスター……1.8点
 スケールの大きい力作で傑作だと思いますが、たぶん僕がバクスターに期待しているのはこれとはちょっと違う ^^;
『ダークシーカー』K.W.ジーター……0.3点
 モダンホラーと思って読むと比較的短いというところが長所。
『そして人類は沈黙する』デヴィッド・アンブローズ……0.2点
 人工知能の解説本プラス、アメリカンエンターテイメント、それだけの話ですが、なんか「がんばったで賞」という感じで。
『匣の中』乾くるみ……0.1点
 これぞまさに驚天動地、いやそれ以上とも言える結末で、エントリせずにいられるわけがありません。

天川和久

1.『ループ』鈴木光司……1点
2.『ホーリー・ファイアー』ブルース・スターリング……1点
3.『スロー・リバー』ニコラ・グリフィス……1点
4.『ホログラム街の女』F・ポール・ウィルソン……0.5点
 1〜3は順不同。『レッド・マーズ』『タイムシップ』『ボーアメイカー』『スノウ・クラッシュ』はまだ読んでません。

 1:個人的にはまだ読み途中の『ブレインヴァレー』の瀬名秀明と共に"オルタナティブ・ジャパンSF"勢の活躍が印象深かったです。ループ3部作としてみるとストーリーテリング、強引なまでのアイディアは「ぬけぬけと」凄くて今後も期待させられました。
  2:(はじめて)すいすい読めたスターリング。この人が元気なのは嬉しいなあ。でも登場人物は紙芝居並みの演技力。ちょっと興ざめ。
  3:そこへいくとこっちの方が雰囲気は良い様に思える。冷えたフェミニズムSF。これも時代の変化でしょうか。2に比べるとたるい感じだが。
  4:浅倉久志さんは素晴らしいなあ。海外SF紹介における淀長さんともいうべき存在。

 ロックSF:イントロで期待した『時空ドーナッツ』は乗り切れず。(割合僕 はラッカーに乗れない)『ヴァスラフ』はピンクフロイドSFかと思ったらニジンスキーSFだった。

伊藤俊治

 投票については結構悩みました。評判になっていながら読んでない本が多い、というのが理由ですが。この年末年始にだいぶ固めて読んだのですが、追いつきませんでした。読んでない本には、『スロー・リバー』とか『ヴァスラフ』『弥勒』『ボーア・メイカー』などの大物があるので、98年度のベスト、と胸を張れないのがつらいとこです。
 ということで、私の投票は、

『レッド・マーズ』キム・スタンリー・ロビンスン……0.5点
『凍月』グレッグ・ベア……0.5点
『屍鬼』小野不由美……0.8点
『スノウ・クラッシュ』ニール・スティーヴンスン……1点
『ドラキュラ戦記』キム・ニューマン……2.2点

とさせていただいたいと思います。最後まで入れるかどうか迷ったのは、『タイム・シップ』、『虚数』の2点です。
 昨年のベストは多分『スノウ・クラッシュ』だと思うのですが、個人的な偏愛でキム・ニューマンの『ドラキュラ戦記』を押したいです(この作品、一応昨年末ですからいいですよね?)。『凍月』は去年の作品としたものかどうか迷いましたが、好きな作品なもので入れさせてもらいたいです。
『屍鬼』は日本作品では文句無しのベストでした。『ループ』『ブレイン・ヴァレー』『ハルモニア』は何か「日本SFの再発見」という感じがして「再発見」される前の日本SFを知っている身としては少し点が辛くなりました。もちろん、どれも優れた作品なのですが。
『レッドマーズ』ですが、いろんな意見がありましたが、私はいい作品だと思います。ちょっと中盤は「舞台が火星である必要があるのか?」とか思うところもありましたが、最後まで読み通してみると、やはりリアルな火星風景を堪能できたな、という読後感になります。読了後にはゴールディングの『蝿の王』を思い出してしまいました。ほんとはもっとうまくできた筈なのに、人間の持つ邪悪さのためにこうなってしまった……。

  『レッド・マーズ』に関連しての感想はこちらをご覧ください。
今中一時

 昨年はSFにかぎらず新刊をあまり読まなかったのでひかえめにいきます。

『凍月』グレッグ・ベア……1点
 ベアとしては水準作でしょう。
『大ハード』火浦功……0.5点
 火浦ファンとしては新刊が出ただけでも投票しなければというところです。表題作はSFしてましたし。

 残りの点は読まなかった作品のために捨てます。
 ちなみに私は『レッド・マーズ』はダメでした。『火星夜想曲』もダメだったので、もしかしたらSFファンではないのかもしれません。

タカアキラ ウ

『ブギーポップは笑わない』上遠野 浩平 (電撃文庫)……3点
 まさか、デビューしたその年に三作(四冊!!)も読めるとは思っていませんでした。本屋さんで見つける度に嬉しい悲鳴でした。今年の上遠野浩平さんのご活躍を期待します。
 高校生の変身ヒーローがでてきて、世界が破滅を免れる話。といってお友達に薦めると微妙に悔しがられます。ウソついてないのに。
『タイムクエイク』カート・ヴォネガット(早川書房) ……0.5点
『こちら異星人対策局』ゴードン・R・ディクスン(ハヤカワ文庫) ……0.5点
『ホログラム街の女 』F・ポール・ウィルスン(ハヤカワ文庫) ……0.5点
『極微機械ボーア・メイカー』リンダ・ナガタ(ハヤカワ文庫) ……0.5点

 投票しなかったけれどもなんとなく名前をあげておきたい本『エドガー@サイプラス』:)
漆戸 朗夫

 今回、初めてこちらに投票することにして何に一番悩んだか、というと、あえて人と違う作品を選ぶか、同じ作品を選ぶか、ということでした。
 が、やはり好きな作品が評価対象にないというのに耐えられず、人と違った作品に投票していきたいと思います(笑)
『ランポ』上山徹郎(小学館)……4.9点
『おまかせ!ピース電気店』能田達規(秋田書店)……0.1点

 以上、2作品です。
 実はこの作品、2作品とも漫画で、連載開始は97年以前で、未だ連載中、という反則気味な投票対象なのですが(笑)他に投票したい作品はどうやら私が投票しなくてもランキング入りしそうですから、まぁ、大丈夫かな、と思いますのでこれらに投票することにしました。
 『ランポ』については作品内で何の説明もなくロボットが自我を持っている辺りや、統京タワー(誤植にあらず)のデザインなど、センスオブワンダーな感じがたまりません。
 『おまピー』については『未来さん』と同様に技術系SFとして楽しめる作品だと思います。(まぁ、以前やっていた『我楽太屋某』とかぶるネタが幾つかあるのが玉に傷ですが)
『王ドロボウJing』熊倉裕一(講談社)
 最後に推薦作として、こちらをあげておきます。
 最近は今一つ、絵柄が私の好みから外れて行っている気がするので今回は票を入れませんでした。(大体、2〜4巻辺りが一番のお奨め)

大熊健朗(Bookmeter

『ホログラム街の女』 F・ポール・ウィルスン ……2点
『セレーネ・セイレーン』とみなが貴和 ……1点
『レッド・マーズ』キム・スタンリー・ロビンスン ……1点
『スノウ・クラッシュ』ニール・スティーブンスン ……1点
 どうも、自分は、物語全体よりもどこか気に入ったシーン、あるいはキャラクターがあれば読んでいて幸福になれる傾向にあるようです。上記の本も文句をつけようと思えばつけられるんだけど、とにかく楽しめた作品でした。

 他、印象に残った本として
『三つの小さな王国』
『疾風魔法大戦』
『ブラック・ローズ』
『死霊たちの宴』
『語り手の事情』
『図書館戦隊ビブリオン』
 を挙げておきます。

岡元訓@電猫庵(http://www.oden.or.jp/kokol/

1.『未来さん』新谷明弘……3点
 雑誌連載のときから大好きな作品でした。バレンタインの回は(ネタ的には新しくないかも知れませんが)センス・オブ・ワンダーを感じるバカSFだと思っています。思わず書店で大笑いしてしまいました。
2.「ワルツ」牧野修(異形コレクション「変身」所収)……1点
 あまりにも美しい物語。いくらグロテスクでも牧野修の読感はやはりホラーではないと思います。(これがSFかと問われると難しいところもありますが)
 今年で印象に残った短篇を挙げるとこれになります。
3.『極微機械ボーア・メイカー』リンダ・ナガタ……0.5点
4.『時空ドーナツ』ルーディ・ラッカー……0.5点
 すっきり楽しく読めるSF。そんなような話が日本SFでもっとたくさん書かれて欲しいです。

Hiroshi Obata

『ブギーポップは笑わない』上遠野 浩平 (電撃文庫)……5点
 SF者としては抵抗がないわけじゃないんですがんですが私にとって今年最大の収穫でした。書店で見たときにマジでオーラのようなものを感じましたです。

かつきよしひろ@ファンタジア領/大市大SF同好会(http://www.page.sannet.ne.jp/ykatsu/

『スノウ・クラッシュ』ニール・スティーヴンスン(アスキー出版局)
『タイム・シップ』スティーヴン・バクスター(ハヤカワ文庫SF)
『ブギーポップは笑わない』上遠野浩平(電撃文庫)
『鍋が笑う』岡本賢一(朝日ソノラマ)
『グランド・ミステリー』奥泉光(角川書店)
 各1点。
 SF研に入ったばかりで嗜好が読めない新入生に、「最近おもしろかった本を5冊貸してください」と聞かれたら。そんな気分で選んでみました。この中のどれがヒットするかで、今後の指導方針を決めようかな、という(笑)。
 個人的には、『虚数』や『レッド・マーズ』なども楽しんだのですが、新入生に勧めるにはいささかリスクが大きいかと思い、外しました。

 この他で印象に残ったもの(すでに推薦されているものは除く)としては、
『ぶたぶた』矢崎存美(廣済堂出版)
『こんなに緑の森の中』谷山由紀(ソノラマ文庫)
『千の夜の還る処』ひかわ玲子(富士見書房)
 などがあります。

加藤逸人

「よし,来年は絶対投票するぞ」と思いながら、久しぶりにSF/ファンタジー関係の本をまとめて読みましたので、98年は私にとって充実した1年でした。ただ、出版されたばかりの本中心というわけにも行かず、日本作家の作品は比較できる程読むことができなかったため、下記の選択となりました:
『レッド・マーズ』キム・スタンリー・ロビンスン (創元SF文庫)……1点
『スノウ・クラッシュ』ニール・スティーブンスン (アスキー出版局)……1点
『ホログラム街の女』F・ポール・ウィルスン(ハヤカワ文庫SF) ……1点
 『レッド・マーズ』、『スノウ・クラッシュ』については、どちらかといえば私にとっては苦手なタイプの作品で、好みという点では外れるのですが、その力強さは如何とも否定しがたく、98年を代表するにふさわしい作品だと思います。
 『ホログラム街の女』については、もう古いのかなと思いながらも、好きだったという印象が強く残っていますので、逆に好みのみで選択しました。
 トータルで3点となりますが、あまり点を集中させたくないこと、及びもう少し選べる作品があってもよかったのではないかという気がすることより、残り2点は保留とします。
 ただ、これだけでは自分が選んだと思えないほどオーソドックスで、不本意感が残りますので、蛇足ですが昨年読んだ本という条件のみで選んだ好みのリストを付記します:
メアリ・ドリア・ラッセル,'THE SPARROW'
ジョージ・R・R・マーティン,'THE GAME OF THRONES'
イアン・ペアーズ,'AN INSTANCE OF FINGERPOST'
 これがベスト3となります。(以下、コメントはこちらをご覧ください

川島 秀一

 今年もあまり読めなかったので、話題作も未読のものが多く、自分でもこれがベストか自信はないです。『レッド・マーズ』もやっと上巻を終えたところです。単純に楽しく読めたものを選びました。
『タイム・シップ』スティーヴン・バクスター ……1点
『スロー・リバー』ニコラ・グリフィス ……1点
『ホログラム街の女』F・ポール・ウィルスン ……1点
『ループ』鈴木 光司 ……1点
『時空ドーナツ』ルーディ・ラッカー ……1点

 楽しく読めたという点では次点として、
『イエスの遺伝子』マイクル・コーディ
 が、印象に残っています。
喜多哲士(喜多哲士のぼやいたるねん

 今年も投票しようとあれこれひねくったのですが、面白い作品がたくさんあって決めかねてしまい、今日までのびてしまいました。
『水霊 ミズチ』(田中啓文)角川ホラー文庫 ……2点
『グランド・ミステリー』(奥泉光)角川書店 ……2点
『セレーネ・セイレーン』(とみなが貴和)講談社X文庫ホワイトハート ……1点
『水霊 ミズチ』は『石の血脈』(半村良)を彷佛とさせる伝奇SFの傑作。ラストで腸が暴れまわるシーンなど、SFならではのイマジネーションではないでしょうか。
『グランド・ミステリー』はSF、文学、ミステリーをクロスオーバーさせ、かつ完成度も高い。こういう作品がSFプロパーから出てこないのは残念。
『セレーネ・セイレーン』はここまでストレートにSFを書いてくれる新人が出てきたということで興奮してしまったほどです。
 ほかにも、『蚤のサーカス』(藤田雅矢)、『鍋が笑う』(岡本賢一)など点を入れたいんですけど、5点の制約は辛いなあ。
『ブギーポップは笑わない』は、確かにヤングアダルトの新人としては水準以上のできだと思います。でも、ベテランたちの作品をおしのけるほど優れた作品かというと、ちょっと疑問符をつけたくなります。SF的な面白さでは同じ新人ならやはり『セレーネ・セイレーン』のほうが上ではないでしょうか。

 今年も既に「やみなべの陰謀」(田中哲弥)などベスト候補に入れたくなる作品が出てきてます。

玄海の海坊主(大井俊朗)

 今回こそはと思っていたのですが、昨年は古い本ばかり読んでしまっていることについ最近気が付いてしまいました。評判になっている本、特に国内ものを読んでいません。
 その狭い範囲で私の「ベストSF '98」を表すと以下のようになります。
『スロー・リバー』ニコラ・グリフィス……1.5点
『ブラック・ローズ』ナンシー・A・コリンズ……1.5点
《異形コレクション》井上雅彦編……1.0点
『極微機械ボーア・メイカー』リンダ・ナガタ……0.5点
『神の目の凱歌』ニーヴン&パーネル……0.5点
 『スノウ・クラッシュ』を読んでいないのがちょっと痛いですが、これでお願いします。

小泉 浩子(EZV07413@nifty.ne.jp

『クロスファイア』宮部みゆき (カッパ・ノベルス)……2.5点
 わたしはデビュー以来、宮部さんの大ファンです(自分が作家デビューした後、お知り合いになり、彼女と綾辻行人氏と三人で徹夜カラオケをやるのが夢、なんて口がさけても言えない)。
 美貌のファイアースターターである主人公。彼女は正義漢であるが故に不幸になっていきます。ネタばれなので詳細は書かないけれど、最後にいくにつれて読んでいくのがつらくなりました。
 本書には作者初の濡れ場もあったし、透明感にあふれているにもかからず、とても色っぽいお話だと思います。
 去年はこれで年越ししました。
《異形コレクション》井上雅彦編 (廣済堂文庫)……2.5点
 星新一さんで小説に開眼した身としては、このような短編集はもう涙モノです。ずーっと続くといいのに。
 ちなみに、作品の一般公募があったら、絶対投稿したいです。
 >どうですか。井上さん?

齋藤 聡(http://www.imasy.or.jp/~saitou

『未来さん』新谷明弘 (アスペクト)……5点
 「懐かしい未来」という懐かしいフレーズがありましたが、そんな雰囲気です。人工生命、冷凍睡眠、AIなどのガジェッ トは目新しいものではないのですが、作者の興味はガジェットそのものよりも、ガジェットを生み出そうとする、その背景に向けられているようです(第7話「初夢」)。
 雑誌連載の連作集であるためか、一話一話は雰囲気としてのSFにとどまり、読み手に深い洞察をうながすような作品には仕上がっていません。逆に最終話はその埋め合わせをしているのですが、反面、お説教くさくなってしまっていて少し残念です。
 はじめて読んだ本が『ぐりとぐら』ではなく『ヴァリス』であるようなディープなSFファンには物足りない作品だとは思いますが、あまりSFを知らない(あるいは誤解している)人に対する「技術系SF」の入り口としてとても良い作品だと思いました。
(作者自身が「技術系SF」と言ったわけではありません)

斎藤 樂(http://www.cyberoz.net/city/nonoi/

『国立博物館物語』岡崎二郎(小学館)……2点
『語り手の事情』酒見賢一(文藝春秋)……1.5点
『ベクフットの虜』野尻抱介(富士見書房)……0.5点
『ヴァインランド』トマス・ピンチョン(新潮社)……0.5点
『2999年のゲーム・キッズ』渡辺浩弐(ソニー・コンピュータ・エンターテインメント)……0.5点

番外:『名探偵に薔薇を』城平京(東京創元社)

 岡崎さんはあいかわらず、クオリティの高い作品をコンスタントに出し続けてくれていますね。「いのちのバラ」など「これがSFの力です!」とSFファンとして胸を張って人に奨められます。
 他の配点はかなりのせめぎあいの結果こうなりました。
 酒見さんは素晴らしすぎます。読んでいる間声をあげて笑いっぱなし。氏の言う「なんでもあり」のたくらみをたっぷりと堪能させてもらいました。
 例によって無効票覚悟でPlayStation COMIC『2999年のゲーム・キッズ』を入れておきます。とにかくよくできてますから。
  (SFオンライン賞にゲーム部門がないことへ不服の意志表示をする意味も兼ねて。ゲームレビューの連載ページがあるのにこれはどうかと思います……ってここで言っても仕方ないですね)

十三 まりい

『ダスト』チャールズ・ペレグリーノ(ソニー・マガジンズ)……3点
 私自身が大学で生物化学を専攻していたからでもあるのですが。
 この分厚さで1800円という値段につられて買いましたが意外に大当たりでした。著者の知識を見せ付けられている感はありますが、私はそれが嫌ではなかったです。
 SFが文学、社会学、科学、工学等を統合する分野だとするならばある程度の知識 がないと異世界の構築は不可能だと思いますし。映画にはなって欲しくない作品。
『凍月』グレッグ・ベア(ハヤカワ文庫)……1点
『火星転移』もよかったのですが、私はこちらのほうが好きです。
『山椒魚戦争 新装版』カレル・チャペック(ハヤカワ文庫)……1点
 奥付は98年ですがこれがありかどうか。久々にSFってのはこのパワーなんだよ!! と思いました。
 最近は日常のささいな不思議な出来事を書いていればSFっていう扱いなので。現実世界と言う舞台では描けない現実を異世界を用いて書いてこそSFだと。

 山椒魚戦争 が駄目な場合は『奇跡の少年』オーソン・スコット・カード(角川文庫)に1点お願いします。続編もあるみたいですし、まだ私自身評価の定まらないところではありますが。

 (森下註:『山椒魚戦争 新装版』への投票は有効とします)


高川 朋和(http://www.pp.iij4u.or.jp/~tomotaka/

『スノウ・クラッシュ』ニール・スティーブンスン (アスキー出版局)……2点
 好き嫌いは別にサイバーパンクの方向性がネットだけに留まらずに文系との接触が会った点を評価すべきかとも思いました。もっとも日本人は中東古代史には余り興味なくて難しいかもしれないですね。
『オルガニスト』山之口洋 ……0.5点
  期待が大きかっただけに1点は遠慮します。最近の文芸では音楽のそれなりに深遠なところを利用した作品が多いですが、これも一般的にどこまで受け入れられるか疑問です。
 
 ハードSF等は理系知識だけで楽しめますが、文系知識も必要な作品が増えていることはSFの地位向上にはいいことなのだと信じますが、読者の先鋭化が進むだけなのでしょうか?
高橋征義(北大SF研OB)(http://www.inac.co.jp/~maki/

『ブギーポップは笑わない』上遠野浩平(電撃文庫)

 駄目だと思うところは多々あるのですが、向きは正しいと思うので。でもこの作品以降はちょっと評価できないかもしれない。つらい。
『量子宇宙干渉機』J.P.ホーガン(創元SF文庫)

 今年出た「造物主の選択」に比べるとずっと落ちるような気もしてきたのですが(^^;、 でもこれはこれで買いたい。
『Jの神話』乾くるみ(講談社)

 ふと入れたくなりました。なんていうか、怪作。ふつうのミステリ読みにはちょっと勧めにくいのですが、変わったSF読みには推せます。
「沈黙のフライバイ」野尻抱介(Sony Communication Network Corporation)

 (↑版元はこれでいいのでしょうか?)
 内容はもちろん、配布形態、作品の傾向、そしてそれが出来上がる過程を含めて。ラストはちょっと逃げられたような気分もあるのですが、それもうまさの一つではあるかも。

高橋由巳子(http://www2n.meshnet.or.jp/~yumiko/

「子供の領分」菅 浩江(異形コレクション『侵略!』廣済堂文庫所収) ……2点
『スロー・リバー』ニコラ・グリフィス(ハヤカワ文庫)……1点
『椰子・椰子』川上 弘美 (小学館)……1点
『ループ』鈴木 光司……0.5点
「果実のごとき」岡本 賢一(異形コレクション『悪魔の発明』廣済堂文庫所収)……0.5点
タニグチリウイチ(谷口隆一)(http://www.asahi-net.or.jp/~WF9R-TNGC

『グランド・ミステリー』奥泉光(角川書店)
『E.G.コンバット』&『E.G.コンバット2nd』原作・イラスト・☆よしみる、著・秋山瑞人(メディアワークス)
「けものがれ、俺らの猿と」町田康(〈文學界〉98年4月号掲載、単行本『屈辱ポンチ』に所収、文藝春秋社)
『Alice Brand』町田ひらく(コアマガジン)
『パトリオット騒乱伝』海原織江(鳥影社)

各1点。
 これがベストというより初物にして仰天させられた品々を選びました。
 奥泉さんだけは別。あの長さを息をも付かせず読み切らせる密度に仰天させらた故の推薦です。
  補足すれば『E.G.コンバット』シリーズは落ちこぼれ部隊を叩き直す教官と生徒の成長物語の殻を被せて謎めいた侵略者とのハードな闘いを描く筆の冴えに仰天。
 町田康さんの「けものがれ、俺らの猿と」は冴えないシナリオライターが映画プロデューサーの仕事を受けて産廃施設の取材へと赴き云々、といった導入がシュールな世界へと移り変わっていく展開に仰天。同じ町田でも漫画家の町田ひらくさんは美少女エロ漫画として”役に立つ”一方でそれを必然として物語世界に取り込みファンタジックだったりホラーだったりする世界を見せてくれていて仰天。
 海原織江さんは会話の妙と展開のヨコジュン的ハチャハチャぶりの懐かしさに仰天、とは言え滅多に売ってないから探すの大変ですが。

 他にも例えば『なるたる』(鬼頭莫宏、講談社アフタヌーンコミック)なんか『ヴァンデミエールの翼』から一転してポップな雰囲気になった中に異星人とのコミュニケーション&バトルが絡まって先行き面白そう。
 ガロっぽいレトロでシュールな世界を描いたホラーともファンタジーとも言えそうな『サイコグラフィア』(石村里沙、偕成社)も仰天の逸品でした。
 漫画ばっかりついでに去年はMEIMU爆発の年、小林泰三の原作を下敷きに独自の絵の世界で怖さ倍増しな『玩具修理者』(角川書店)とか今評判のアニメをコミック化した『ガサラキ』とか店頭にて絶賛好評発売中な鈴木光司さん原作の『リング2』とかいろいろ。今年も活躍が期待できそうで大昔からのファンとしては嬉しい限りです。

たろう(http://www.vector.co.jp/authors/VA005631/

「沈黙のフライバイ」野尻抱介(SF-Online)…… 5点
『ヴァスラフ』や『三つの小さな王国』『虚数』『タイム・クエイク』『ベクフットの虜』などなど、 ほかにも投票したい作品は数多くありました。
 しかし、SFということであれば、SFの使命、SFの力、SFの意義、SFの到達点、などということを多いに感じさせてくれたこの作品に投票しないわけには行きません。
 「沈黙のフライバイ」はオンラインでのPDFファイルという出版形態のためにあまり多くの人に読まれていないのではないかと危惧しております。この作品が名作であるということをより多くの人に知らしめたく思い、この作品にのみ5点とさせていただきました。

辻久仁子

 数少ない中で票を入れてもいいのだろうかという思いもあるのですが。(上位の方に並んでいる作品を読んでないんですよね。)
 やっぱり続けて投票することにも意味があるようなないような。と、いうことで投票しようと思いました。
 なかなか、偶然これはと思う作品にはSFに限らずなかなか出会わないものですね。
『ループ』鈴木 光司……2点
 やはり印象深かったところでこれでしょうか。
 『らせん』はホラーだったと思う。3冊あわせて『ループ』でSFになったところが、非常に興味深い。
 『らせん』を初めて読んだときこんなホラーがあるとは思わなかった。妙に気持ち悪くてそのくせ最後まで読まずにいられなくて。読み終わってもなんか気持ち悪さが残っていてて。
 『BRAIN VALLEY』とだぶる分どうしても物語の完成度がたかい『ループ』の点数が高くなる私です。
 近頃はメディアでもいろいろとアレンジされてますしね。これからもリングワールドは拡散していくんでしょう。『バースディ』もリングワールドなんですか。まだ読んでいないもので。
『スロー・リバー』ニコラ・グリフィス……1点
 設定が好きで物語の進行も好きなんですけど。最後で一人の少女の話に回帰してしまったところがよいのか悪いのか。個人的にはもっと下水処理場のシーンをからめてエンディングへというのを期待したんですけど。
 以上です。
 あと、興味あった作品。

『終末のプロメテウス』
 設定は好きなんですけどその分ストーリーが盛り上がらなかったところがつらい。
『アウストラロピテクス』
 これってSFですか。
『タイム・リーパー』
 これも文庫化に際して読んだ名作。
 文庫は98年出版なんで点数を入れてもいいのでしょうか。
 単行本の時には読んでなかった訳なのですが、やっぱうまいなあって感じでした。実はタイムトラベルものってのは読んでる方がつらいなあっておもうことがおおいので読ませるという点においてすごいなあと思ったわけです。
『ハルモニア』
 これもSFですか?
 これもドラマになりましたね。そう、その時間帯でやっている今のドラマもSFです。「懐かしい未来のために」だっけ。タイムトラベルもの。結末が納得できるものになるのかどうか。原作付かどうかはよく分かりません。

Noda Reiko(野田 令子)(http://www.geocities.co.jp/Technopolis/1857/

 ことしは、「これぞ!!」という作品には巡り合えませんでしたが、良質の翻訳SFを沢山読む事が出来、個人的には大変満足でした。未読の『BRAIN VALLEY』に、『ループ』、《異形コレクション》と、国内作品も粒ぞろいでしたので、5作品に絞り込むのはとても大変な作業でした。
『量子宇宙干渉機』J・P・ホーガン(東京創元社SF文庫)……4.9点
 他に誰も入れてくれそうにないので。冷静に考えれば昨年度のNo.1ではないような気がするのですが、あのホーガン久々のSFというだけで私的には5点差し出したい気分です。
『沈黙のフライバイ』野尻抱介(SFオンライン)……0.1点
 電子出版も出版なのか判断に迷いましたが、とりあえず1票。私はこういう『SF』を読みたかったんです!
 もし電子出版物が不可でしたら、0.1点はホーガンにまわして下さい。(森下註:電子出版OKです)
『タイム・シップ』スティーヴン・バクスター(ハヤカワ文庫SF)
『屍鬼』小野不由美 (新潮社)
『大ハード』火浦功(角川スニーカー)
 ……各0点
 バクスターは、個人的好みを別にすれば、翻訳された中で一番の傑作でしょう。読みやすく、かつ壮大な物語。これならば過不足なく楽しむ事が出来ますし、他人に安心して勧められるバクスター、ということで1票。
 屍鬼は待たされた挙げ句のどでかい一発で、『SF』ではなく『ファンタジー』の範疇に入ると思うのですが、一応お医者さんが「科学的」アプローチを試みるので、無理矢理SFにしてみました。小野さんは完全に「世界」を造り上げ、完膚なきまでにその世界を描き出し、世界を手のひらで転がしてしまう力量のある作家だと思っておりますし、それゆえに私にとって『SF』な感触を与えてくれる作家なので、SFとしても楽しめるかも……。
 火浦さんは、出ただけでもういいです。……これが本編なら点数をあげてもよかったんですけど……ガルディーンも番外編だけが出るシリーズの仲間入りかと思うと哀しくて……。
 次点が、上巻がなければよかった『レッドマーズ』です。
 といったあたりです。

 99年は早くも『造物主の選択』『スタープレックス』『チグリスとユーフラテス』と立て続けに名作に出会っていますので、今世紀中は幸せな気持ちで居られそうです(……あと1年10ヶ月ありますけど、ホーガンの翻訳も新井素子の新作も、今世紀中にはでない可能性が高そうですから)。

林 哲矢@不純粋科学研究所(http://www2s.biglobe.ne.jp/~ttsyhysh/

『レッド・マーズ』を読み終わってからと思っていたら、締切り当日になってしまいました。
『時空ドーナツ』ルーディ・ラッカー……4点
《異形コレクション》井上雅彦監修……1点
 満足度を反映しているわけでも、評価を反映しているわけでもない戦略的な投票です。まあ、この三日の駆け込み投票で、この程度の操作は見えなくなってしまうと思うのですが。
『時空ドーナツ』はビジョンの壮大さと下品さを同居させてしまう、ラッカーの軽さに敬意を表して、《異形コレクション》は単純にその企図の壮大さに敬意を表しての投票です。

 昨年の収穫を他に上げると『スノウ・クラッシュ』「GOLEM XIV」などでしょうか。オールタイムベストクラスと言い切れる作品には出会えませんでしたが、平均点が高かった年だったと思います。
 来年も傑作に出会えますように。

ひらやま ひろゆき(http://www.asahi-net.or.jp/~fq4h-hrym/

『ベクフットの虜』野尻抱介(富士見ファンタジア文庫)……5点
 ひいきの引き倒しといわれようが、今年はこれ。「野尻さんに全部」です。このラストはやはり絶品です。

(次点……配点0)
『量子宇宙干渉機』ホーガン
『終末のプロメテウス』アンダースン&ビースン
『クロスファイア』宮部みゆき
『SF大百科事典』クルート
# どれも捨て難いのですが……
細井威男(http://www.fan.gr.jp/~hosoi

『スノウ・クラッシュ』ニール・スティーブンスン(アスキー)……1.75点
『ヴァスラフ』高野史緒(中央公論社)……1.75点
『タイム・シップ』スティーヴン・バクスター(ハヤカワ文庫)……0.8点
『未来さん』新谷明弘(アスペクト)……0.5点
『時空ドーナツ』ルーディ・ラッカー(ハヤカワ文庫)……0.2点
 今年はサイバーパンク系で良い作品が揃ったように感じられます。
 他に印象に残った作品としては、
ニコラ・グリフィス『スロー・リバー』 (ハヤカワ文庫)
上遠野浩平『ブギーポップは笑わない』 (電撃文庫)
奥泉光『グランド・ミステリー』 (角川書店)
遠藤浩輝『EDEN(の独立した中篇として読むことのできる第1話)』(アフタヌーンKC)
があります。
堀田伸二
『ブギーポップは笑わない』上遠野浩平……3点
『ベクフットの虜』野尻抱介……1点
『RAGNAROC』安井健太郎……0.5点
『星界の戦旗』森岡浩之……0.3点
『図書館戦隊ビブリオン』小松由加子……0.2点
masaki@mailhost(http://www.mailhost.net/~masaki/

『E.G.コンバット 2nd』原作・小説原案: ☆よしみる / 著: 秋山瑞人(電撃文庫)……1.5点
 これはすごい。ギャグあり、涙あり、スリルあり、SFあり、美少女あり(^^)でとにかく面白い。特に一作目、ネットワーク侵入者を追跡する場面は秀逸。二作目後半のSFネタもよく想いついたものだと思う(前例があるかどうか知らないが)。去年読んだヤングアダルト系では間違いなくベストワン。三作目が待ち遠しい。

『吉原天災騒動記 化け猫じゃらし』高橋夕樹(富士見ファンタジア文庫)……0.5点
 ネットワークが普及した江戸の町が舞台の小説と聞き期待して読んでみたが、ストーリーがいまいちかも。設定やキャラクターは良いのだが。誰か江戸時代のサイバーパンクものを書いてくれ〜。

『虚船-大江戸攻防珍奇談』松浦秀昭(朝日ソノラマ文庫)……1点
 で、同じ江戸時代もの(?)ならこちらが面白かった。江戸を襲う未確認飛行物体に、からくりの技術を駆使して対抗する幕府の秘密組織。江戸の技術をどう応用するのか、読んでいて楽しい。

『Jの神話』乾くるみ(講談社ノベルス)……1点
 講談社のメフィスト賞で初めての当たりの作品(だと思う)。最後の種の未来に関する記述がなければ単なる変な話で終わっただろうが、これがあるから後半の展開に必然性が出てくる。

『ベクフットの虜』野尻抱介(富士見ファンタジア文庫)……1点
 少年・少女向けでありながら熱いSF魂を持っている、数少ない作家だと思う。これもラストで話が全宇宙規模に展開したのには仰天。志が高い作品。

 以上、『Jの神話』以外はすべてヤングアダルト向け。他のおすすめは、いよいよ残すところ1巻となった『西の善き魔女』シリーズ(荻原規子 / C NOVELS Fantasia)、完結したデルフィニア戦記(茅田砂胡 / C NOVELSFantasia)、『ブギーポップ』シリーズ(上遠野浩平 / 電撃文庫)など。『ペリペティアの福音』 上・中(秋山完 / ソノラマ文庫)は下巻の内容によってはとんでもない傑作になるかも。

水谷(M)(http://fame.calen.ne.jp/~solitair/

『時空ドーナツ』ルーディ・ラッカー……3点
『そして人類は沈黙する』デヴィッド・アンブローズ……1点
『ゲノム・ハザード』司城志朗……1点
溝口哲郎(http://www.mita.keio.ac.jp/~h9703313/index.html

 ベストSF投票、今年も投票させていただきます。今年は古い作品ばかり読んでいたので新作という新作(特に海外)は読んでいないので多少不安がありますが、日本人中心でとりあえずベストSFを選んでみました。
 #ハルキ文庫から出ている作品群はとりあえずはずしました。
『オルガニスト』山之口洋(新潮社)……1点
『青猫の街』涼元悠一(新潮社)……1点
『肉食屋敷』小林泰三(角川書店)……1点
『ダブ(エ)ストン街道』浅暮三文(講談社)……1点
『電子恐慌』藤原征矢(KSS出版)……1点
 という感じです。ホラーというテイストの本も数冊あるのですが、今年は日本人作家の作品がとても面白かったように思えます。
 今年はファンタジーノベル大賞があたりだったので、来年度も再び期待したいところです。
 最後の藤原氏の作品は好みがわかれるところです。

向平真

『PURE TRANCE』水野純子(イーストプレス)……3点
『ヴァインランド』トマス・ピンチョン(新潮社)……1点
『ランニング・ワイルド(邦訳タイトル:殺す)』J・G・バラード(東京創元社)……0.5点
『オルガニスト』山之口洋(新潮社)……0.5点
コメントはこちら

椋野直樹(空想小説ワークショップ元受講生)

『私の居場所はどこにあるの?』藤本由香里(学陽書房)……2・5点
『WATCHMEN日本語版』アラン・ムーア作/デイブ・ギボンズ画(メディアワークス)……2点
『フリッカー、あるいは映画の魔』セオドア・ローザック(文芸春秋)……0・5点

 反則のメディア部門〜戦後洋・邦画SF映像ベスト1〜

『ガメラ3―邪神覚醒―』予告編

 ワースト
『ループ』鈴木光司(角川書店)……4点
『グランド・ミステリー』奥泉光(角川書店)……1点
  この企画に参加される方々は、何よりもSFを愛しているんでしょう。並んでいるものを見て頂ければ分かるように、ぼくはSF者ではありません。ま、コアな方々の中にイロモノが一人くらい混じっているのも一興かと見過ごして下さい。
 で、98年度マイベストSFは映画『クレヨンしんちゃん 電撃!ブタのヒヅメ大作戦』などと書くと石を投げられるか。前半007張りの活劇が、クライマックスでは邦画空前の壮大かつばかばかしいパワフルなサイバーパンクに。しかもSFでしか描けない、泣けるシーンのみだれ撃ち。ガキ向けのアニメと侮って見逃したら損だよ。
 『私の居場所はどこにあるの?』はアクチュアルな少女マンガ評論としても、SFマンガ評論としても現時点で最高のもの。今さらではあるけれども『エヴァ』を少女マンガの影響化にあるとした分析も興味深く、そこから帰結する結びの言葉に涙した。
 『WATCHMEN 日本語版』、何だかんだ言っても『新マン』世代としては(悩める)ヒーローものが好きなわけで。しかし、正義と平和の行き着いた処はファシズムか…。10年待った甲斐がある凄絶な傑作、文句なし。
 『フリッカー、あるいは映画の魔』は、すんません、どうしたってSFじゃない。幻想やホラーテイストもないわけでもないが、所詮映画ヲタクのための伝奇小説よ。作者の仕掛ける悪意とハッタリとディティールの数々ににつっこみをいれつつ笑って読むのが映画ヲタクとして正しい方法なので、どうしてミステリーの1位なんかになるかね。壮大でマニアックな(面白い)バカ話だから、SFに入れてもいいか。
 『GV』の予告は暮れに観て、劇場で涙が止まらず。これだ、この黙示録なイメージと掟破りの連続。これが観たかったんだ。本編がどのような結末を迎えようと、この映像だけでも充分だ。『SW1』の予告が軽くふっ飛んでしまったぜ。
 ワーストの『ループ』は広げた風呂敷を閉じるためだけに、SFへすり寄った愚劣なニューエイジもの。『グランド・ミステリー』は期待した分、がっかりしたと言う意味で。映画で百回は観たベタベタなイメージの中盤の時間めぐりシークエンスで、緊張感がプツッと。
 すいません、許してもらえるなら次回は、きちんとSF読みます。ちなみに映画ベストは『LAコンフィデンシャル』『ニルヴァーナ』、ワーストは『スターシップ・トゥルーパーズ』『ディープ・インパクト』『愛を乞うひと』『HANABI』ああきりがない。

本橋牛乳

『電報』プトゥ・ウィジャヤ(めこん)……2点
『スロー・リバー』ニコラ・グリフィス(早川書房)……1点
『殺す』J・G・バラード(東京創元社)……0.5点
『時空ドーナツ』ルーディ・ラッカー(早川書房)……0.5点
『ゼロ戦』パスカル・ローズ(集英社)……0.5点
『電報』は、インドネシアの小説で、SFとはいいがたいかもしれませんが、ディックの小説のように、何が現実なのかをわからなくさせるものがあるます。しかも、ディックの場合、幻想の中に飲み込まれていくというものですが、ウィジャヤの場合、むしろ主体的に主人公が幻想を語り、読者自身が何が事実なのかわからなくなるという、そういう幻惑を感じさせてくれます。しかも、章ごとに読者はだまされ続けるという。その感触はポール・オースターに近いものもあります。そんなわけで、この小説にすっかりだまされたぼくは、やはり昨年のベストに選んでおこうと、そういうわけです。
『スロー・リバー』はとても開放的な気分にさせてくれるレズビアン小説。でも、何でレズビアン小説を読むとそう感じるのか、うすうす気付いてはいるのですが。

森下一仁

『グランド・ミステリー』奥泉光
『タイム・シップ』スティーヴン・バクスター
『レッド・マーズ』キム・スタンリー・ロビンスン
『スノウ・クラッシュ』ニール・スティーブンスン
『WATCHMEN 日本語版』アラン・ムーア作、デイブ・ギボンズ画
森山和道(moriyama@moriyama.com独断と偏見のSF&科学書評

『ホーリー・ファイヤー』ブルース・スターリング
『イエスの遺伝子』マイクル・コーディ
『クロスファイア』宮部みゆき
『ハルモニア』篠田節子
『天使の囀り』貴志祐介
 ちょっと悩みましたが、まあ諸々の点から考えてこの5作に。
 最近は、「そのまんま映画」みたいな小説が増えてきました。これには良い点も多いのだが、欠点もまた多い。
 今年(1999)はあっと驚くような、なおかつSFな作品を期待したいところです。

依光 秀志

《異形コレクション》井上雅彦・監修……3点
 やはり、この短編シリーズの功績は大きいと思います。ただの寄せ集め短編集などとは違って、毎回、かなりマニアックなテーマなのも楽しみ。参加している作家さん自身も楽しみつつ、真剣勝負で書いているのが伝わってきます。お手頃な価格で、充実の中身……嬉しいことです。

 その他、以下の作品に1点ずつ。
『ホログラム街の女』F・ポール・ウィルスン……1点
『スロー・リバー』ニコラ・グリフィス……1点
匿名(1)

《異形コレクション》井上雅彦編(廣済堂文庫)
『タイムクエイク』カート・ヴォネガット(早川書房)
『スロー・リバー』ニコラ・グリフィス(早川文庫SF)
『ダブ(エ)ストン街道』浅暮三文(講談社)
匿名(2)

『スノウ・クラッシュ』ニール・スティーブンスン (アスキー出版局)……5点
匿名(3)

『クロスファイア』宮部 みゆき……2.0点
『レッド・マーズ』キム・スタンリー・ロビンスン……1.5点
『アヴァロンの戦塵』ラリー・ニーヴン/ジェリー・パーネル/スティーヴン・バーンズ……1.5点
 今年文庫化されたものでもよければ、『夏の災厄』篠田節子に5.0点としたいところなのですが……。

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